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悪役令嬢のCPKは1.33です  作者: 工程能力1.33
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01 転生

「どうしても罪を認めないというのだな、ならば婚約は破棄だ」


 と言われたところで目の前が光って真っ白になる。

 自分は公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である、アビゲイル・ウィステリア・ハワードだ。それは間違いない事実。17年間生きてきた記憶もある。

 が、それより前の、前世の記憶が蘇ってきた。日本のとある自動車部品メーカーで品質管理課の課長をしていた豊田敦子としての記憶だ。群馬県の太田市にある協力工場――言ってみれば下請け――で監査をしていた時に、積み上げられていた鉄のパレット――鉄で出来た容器――が崩れてきて、その下敷きになったところで記憶が途切れている。記憶が途切れたというか、おそらくはそれで死んでしまったのだと思う。そして、どういうわけか、アビゲイル・ウィステリア・ハワードという貴族の令嬢となったわけだ。

 さらに、このアビゲイル・ウィステリア・ハワードというのは自分が前世でプレイしていた乙女ゲーム『サザンクロスの輝く千年王国』に登場する、主人公をいじめる悪役令嬢なのである。このゲームは平民である主人公、南十字星の乙女が貴族の子女が通う学園に特待生として入学し、そこで攻略対象たちと学園生活を送るというものである。中世ヨーロッパ風な感じで剣と魔法があるという世界設定なのだ。

 鏡が無いので自分の容姿は確認できないが、これはゲームのクライマックスである学園の卒業式の日に発生するアビゲイルの断罪イベントで間違いない。目の前で私に婚約破棄を宣言したのは攻略対象にしてアビゲイルの婚約者であるウィリアム・ピオニー・コールリッジ。この国の王太子である。そしてその後ろに庇われるように立っているのが主人公である南十字星の乙女。脇を固めるのが騎士団長の息子であるジャック・ブッシュクローバー・ヒュームと筆頭宮廷魔導士の息子であるトーマス・チェリー・ケネディ。少し離れた所にいるのが裁判官的な役割を務める大神官の息子であるアーサー・パイン・セルデン。そしてその横に私の義弟であるハリソン・アプリコット・ハワードがいる。場所は学園のダンスホール、ゲーム画面で穴が開くほど見た面々だ。ここで数々の証拠を突き付けられてアビゲイルは断罪される。

 そう、穴の開くほどといえるほどにこのゲームにはまっていた。三十代前半までは仕事が楽しく、いや正確には会社で出世するのが楽しくだな、仕事だけで生きてきたといっても過言ではなかった。そして、アラフォーになった時に周りを見渡せば、同年代の友人知人は既に結婚して子供がいたり、婚活で必死に結婚相手を見つけているのに、自分は恋人もいなければそれを作ろうとする行動もしていなかった。そもそも、男なんて女である自分を見下しているのが殆どで、品質管理課の課長という職にありながらも、女というだけでこちらのいう事を聞かないようなのが多かった。能力もないくせに男の方が優秀であるという思い込みから、へんなプライドをもって突っかかってくるようなのばかりを見ていれば、男なんていらないと思うのも当然だと思ってほしい。妹は独身である姉の私と違い、20代で結婚して遠くに嫁いでしまったため、両親の介護は地元に残った私がしなければならないのだと漠然と考えていた。私の両親は元気でまだ介護というのは先に思えたが、それでもいつかはやってくるという現実から目を背けるために、手を出したのが乙女ゲームだったというわけである。まあ、いきなり自分で手を出したわけではなく、同じようなおひとりさまの友人から教えてもらって、休日の時間つぶしの為にはじめてみたのだが、いつの間にか帰宅すると直ぐにプレイするようになっていた。それでも仕事に支障が出る訳ではなく、あくまでも息抜きとしての範囲は出なかったのだが、同人誌の通販に手を出す程度にはなっていた。そして、何個目かにプレイしたのがこの『サザンクロスの輝く千年王国』だったというわけである。


(状況を整理すると、乙女ゲームの中の悪役令嬢に転生して断罪されているわけね)


