01-2 思惑
それぞれの思惑の説明です
・ウィリアム
(婚約者が有能だというのも困り者だな。これでは自分が引き立て役ではないか)
ウィリアムはそう悩んでいた。彼はアビゲイルの事が好きではなかった。所詮は政略結婚であるのでそれも仕方ないが、アビゲイルの能力が飛びぬけて有能であり、将来王妃となった際には国政を取り仕切って欲しいという声があり、それがウィリアムにも聞こえてきたのである。学園中等部の成績でも常にアビゲイルがトップであり、王太子である自分はその引き立て役でしかないのが面白くなかった。それでも、アビゲイルがウィリアムをたててくれるような性格であればまだよかったのかもしれないが、他人を見下すような視線はウィリアムにも向けられていた。
婚約を破棄出来ないものか。そう考えていた時に丁度南十字星の乙女が発見されたとの報告があった。高等部に入学するときに平民ながらも推薦枠で同学年として入学してくると聞き、どんな人物かと興味を持つのと同時に、これはチャンスかもしれないと考えた。そして、同じ時間の学園生活をおくるようになると。
(この国に広く知れ渡る南十字星の乙女伝説からすれば、次期国王である自分の妻となる人物は南十字星の乙女であるエマ――南十字星の乙女の名前――こそが相応しいと誰もが認めてくれるだろう。しかも、年齢も自分と一緒である。見た目は可愛らしいし、性格も良くて常に笑っている。あんな笑顔はアビゲイルが見せたことは無い。女など男に愛想を振りまいていればよいのだ。一緒にいるなら断然エマだ)
との考えに至った。入学当初はそうでもなかったが、国家的に重要人物となるであろうエマの保護の意味もあり、一緒にいる時間が長くなるほどに、ウィリアムの心はエマへと接近していった。そして、そのエマからアビゲイルからの嫌がらせの相談を受けると、これを利用してアビゲイルとの婚約解消を出来ないかと思案するようになる。さらに言えば、自分の目に入らないような遠くで幽閉生活をさせ、二度と表舞台に出さないようにしたい。ウィリアムの心の中では巨大な野分の暴風のような妬み嫉みが渦巻いていた。
ただし、自分一人でアビゲイルと対峙出来るとは思えないウィリアムは、仲の良い同級生もその仲間へと誘ったのである。
・ジャック
幼馴染であるウィリアムから、アビゲイルのエマへの嫌がらせをなんとかしたいと相談があった時に、将来騎士を目指すジャックには、エマの騎士になるチャンスだというひらめきが走った。ジャックにも婚約者がいるが、エマはそんなものとは比較にならないくらい魅力的に見えたのである。
それに、中等部での剣術の授業ではジャックはアビゲイルに勝てなかった。そして、護身術においても一度もアビゲイルに勝てなかったのである。力は当然ジャックの方が強いが、掴みかかろうとすると体の重心を狂わされ、気が付けば地面に転がされて空を見ていた。将来父のように騎士団長になった時に、王妃よりも弱いなどという不名誉な事態は避けたかった。
(あの女が婚約を破棄されてしまえば、王妃になることは無くなる。そうすれば、王妃よりも弱い騎士団長などという不名誉な称号を得る事も無くなるな。そもそも、女のくせに生意気なんだよ。大人しく男に守られるだけで満足しておけばいいものを。それにエマの騎士になれば、うまくすれば彼女の寵愛を受けることもできる)
という最低な理由でウィリアムに協力することを決めたのである。
・トーマス
トーマスは自分よりも魔力の高いアビゲイルの事を憎々しく思っていた。魔力の高さは生まれによるところが大きい。努力をしても持って生まれた者との差を埋めることはできない。トーマスの父親は筆頭宮廷魔導士であり国内最高の魔力を持っているが、トーマスはそれを引き継いではいなかった。それでも普通の人よりも高くはあったが、アビゲイルと比較したらそれは低い。魔法の授業においても、クラスメイトの称賛の眼差しはアビゲイルに向けられているのがわかり、それが堪えられないほどに辛かった。将来アビゲイルが王妃になれば、その時自分が筆頭宮廷魔導士になれていたとしても、王妃以下の魔力だと後ろ指を指されるのはわかっていた。それは避けたい。そう考えているところにウィリアムからの相談が持ち掛けられた。
(南十字星の乙女であるエマが王妃となれば魔力が筆頭宮廷魔導士よりも高くても、誰もおかしいとは思わないだろう。今のうちにアビゲイルを排除してエマをウィリアムの婚約者にしてしまえばいい。それに、アビゲイルの排除さえできればその後自分とエマとの仲を進展させ、ウィリアムから奪うのもありだな)
という最低な理由でウィリアムに協力することを決めたのである。
・アーサー
アーサーはアビゲイルについて思うところは無かった。しかし、ウィリアムからアビゲイルをなんとかしたいと相談を受けた時に、この件で恩を売っておけば後々ウィリアムが国王となった時に、教会の勢力を拡大するのに使えるのではないかと考えたのである。
(どうも追及するといっても多分そうだろうという証言ばかりで、決定的なものはないか。でも、大神官の息子である僕がジャッジするのであれば、それに異論をはさむような生徒もいないだろう。それに、これが冤罪だとしたら、その件でエマを脅して僕のいう事をきかせることもできるだろうし)
という最低な理由でウィリアムに協力することを決めたのである。
・ハリソン
ハリソンは幼い時に両親が賊に襲われて、親戚であったハワード家の養子となった。アビゲイルしか子供のいなかったハワード公爵は、ハリソンを息子として迎えて彼に後を継がせようと考えたのである。しかし、ハリソンは無能ではなかったが、アビゲイルがあまりにも優秀であったために、使用人達からはアビゲイルが男の子だったらと言われているのを聞いてしまう。義姉であるアビゲイルへの劣等感を抱いたまま育ったハリソンはどうにかしてアビゲイルが失敗するのを見たいと思っていた。
そんな時、ウィリアムからの協力の打診があったので、これ幸いと協力を引き受けたのである。ウィリアムの態度をみたら、アビゲイルからエマに乗り換えたいというのがひしひしと伝わってくる。婚約を破棄されたともなればこれ以上ない汚点となるので、ハリソンはとても張り切った。
それに、義姉のいじめから救ったとなれば、エマの気持ちがこちらに向くかもしれないという気持ちもあった。超えられない壁であった義姉の悪事を暴き、それに苦しめられていたか弱き女性と恋に落ちる。ハリソンの脳内の筋書きはそう出来上がっていた。
(目障りな義姉を追い落し、エマに恩を売って自分のものにする。よくできた筋書きだな)
という最低な理由でウィリアムに協力することを決めたのである。




