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月光に咲く花の如く  作者: 夜妬
第1章 ドラゴンスレイヤー
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番外編 「ペンタグラムのお兄さん」

「……は?」


 自分でも、随分間抜けな声が出たもんだと思う。


 ある日の昼下がり、暖かく穏やかな光が中央訓練所を照らす。ついウトウトしてしまいそうな陽気だ。


 今日は5等星、ユキと一緒に訓練をする予定だった。そこにたまたま通りかかったアルスを捕まえて、2、3、5等星合同訓練をしていたのだ。

 アルスは普段遠征任務や調査でバベルにいないことが多い。つまり、レアだ。






 話は冒頭より少し前に戻る。事件はいつも前触れなく起きるものだ。休憩をしている時にユキが少し照れたように言ったのだ。


「アルスさん、なんかお兄さんみたいですね」


 お兄さん、か。確かに、そうかもしれない。

 初めは少し近寄り難い雰囲気の人だなぁと思っていたが、一緒に任務に出ていくうちに面倒見が良くて頼りになる人だと思うようになっていた。

 第一印象が悪かったのはいつも疲れた顔をしているからだと後から理解した。


 まぁそこまでは良かったのだ。問題はその後のアルスの発言。


「それ、いいな。よし、そう呼んでくれ」

「……は?」


 この人は何を言っているんだ。冗談か?いや、冗談なんて言えるような人じゃないことは分かっている。


「え、ちょ、何言ってんだよ……?」

「良いんですか!? じゃあ呼ばせてもらいます!」


 パァッと表情を明るくするユキと、この状況についていけない俺。


「ハルも呼んでいいぞ」


 そんなこと言われたって、と思ってしまう。

 俺の中のアルスという人物は、いつもクールで強く、それでいて優しい。隙がなく規律を重んじる彼に冗談やおふざけは似合わないし、全くと言ってイメージがなかった。


 だが、少し話を聞いてみると冗談でもなく、本気で呼んでもらいたいらしかった。


「俺は椿に拾われてからの記憶しかないから、家族というものを知らない。少し憧れていたんだ」


 アルスは、ある日椿が連れてきた。調査に出た先で見つけた、何も分からない状態で水を操っていた、との事だった。


 きらめくブロンドに青い瞳、初めは嫌でも人目を引いた。バベル内がアルスの噂で持ち切りだった時の事を思い出す。

 外人なのか、と聞いても分からないとしか返って来なかった。


「僕も、普通の家族、兄弟に憧れていたんです」


 そうユキが切り出した。


「普通じゃない家族って、どういう……?」


 そう言えば育ちが特殊だったとは聞いたが詳しくは知らない。

 バベルでは、その人から話さない限り過去や家族、崩壊前の話はなんとなく避けるというのが暗黙の了解になっていた。


「僕は幼い頃に父を亡くして、父が教祖をやっていた宗教団体で育ったんです。母も後を追うように亡くなってしまって、周りは大人しかいない環境だったので……」


 歳の割に落ち着いているなと思ったのはそのせいだったのか。


 白い髪に赤い目、もしかすると偶像のようなに扱われ、苦労してきたのかもしれない。たった14歳の少年の壮絶な過去に涙が零れそうである。


「でもまぁ楽しかったんですけどね、周りの大人達にいっぱい遊んでもらったし」


 楽しかったのかよ……よかったな。涙が引っ込んだよ。


「ハルさんはどうなんですか?」

「俺?俺はなぁ……」


 話を振られるとは思っていたが、いざ聞かれると返答に困る。辛くなるから思い出さないようにしてても頭から離れない家族のこと。話したら楽になるとよく言うが、俺はそうは思わない。


「あー、兄弟がいっぱいいたなぁ」

「そうなんですか?羨ましいです!」


 嘘は吐いていない。だが、本当のことも言っていなかった。

 俺の言う兄弟達は崩壊の日の後にできた血の繋がりのない家族のこと。血の繋がりのある母や父のことはもう思い出せなかった。


「でもそう言えば上にはいなかったな。 弟や妹ばっかでさ」

「そうか。ならば尚更兄と呼んでくれ」


 人が昔のことを思い出してちょっと傷心しているのにこの男は。心無しか楽しそうなアルスの押しに負けてやることにした。


「はぁ……わかったよ、兄さん」


 うわ、なんだこれ、想像以上に照れるな。呼ぶ機会が少ないことを願おう。


 アルスは満足そうに頷いている。普段は眉間に皺を寄せて任務に出る彼しか見ていなかった。嬉しそうに微笑む彼は幼く見え、今日は新しい一面を知ることができたようだ。






 その後、任務から帰ってきたナツキに向かって、今日から兄と呼んでくれと言っているアルスが色々な人に見られて事件になるなどした。

 それを聞いたリュウも何を思ったのか、俺も呼んでいいか? と聞いて怒りを買っていた。


「貴様に兄と呼ばれる筋合いはない!」


 年齢的にはアルスの方が上なので流れ的に筋合いはあるのだが、どうにも馬が合わないらしい。アルスが一方的にリュウを嫌っていると言った方が正しい。そしてリュウも、嫌われていると知ってなおそれを楽しんでいるのだからタチが悪い。


 俺は、呼び方関係なくペンタグラムの皆は兄弟だと思っている。バベルの皆は家族だ。

 今の時代、血の繋がりなんてものは希薄で、それ以上に大切な繋がりがあると知った。


 あぁ、またリュウが兄さんを怒らせて遊んでいるらしい。ナツキ達が困っている。面倒だが止めに行かないといけない。


 今日もペンタグラムは仲が良くて何よりだ。


 平和とはいかない世の中だが家族と小さな幸せを共にできるのは悪くないと思わないか?

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