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勇者スレイヤー 勇者絶対殺すマン  作者: ランタン丸
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ハイリ



ナルカの都が見渡せる小高い丘のてっぺん、そこに青年は立っていた。

破壊されたナルカの都を夕日のオレンジが包み、もうすぐ夜が訪れることを告げる。


青年の前には大きな黒石でできた墓がある。青年は、墓に花と酒ビンを供える。

それから青年はマジックバックから古びた安物の剣を2本取り出す。そして青年は墓にゆっくりと語りかけた。


「預かっていてくれないか?これから旅に出るんだ。俺たちの宝物だからな!過酷な旅になりそうだから、失くさないようにここに置いていきたいんだ。当分ここにも来れなくなる、ごめんな」


青年は2本の剣を墓の前に突き刺すと「ウィルグルス」と唱えた。すると2本の剣が淡く光る。2秒ほどすると光が消えた。

青年が唱えたの強化魔法の呪文である。武器の性能をよくするもっともスタンダードな呪文だ。


「よし、これで当分の間は錆びたり折れたりする心配はないな。それと俺は、これから『ハイリ』と名乗ることにするよ。『ハノイ』という名前は大切だからね。これから俺がすることでその名を汚したくないんだ。もう1つの方も俺にとって大切なものだ。『ハイリ』、全てが終わるまでこれが俺の名だ」


青年、ハイリは墓に手を合わせると「じゃあ行くよ。またな!」と墓に挨拶をし、墓を背にする。


2本の剣と黒石の墓がその背中を見送るのであった。











ハイリがナルカの地を出て5日が経った。


その頃、

勇者率いる軍隊は、ナルカよりおよそ80里ほど北にある湖の湖畔で天幕を張り、夜営を行なっていた。夜ではあるものの、多くの兵士が焚き火をするものであるから湖周辺の一帯はまるで昼間のように明るい。


数ある天幕の中でも夜営の中心地に張られた一際大きな天幕、その中では、勇者をはじめとする軍隊の隊長格や参謀たちが集まり、20名ほどで軍議が行われていた。


参謀の一人が上機嫌に遠征の成功を喜ぶ。


「此度の 魔王討伐遠征は大成功でしたな。魔王を討つことができただけではなく、魔王がため込んでいた財宝も多くの手に入れることができました。これらを我らが母国シエンに戻り、クルカ王に献上すれば、さぞ喜ばれることでしょう」


「さようですな。しかし、マーベル殿よ。クルカ王にだけではなく、アポ教の教皇様にも献上することを忘れてはなりませぬぞ。教皇様のお力添えがあったからこそ、此度の遠征において勇者様が我らが軍を率いることになられたのですよ」


そんな参謀たちの会話を聞いていた勇者が不機嫌に口を開く。


「ふん、どこが成功なのだ?魔王を討てはしたが多くの薄汚い魔族を逃してしまった。私は今回の遠征に魔族を根絶やしにするために参加したのだ。それがどうだ?魔王を討つことに時間がかかってしまい、ナルカに住む魔族を半分以上逃してしまった。これは失態だ。こんなことを他の勇者知らちまったら、笑われちまうよ」


勇者が苛立っていた。その原因は、勇者の当初の試算よりも魔族を殺すことができなかったからだ。

ナルカの西門から侵攻した勇者率いる軍隊は、ナルカの地において市民、兵士を問わず5万以上の魔族を殺すことに成功した。

魔族を手ありたり次第に手をかけたのだ。魔王直下の軍隊の反撃にもあったものの、勇者の圧倒的な力によりその軍隊を蹴散らした。しかし、その戦闘の隙に6万人近くの魔族の市民がナルカの東、北、南の各門から脱出したのであった。


勇者は北方に逃げる魔族を追ったものの地の利はあちらにあり、さらに、こちらは2万を超える大所帯であったため思うよう追撃できず、逃げた魔族を討つことがほとんどできなかったのだ。


また、今日の夜営地に至る道中までに中小の魔族の街や村が8つほどあった。しかし、そこに魔族は一人もおらず、もぬけの殻であった。勇者は、ここ数日腹いせに火の大魔法を放って街や村を焼き払うことしかできずにいた。



苛立つ勇者を宥めるように隊長格の一人が口を開いた。


「しかし、勇者様、此度の遠征は間違いなく大成功でございます。私も長いこと軍に籍を置いていますが此度のような大勝利は経験したことがございません。数の上では同数以上の魔王の軍勢を相手にしながらもこちらの損害は千名にも及びませんでした。この戦果は勇者様の協力があったからこそであります」


隊長格の男の言葉に、マーベルという名の参謀が続く。


「そうですぞ勇者様。それにこれだけの大勝利で終わったのですから、必然的に2回目の遠征も近いうちに行われるでしょう。その時もぜひ我らが軍を率いてくだされ、ともに魔族どもを根絶やしにしましょう」


そんな、参謀の言葉を受けて勇者の機嫌が少しだけ直る。


「ちっ、わかったよ。軍議を再開しよう。今後の予定はどうなってやがる」


勇者の言葉に参謀が地図を広げて答える。


「はい、明日からは北進をやめ西に進みます。ここから西に2日ほど進むと海に出ます。そこに戦艦3隻手配しておりますので、それに乗り航路でシエンに戻る予定です」


参謀は、地図を指で差しながら勇者に説明する。参謀の説明を聞きながら、ふと勇者は疑問を抱き、それを口にする。


「今後の予定と帰国の手はずは理解した。それよりも、その地図はどうしたのだ?随分とガイア大陸について詳しく書かれているではないか?」


勇者の疑問はもっとものことだ。ガイア大陸とハール大陸ある国々に間ではほとんど国交が行われていない。それにも、正確な地図があるのはおかしなことだ。

その勇者の疑問に参謀の一人が答えた。


「ああ、そのことですか。聞いた話によると今から100年ほど前まではガイア大陸にある魔族の国との間で国交があったらしいですぞ。この地図もそのときハール大陸にもたらされたものを複製したものでございます」


参謀の言葉に勇者が顔をしかめる。

「はっ、薄汚い魔族と国交を結んでいただと?まさに人間族の黒歴史だな」


勇者は不快感をあらわにそう吐き捨てると皆に軍議の終了を告げるのだった。


軍議が終わり、参謀や隊長格がゾロゾロと天幕を出て行く。

勇者は一人になった天幕の中で、グラスのワインを一気に飲み干すとランタンの火を消し、就寝するのであった。


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