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霹靂‐へきれき‐のシルト  作者:


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断罪


「どこまで行くんだ?」

泊まっている宿屋の建物を抜け、外に出たところでクァズは支配人に尋ねた。



「特別室は、庭園の奥にございます。あちらに…」

支配人が指さした先にはこじんまりとした建物が見えた。古そうだが中々に立派な離れだ。



「ギルド長は、クァズ様に相応しい場所をとご希望され、あちらとなりました」

「わかってるじゃないか」

クァズは支配人の言葉に機嫌が良くなり大人しく支配人の後に続く。



特別室と呼ばれる建物に入ると、外観に似合わず質素な室礼しつらいの部屋にはソファセットがあり、真ん中にギルド長のグスタフ、その両脇に副ギルド長、記録係が座ってクァズ達を出迎えた。ギルド長達が座るソファの後ろにはマントを着た護衛と思われる男が2人立っていた。



「ごゆるりと…」

そう言うと、支配人はクァズの後ろの扉を外から閉じた。




記録係にグスタフの対面に席を勧められ、クァズはちょっとムカついた。


領都のギルドに迎えられた時、ギルドの対応は思っていたよりあっさりだった。ギルドに着いたのが夜だったとはいえ、知らせが入っているはずなのにロビーでたむろする冒険者達に紹介もなく、ギルド長との短い面会だけ。到着を華々しく祝われると思っていたクァズは拍子抜けしていたのだった。


まぁ…その後の宿屋で、そんな事は忘れ楽しんだのだが、今思い出した。


滅多に出ない認定冒険者の地位は高く、騎士爵を持つギルド長と対等と聞いている。


対等な立場のギルド長からの席の勧めでなく、下っ端の記録係からの勧めにそれを思い出し、下手したてに出て舐められちゃいけねぇとばかりに、クァズはわざと乱暴に腰をおろした。