 そう冷静に判断してみたが、私の状況はかなり詰んでいる。このあとアビゲイルは婚約破棄された事で実家から事実上縁を切られて、寒村送りになってそこで農作業をしながら暮らすことになる。このシーンの描写は主人公が攻略した相手から語られるのみなのだが、中世ヨーロッパ風の社会描写がされている世界なので、とてもキツイ生活なんだと思う。


 断罪された理由というのは、婚約者であるアビゲイルがありながら、南十字星の乙女に現を抜かす王太子への嫉妬から、彼女への嫌がらせをしたというものであり、ゲームの中では取り巻きや使用人を使って様々な嫌がらせやいじめをしていたのだが、自分の記憶を辿っても今の私ことアビゲイルがいじめをした記憶が出てこないのである。あれ?

 記憶のなかのアビゲイルはたしかにきつい性格で、時には気に入らない相手に手をあげる事もあったが、それは相手にも非が有る時に限ってであった。いわゆる姉御肌っていうやつで、頼られると放っておけない性格から、学園内での陰湿ないじめなどには毅然とした態度でのぞんだのである。それが時には上級貴族の子女の高慢な態度とぶつかっただけだった。ストレートに感情を表に出すのは貴族令嬢としてどうかとは思うが、個人的にはそういった性格は嫌いでは無い。むしろ好感が持てる。


 ならば、やっていない事は認める訳にはいかない。そう、何故私がやってない事を認めなければならないのか。悪役令嬢だからだ。いやいやいや、そんな一回で終わるようななぜなぜ分析はだめだ。それは真因じゃない。断固認めないわよ。


「やっていないことを認める訳にはいきません」


 そう反論してみたが、


「ここまで数々の証拠、証言がありながらまだ罪を認めないのか!」


 とウィリアムが強い口調になる。


「義姉さん、見損ないました。どうして罪を認めてくれないんですか。これ以上家名を汚すのはやめてください」


 と義弟であるハリソンにも呆れ顔で見下される。

 しかし、やっていないものはやっていない。それに証言はいくらでも偽証できるだろうし、証拠といっても自分の所有物が南十字星の乙女の近くに落ちていただけというものだ。そんなもので証拠になるのならば、自分が本当にやっているなら他人の所有物を置いてくる。そんなことも考え付かない程度だと思われているのだろうか?今までゲームでは散々攻略して愛着もあったが、こういう扱いをされると千年の恋も一気に冷める。


(この程度の男達にいれあげていたというの?)


 過去の自分が情けなく感じられもした。


 そして、少し冷静になって、ゲームをプレイしていた時にはいじめられるシーンの描写があったのだが、ここは少し違う世界線にあるようだ、なんて考えているうちに、ジャックに後ろ手に拘束されてしまった。

 その時目に入った周囲の人物たちの表情、特にアビゲイルに陰湿ないじめを指摘された者達の、悪意に満ちた勝ち誇ったような顔は印象的だった。これは、はめられたと悟る。おそらく、偽証や証拠のねつ造にこの連中も関わっているのだろう。この悪意に満ちた眼差しは前世でも嫌というほど見てきたからわかる。女の私が出世するのを妬んで様々な嫌がらせをしてきた連中と全く一緒なのだ。


「ジャック、この女をつまみ出せ。もう二度と顔も見たくない」


 ウィリアムの指示にジャックが頷く。


「かしこまりました」


 こうしてダンスホールから出されてしまう。まるで罪人のように――というか罪人か――ひったてられる様子に見ず知らずの学生から罵声が飛んでくる。ゲームではなかった演出だけど、実際にはこのようなことになるのね。ただ、やってもいないことで断罪され、なおかつこんなに罵声を浴びせられるのは屈辱的だわ。今日この場にいる連中にはいつか必ず報いをうけさせないと。そんな悔しい気持ちを胸に馬車に乗った。

 実家に帰ると王太子との婚約破棄になったことで親から縁切りされて、ゲームのストーリーどおりに寒村での幽閉生活となってしまった。

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