第十八 大反省会
【ギルド酒場】
「ダメだ、ダメ! このままじゃ、絶対にダメだっ!」
クエストから帰って来て怪鳥の卵を納品した俺達は、ギルド酒場で夕飯を摂っていた。
「ダメって何がダメなのよ? 今日だって、わたしがあえておとりになってあげたから上手くいったし! クエストだってちゃんと成功したわけだし、ギルドの借金だってこれで払えたんだから、万々歳じゃない!」
そう言ってリリスは唐揚げをフォークに刺したまま持ち上げて、左右に振って見せた。
「確かに……。特に今回は誰も怪我する事なく戻れたわけだしな。ハルトは何が不満なのだ?」
シルビアは、酒の代わりに飲ませている葡萄ジュースをテーブルに置き。
「わ、わたしはリリスが食べられると思ったから……。その……頑張って助けたけど……」
リコピンは、トマトサラダを食べていた手を休める。
「いいか!? 確かに、オレの命も仲間の命も大切だ! それは何があっても絶対に変わらない……。けどな、オレたちにはパーティーとして重要な事が欠けている……」
「なによ……」
「……なんだ?」
「……なんですか?」
三人が三人共なんの話しか分からないと言う顔でこっちを見てきた。
「はぁー……。いいか? コミュニケーション能力もそうだし、連帯力がオレたちにはまったく足りないんだよ……」
そう言ってオレは頭を抱え込む。
「えっ……」
「なっ……」
「そんな……」
三人の反応を聞けば、見なくてもわかる。
こいつら、全く自分らの状況がわかってない。
「まずは、リリスだ! お前は注意力が散漫しすぎる! 大体、寝ている怪鳥の尻尾を踏むとかありえないからな!
次はシルビアだ! そもそもシルビアは後衛職だろ? 前線に出て、攻撃力の低いロットで攻撃してどうするんだ? そこは、回復や補助に徹底しろよ!
最後に、リコピンだが! 仲間を助けたい気持ちはいい! けど、勝手に飛び出すのは危険だ! それこそ、相手がもっと凶暴なモンスターだったらどうする気だ? 命を自ら捨てに行くのと同じだからな?」
オレの言葉を聞いた三人が、同時に何かを言っているので何を言っているのかまったく聞き取れない。
オレは聖徳太子じゃ無いんだぞ?
と、そんな時だった。
オレたちのテーブルに珍しい人がやってきたのだ。
「よぉーお前ら、初心者冒険者のくせに最近調子が良いんだってな?」
「えっ……。あぁ、ギルマスじゃないっすか? こんな所でどうしたんっすか?」
「あぁ? だから、私の事はレイナで良いって言ってるだろうが! ギルマスって呼ばれるのは、症に合わないんだよ」
そう、オレたちの元にやってきた珍しい人とはギルマスのレイナさんだったのだ。
「むっ……。この人は……」
「わ、わたしも見るのは初めてです……」
そうか、この二人はレイナさんを見るのは初めてだったな。
「シルビア、リコピン! この人はだなーー」
オレの言葉をレイナさんが、右手で制して遮る。
「いや、いい。自己紹介くらい自分でやる。私の名はレイナ・サーヴァントだ! この街の冒険者ギルドで名ばかりのギルドマスターをやっている。呼び方はレイナで構わない。確か……。シルビアとリコピンと言ったな。二人ともこれからよろしく頼む」
レイナさんの自己紹介を聞いて、なぜかシルビアは考え込みだす。
「レイナ・サーヴァント……。どこかで聞いた名前だな……」
そしてリコピンは、恥ずかしそうに小さな声でよろしくお願いしますと言って軽くお辞儀をした。
ちなみにリリスは、レイナさんを見てからずっと可弱い小動物の様に震えている。
まぁ、それはそうとだ。
「そういや、オレたちに何か用事があったんじゃないですか?」
「あぁ、そうだったな。実は、風の噂でお前達が金に困っていると聞いてだな……。それでーー」
すると、今度はシルビアがあっと大きな声を出して立ち上がった。
「お、お、思い出したぞ、ハルトっ! レイナ・サーヴァントと言ったら、かつての大戦の英雄の一人じゃないか! 別名、雷帝のレイナ! 剣を一振りすれば、雷撃が千人の兵を襲い一瞬で地に伏せると言う! その実力は、王国騎士団長さえも凌駕すると言われている、剣聖と呼ばれた人じゃないか! ま、まさかこんな所で出会うとは……」
「お、おい……。そんな昔の話しは辞めてくれ……。今じゃとっくに引退して、田舎街の冒険者ギルドのマスターとして隠居生活をしてるんだ。もう、戦うのはごめんだからな……」
レイナさんの反応を見るからに、シルビアの言う事はホントらしい。
只者じゃないとは思っていたが、まさかそれほどの人だったとはな。
「そ、そ、それで! そんな偉い人がわたし達になんの用よ! か、借りたお金ならさっき返したじゃない? い、今更……り、利子でも取ろうなんて思って来ても、もう遅いんだからね! ち、ちなみになんか文句があるのなら、パーティーの責任者のハルトが聞く事になってるわ!」
おい、いつからオレはこのパーティーの責任者になったんだ?
てか、リリスはよほどレイナさんみたいなタイプが苦手らしいな。
「いや、そう言うわけではなくだな……。今回は特別にお前達に『ギルド指定クエスト』を斡旋してやろうと思って来たんだが……。もしかして、必要無かったか?」
そう言ってレイナさんは、ひらひらとクエスト用紙を見せてきた。
そして、その紙にはーー。
「吸血騒動による実態調査?」
と、書かれていた。
「そうだ。お前達はこの街に来たばかりで知らないかもしれないが。最近、街の中で『吸血騒動』が起こっている。しかも、狙われるのは若くてそれも美人な女だけと言う条件付きでだな。最初は、街に魔獣が入り込んだかと思って調査をしたんだが、どうやらそれも違うらしくてな。ギルドとしても、街の治安維持に関係する事だから早急に解決したい。そこで、お前達に頼もうと思ってな」
「えっとー……。なんとなく、クエスト内容は分かったんですけど。でも、なんでオレたちに? それなら、もっとベテランの冒険者がいるんじゃないですか?」
「あぁ、その事だが……。それはだなーー」
すると、なぜかリリスがレイナさんの言葉を遮った。
「パス! パスよパス! そんなまどろっこしい事やってられないわよ! わたし達は、今すぐにでも大金がいるの! 一に討伐! ニに討伐! 三、四がなくて五に討伐よ! 調査クエストとか、そんな見るからに報酬がやっすーそうなクエストやってられないわよ!」
そう言って、リリスはやれやれと言わんばかりに ため息をついて見せた。
「そうか……。クエストの成功報酬が三百万ギルではお前達には安かったか。期間も一ヶ月で、特別に他のクエストの掛け持ちも認めようと思ってたのだが……。しかたない。この話しは無かった事にーー」
すると、再びリリスはレイナさんの話しを遮ると。
「ちょ、ちょっと待って! そ、その話し特別に詳しく聞こうじゃない!」
そう言って、リリスは身を前に乗り出した。
ったく、ホントに現金な奴だな。
ーーー。
ーー。
ー。