「いやー、グスタフのお陰でゆっくり骨休めをできたぜ。良い部屋で良い女達と、ゆっくりとな」

副ギルド長と記録係の眉がピクリと動いた。

だが、ギルド長は無礼な物言いを「それは良かった」とさらりと返した。



「だがなぁ。ちぃーと待たせ過ぎなんじゃないか?」

「そうだな…待たせすぎたか。おい」

グスタフは記録係から1枚の書類を受け取ると、書面を確認してからクァズに告げた。



「冒険者クァズ。アルカトラズ鉱山にて終生の労役に付くことを処する」

「なっ?!」

アルカトラ鉱山はこの国でも過酷な労役で有名な犯罪者を収容する鉱山だ。


グスタフはクァズの目の前のテーブルに今読んだ紙を投げてよこす。


クァズその紙を奪うように引っ掴むと、一度送られたら二度と戻ってくる事はない地獄への片道切符が綴られた命令書を引き裂いた。



「なんだよ、これは?! 俺はレベル43の国認定冒険者なんだぞ! ふざけんな!」

「ほう、誰に認定された?」

グスタフは始めてニヤリと笑った。


その呼び名の通り、レベル40を超えても国に認められギルド長から特別な冒険者証を授与されない限り、国認定の冒険者とは認められない。


「誰って…」

クァズは言葉に詰まる。


「クァズ。お前に教えてやろう」

確かに時々レベル40を超える冒険者は出てくる。だが全員が全員真っ当な奴らとは限らない。強さとは凶暴さや非道さ、残虐さでもある。


指導者的立場になる国認定の冒険者に、相応しくない性格や過去を持つ者がザラにいる。むしろそういう輩の方が悲しいかな多いのだ。


その為ギルドは一定期間をかけて、そいつの過去を国内ギルドに照会する。名を変えギルドを渡り歩く奴らだが、レベルは偽わらない。


レベル40に近い冒険者は、その時ギルドに届け出した名前・職種・性別・詳しい外見的特徴を5年の期間各ギルドが記録保存している。この記録の存在は公にされていない。



「……俺を調べていたのかよ」

「当たり前だ。お前だけじゃない。認定冒険者になりたいと届け出た者は全員だ。国の名誉に関わる」


「ただ、今回5年より前の情報が手に入ってな。クァズ。お前、ずいぶんと前から若い命を自分のレベルの為に散らしてきたな」

記録係が手渡した紙束を、グスタフがバサリとクァズの前に置いた。


震える手でクァズは紙束を掴む。黄ばんで折ジワのついた紙束にはびっしりと日付、ギルド名、冒険者の名前が何枚にも渡って書かれていた。



「お前が、いやお前とサンディが犠牲にした冒険者達のリストだ。各ギルドに裏取りもしている」

「嘘だ! デタラメだ! こんな物!」

クァズは激昂して立ち上がると紙束をテーブルに叩きつけた。ひらひらと紙が舞い、ゆっくりと床に散らばる。



「それに、今回は証人もいるからな」

「は! 証人? どいつだよ! そんなデタラメをいうクソ野郎は!」

グスタフが、ふいと右手をあげるとグスタフ達のソファの後ろにいたマントの男達がフードをとった。



「お…お前…!」

タクヤの顔を見ると、腰を抜かしてソファに倒れ込む。


「お前達がダンジョンに置き去りにした男だろ?」

「俺は置き去りにしてねぇ!」


「だがお前は、こいつ…タクヤは最初にダンジョンボスに叩き潰されて死んだのを見たと、証言してるな?」

「そ…それは」

副ギルド長が調査書を見ながら、クァズに突っ込んだ。



「確かにちょっと話は盛ったさ! だが俺がダンジョンから出てすぐに入り口は消えた! タクヤが生きてるわけがねぇ! こいつはタクヤを騙った偽者だ!」


「確かに、俺を置き去りにしたのはルツとアールだ」

「お…お前…本物の…タクヤか?」

幽霊でも見るような目つきでクァズはタクヤを指差す。


「なぁ、クァズ。お前、サンディを殺してないか?」

「な?!」

クァズの額に汗が滲む。



「MPを切らして動けなかった俺は、トロールに薙ぎ払われて運良くとどめは刺されなかった。だが、ダンジョンの入り口の近くで、サンディに似たバンシーに襲われたんだ」

「バンシー…?」


バンシーやレイス(幽霊)などの魔物は、死んだ人間が魔物になったと言われている。ダンジョン以外にもいるが死んだ場所に執着してその場所を離れない。



「嘘だ! てめぇ!デタラメ言いやがって!」

クァズは激昂してソファから立ち上がって叫ぶ。


「彼の話が、デタラメとは思えないんですよ」

「なに?!」

記録係が手に持った別の報告書を見ながらクァズを止めた。


「数日前、調査隊の目の前でダンジョンが開きました。直後に新生ダンジョンに入った調査隊からの報告によると、彼が言う場所にバンシーがいたとの報告が入っています」

記録係がペラリと報告書をめくる。


「過去、貴方とパーティを組んだ冒険者の連続した不自然な死もそのリストと各ギルドからの報告が一致しています。5年より古いものはまだいくつか調査中の物はありますが概ね一致しています」

ぱらりと報告書をめくって記録係は言葉を続ける。



「彼自身の容貌の変化で、ギルド職員の確認に少し手間取りましたが、彼が預かっていたパーティのメンバーの荷物とダンジョン前の木立の中に隠していた空の水樽があるとの彼の証言とダンジョン周辺を調査した調査隊の報告書の一致。そして調査隊が遭遇したバンシー…新生ダンジョン内の魔物の種類と出現場所の一致。それらを踏まえ、彼がタクヤさんだと我がギルドは断定しました」

記録係はパタンと報告書を閉じて、ギルド長であるグスタフに目をやる。



「うるせぇ!! うるせぇ!」

クァズはそう叫ぶと、鞘から剣を抜いた。


「大人しくは送還されてくれなそうだな」

やれやれと言った顔のギルド長は、深くソファにもたれかかる。


幸いここにいるギルド長は老いぼれで、ヒョロい記録係は問題外だ。タクヤもレベルは低く経験は浅い。副ギルド長は剣も杖も持ってないし、残るはタクヤの隣の男だけだが、コイツもかなり年を食っている。


ーいける。俺はここから逃げ切ってみせる! 俺はレベル43なんだからよ!


