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霹靂‐へきれき‐のシルト  作者:


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16/31

勝手な信頼と、やっぱり裏切られる俺

「散れ!!」

ガラガラっ!!



クァズの怒声と同時にトロールのこん棒に打ち砕かれた大岩の欠片が辺りに飛び散る。


トロールの持つこん棒はアイアンウッドと呼ばれるダンジョン特有の木の枝だ。鉄の木と言われるだけあって硬さは鉄と同じ。先の方が持ち手よりも太く膨らみ鉄釘のような小枝がところどころに生えている。


昔のヤンキー映画によく出てくるバットに釘を打った奴によく似ていた。



「おい! どーすんだよ!」

飛び散る岩の破片からアールを庇いながらルツがクァズに向かって叫ぶ。


「応戦しながら退却だ! ダンジョンが変わる前に抜けるぞ! サンディ!安地をとりながら退却の指示を出せ! ルツ!タクヤ!時間を稼ぐぞ!」


通常、魔物を仕留める場合は、魔物と後方攻撃の魔法使いの間に盾役が入り、その後ろに前衛である剣士が入る陣形をとる。魔物を盾役や前衛をにひっかけ、ヘイトを買いつつ軽装備の後衛に魔物行かないように誘導するのは回復役のルツの役割だ。



ガツッ!

ーちくしょう! こいつ、いつもよりパワーアップしてやがる!

トロールの攻撃を受け流しながらクァズは悪態をついた。


クァズは本職の盾役ではない。本来盾役は大盾を持ち装備の厚い重騎士がやるものだが、今までこのパーティで唯一中型盾を持っているクァズが魔物の攻撃を上手いこと受け流しながらやっていた。


クァズは、魔物呼びの鈴を使いターゲットになったルツへの進行を妨害し、魔法使いであるサンディやアールの攻撃が入りやすくするように時間を稼ぎながら攻撃をしていた。



俺も土魔法を使い、トロールの足元に窪みをつくり奴の進行を妨げながら、クァズと盾役を代わる代わるこなしつつ奴の足を止めるべく下半身を中心に攻撃していた。


ルツも今までの態度とは打ってかわり、俺にもクァズと同じように回復魔法をかけながらトロールを挑発して上手く誘導していた。



ーなんだ、こいつもやる時はやるじゃないか。

俺はトロールを攻撃しながらルツを再評価した。


ー野良でバトっていた時と同じだな。

野良っていうのはドラグーンブレイブで知らない者同士がゲーム内掲示板でメンバーを募集し一時的パーティを組んでモンスターを倒すシステムの事だ。野良のバトルはお互いの動きを見て自分の役割を淡々と熟し、強ボスを打ち倒す。


ゲーマー同士のトラブルも多いシステムだが、俺は好きだった。知らない者同士の無言の連携。勝つためにお互いの背中を預けあい、勝った時の爽快感はフレ同士のバトルとはまた別のものがあった。



だが今回はトロールを打ち取るんじゃない。トロールの足を鈍らせ逃げ切る事が目的なんだ。普段は反目し合ってても、このパーティで力を合わせて生き延びてやる! 俺は妙な高揚感をたぎらせていた。



「退路、5時の方向! 狭くなるわよ!」

サンディはファイア・アローを打ちながら退路の方向を叫んだ。


狭くなるということは、第1階層への扉が近いはずだ。ちょうど吊り橋階段のように道は狭く上り坂になり、その両側は崖になっている。そこを抜ければ階層の狭間の扉を閉め時間稼ぎができるはずだ!



「はぁ…はぁ…ちょっと! こいつどんだけ丈夫なのよ!」

フレイムボールを連射し息を上げながらアールが叫ぶ。


いつもならとっくに絶命していてもおかしくないサンディとアールの火炎攻撃を浴び、皮膚を爛れさせつつも反撃してくるトロール。



サンディと違い、アールはスキルを攻撃魔法に全振りで身体強化のスキルは最低限しか振ってなかった。


いつもならルツがアールの身体強化のバフをこまめにかけているのだが、ルツはパーティ全員への回復に手を取られいつものアールへの身体強化のバフをかけれずにいたのだ。



「ここで奴の足を鈍らせ、一気に第1階層まで抜けるぞ!」

クァズの言葉に、アール以外のメンバーが無言で頷く。



トロールが渾身の一撃をクァズに振り下ろす。

だが、トロールのこん棒の軌道を見切ったクァズがそれをぎりぎりでかわした。



ーディープディグ!

俺は、トロールの軸足の下を睨み土魔法を放った。トロールの軸足が太ももまで土に沈む。


グギャー!

それまで踏みしめていた大地が蟻地獄のように軸足を吸い込んで、バランスを崩したトロールが強かにもんどりを打った。


「今だ! 走れ!」

クァズの合図にパーティ全員が小さく見える第1階層への扉へと目をやった。一番扉に近いサンディと素早く体勢を整えたクァズは一目散に走り出す。



肩で息をしているアールをルツが抱え、素早くアールへの回復魔法と身体強化のバブをかけたその時!


トロールはあろう事か、軸足を大地に取られたまま身をよじってアイアンウッドのこん棒をルツとアール目がけて投げつけたのだ。


ありえない。


トロールにとってアイアンウッドのこん棒は、生きている限りその手から離さないトロールの命とも言える武器なのだ。



「…嘘!」

「嘘だろ!」


二人はそう呟くとルツはアールに覆いかぶさり、俺は

残りの魔力全てを使って叫んだ!



「ウォール(土壁)!!」 



魔力を使い切って目が霞み、俺はへたり込んだ。

一直線に二人めがけて飛んだこん棒は、ぎりぎりのところでウォールが間に合い、致命傷は避けられたようだがアールを庇ったルツは血を吐いていた。


「ルツ! ルツ!」

「ぐふっ…大丈…夫…だ」

アールは倒れたルツを抱え起こし、持っていた回復薬をルツの口に流し込む。


はぁはぁと息を荒げるが、ルツはまずアールの怪我を確かめた。アールは俺のウォールとルツに庇われた事で怪我は無かった。


アールに怪我がない事を確かめたルツは、すぐさま自分へ回復魔法をかけてからよろよろと立ち上がった。



「す…まん…、MP…回復を…たの…む」

魔力切れで立ち上がれない俺は、冷たい土に転がったままでルツに頼んだ。ぺっと口の中の血を吐き出したルツは温度のない声を口にした。



「……俺、お前に囮役やれって言ったよな」

「!」


「ルツ! 早く! トロールがくる!」

アールはルツを肩に抱え、先を急がせた。



「わりぃな。俺もMPぎりぎりなんだよ」

霞む目には振り返りもせず遠くに走り去るふたつの背中と、俺を見下ろす冷たい視線。

すぐに視線は消え、代わりにトロールの足音が大きくなってきた。


トロールの引きずるような足音が耳元で止まった。


ずさっ。

ボロボロになった土壁からこん棒を抜き出したであろう音だけが耳に響き、その直後脇腹に衝撃が走った。そして…ダンダンとした痛みが体のあちこちから響く。


トロールがこん棒で俺を薙ぎ払って、俺の身体は道の脇の崖に落ちていってるんだろうなと他人事のように思っていた。




ークソ野郎はクソ野郎だったよ!!

遠のく意識の中で、俺は俺自身に悪態をついていた。



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