そう胸算用を弾いたクァズはギルド長に剣を突きつけ、威嚇した。



「貴族に剣を向けるとは…死罪が確定しましたね」

呆れたように副ギルド長が呟く。


「捕まったらな!」

「ここから無事に逃げおおせるとでも?」

記録係も呆れたように眉を寄せた。


「外に護衛でも居るのか? だったらギルド長を盾にする迄さ!」

「くくっ…誘拐未遂の罪もつけて回覧を回さねばな…」

小馬鹿にするように笑うギルド長に、クァズがテーブルに足をかけ手を伸ばそうとした時、オイゲンがすらりと剣を抜いた。



「俺が貰ってもいいか?」

「好きにしろ」

ギルド長がそういうやいなや、オイゲンはギルド長の座るソファに足をかけ飛んだ。


鋭くオイゲンの突きが入るが、クァズはそれを避けソファの後ろに跳ねた。


「オイゲン! 俺も…」

「手出し無用」

タクヤが助太刀しようと剣に手をかけるが、ギルド長が止める。


「でも!」

ギルド長も副ギルド長も記録係も静かに2人の鍔迫り合いを見ている。タクヤは剣にかけた手を離すしかなかった。


「………」

クァズはレベル43になっているとギルドで聞いた。オイゲンのレベルは知らないが、どう見てもクァズよりかなり年上のオイゲンはタクヤの目には不利に見えたからだ。


最初、オイゲンはクァズに押されているように見えた。だがよく見ているとオイゲンは打ち合いでクァズを逃さないように、扉や窓を必ず背にするような位置取りをしている。



ガチッ!ガッ!

キンッ!シュル…

鋭く打ち下ろすクァズの剣は受け流し、微妙に間合いをずらして距離を詰めクァズを動かしている。


最初は余裕を見せていたクァズの額に汗が滲み、呼吸が乱れてきたが、オイゲンは汗こそ流しているが、呼吸は最初の頃と大きく変わりがなかった。


何度打ち合っていたのだろうか、クァズの体に小キズが増えてきて肩で息をするようになった頃、オイゲンがクァズに問いかけた。



「スヴェンという名に覚えはあるか?」

「……知らねぇな。はっ! そいつがどうした?!」

今まで何十人もの奴らと組んできた。死んだ奴らの事をいちいち覚えている訳がない。



「そうか…」

今までクァズからの剣を受けていただけのオイゲンが、ラッシュを始めた。


ガチンっ!ガッ!

聞くだけで重い刃音が続く。


「はぁ…はぁ…もしかしてお前のガキか?」

そう言うと、クァズはにやりと笑った。


「俺が覚えてねぇくらいじゃ、大した腕前じゃ…」

挑発したクァズの顔が歪む。


ザシュ!!

クァズの右腕が剣を握ったまま上腕から弾け飛ぶ。


「ギャーー!」

クァズの周りにもオイゲンにも腕から迸る血糊が巻き散らかされ、クァズがのたうち回る。



「もう…もう…降参だ。俺は死にたくねぇ」

傷口を押さえクァズが喘ぐ。


「剣を取れ。まだ腕が一本残っているだろう」

剣の狙いを外さないまま、オイゲンは告げる。


「いやだ…もう…」

哀れっぽくオイゲンを見上げるが、オイゲンは動かない。クァズはギルド長達を見るがギルド長達は止めもせず黙っていた。


「う!ぐぉ…」

オイゲンの剣の切っ先がクァズの太腿を刺す。


「もう一度言う。剣を取れ」

「ぐっ…」

オイゲンの剣がクァズの右肩を刺すと、クァズはのろのろと切り飛ばされた右手から剣を取りふらふらと立ち上がった。


それからオイゲンはクァズの力が籠もってない剣をもて遊ぶように、二度三度受け再びクァズに問いかけた。



「ザビーネという名に覚えはあるか」

ザビーネ…覚えがある。治癒師だ。あれはいつだったか…まだ幼さが残る…燃えるような赤髪…の…

霞む目に、目の前の男の日に焼け錆びた赤茶けた髪の色が刺す。


赤髪の奴なんかどこにでもいる。でも、あの女と同じ色をした若い剣士がいた…確か名は…



「ま…まさか」

クァズは目を見開いてオイゲンを見た。


「…二人とも俺の子だ」

そう言ってオイゲンはクァズの剣を弾き飛ばすと、渾身の力を込めてクァズに突進した。



ガッ!ゴリッ!ゴッ!


オイゲンの剣はクァズの胸骨を砕き、背骨を貫いて壁に刺さり柄まで深くクァズの体にめり込んだ。



クァズの体は壁に叩きつけられ、腕が空を掴むように動いた後、だらりと垂れた。


誰も何も言わない。



ただ、ギシギシと壁が軋む音と微かな嗚咽だけが、特別室の中に響いていた。


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