身勝手
何十、何百という松明の灯りがパラディオンの街を囲む。パラディオンで見張りを行っていた兵士が松明に気づく。それと同時に街の閉ざされた門の前に軍馬に乗った兵士が赴くと大声でパラディオンの兵士にむけて告げた。
「我々はホストル王国兵である!!この街は完全に我々によって包囲されている!!メルニダ王国の者どもよ!大人しく我々に降るがよい!!明日の昼までは返答を待とう!!!」
ホストル兵の言葉を聞いたパラディオンの見張りの兵士たちは慌てて鐘を鳴らすのだった。
暗く寒い夜に甲高い鐘の音と兵士たちの怒号が響く。パラディオンの街は大混乱に陥いってしまうのだった。
「敵の数は?」
「はっ、暗闇のため正確にはわかりませんが松明の火の数からして少なくとも四方に2500人ずつ、全体で1万は配置されていると思われます!」
パラディオンの兵士をまとめる部隊長は、部下の報告を聞いて青ざめる。
「少なくとも1万だと!!馬鹿げている!!」
『馬鹿げている』まさにその兵数はその言葉でしか表現しようがないものだった。なぜなら、今回のホストル兵の出現は常識では考えられない点がいくつかあったからだ。
まず突然兵士たちが出現したのがおかしい。1万という数で進軍したのであれば流石に事前に察知することができる。しかし、その様な予兆なく突然現れたのだ。
次に、深夜に現れたこともおかしい。パラディオン側のホストル王国へ繋がる山道は狭く険しい道であるため大軍での進軍にはむいていない。ましてや夜に標高の高いヒダン山脈を越えようとするなど自殺行為である。ヒダン山脈越えは明るいうち行うか、暗くなればそこで野宿を行い、暗いうちは山越えを行わないことがセオリーなのだ。
3つ目にホストル兵たちが攻めて来ないのもおかしい。ホストル兵たちは降伏勧告はしたものの、パラディオンを取り囲むのみで門や壁を破ろうとする動きがない。これはおかしすぎる。ホストル王国へ戻る道が山道しかない以上、パラディオンの攻略に時間をかけてしまえば圧倒的にホストル兵たちが不利である。南方都市や王都の軍が援軍に動き始めれば、数でホストル兵が押し込まれてしまうだけでなく、ヒダン山脈が壁となり、ホストル兵たちの逃げ場がなくなってしまうのだ。通常ならば奇襲を仕掛け、援軍が来る前に可能な限り短時間で街を占拠するべきなのである。しかし、ホストル兵たちはいっこうに攻めてこない。
「こちらの兵数は3500弱だ。これでは街へ立て籠り、援軍を待つ他ない!すぐにリースとレブリックまで通信魔法で連絡をしろ!!急げ!!」
部隊長は、部下の兵士に指示を飛ばす。
パラディオンの兵士たちもホストル兵が取り囲み始めて半刻が経過したころには、街壁の上で臨戦態勢を整えていた。
パラディオンの住民たちは家から出ないように兵士たちに言われ、皆家の戸を固く閉ざしている。
街の門がある西側と南側の門は他よりも多くの兵士たちがで固められていた。
そんな中、パラディオンの南門を固める兵たちのもとに一人の青年が歩いてきた。
「おい、お前!何をしている。今は緊急事態だ。怪我をしたくなければ建物の中に入っておけ!邪魔だ!」
南門に歩いて近づいてくる青年に気づいた兵士が怒鳴るよう言うが、青年は意を介さずどんどん近づいて来る。
そして、門の前まで来ると兵士たちにむかって口を開いた。
「この街から出しもらえませんか?俺が外の奴らを片付けます!」
青年の正体はもちろんハイリだった。
「ならん!!大人しく帰れ!」
兵士がハイリの頼みを断る。
「お前一人で何ができるというのだ!!ホストル1万はいるのだぞ!今、街の門を開けてしまえばホストル兵が雪崩れこんでしれん!わかった帰れ!!」
「俺は強いぞ!この街を囲んでいる兵士たちになら勝てる。だから出してくれ!!」
「ならん!!帰れ!帰らんと牢屋にぶち込むぞ!!」
「いいから出せ!!」
ハイリと兵士の問答が続く。
最初の方は丁寧な口調だったハイリも、兵士が門を開けてくれないことに苛立ち声を荒げてしまう。
「よさんか!お前たち」
ハイリと兵士たちが言い争っていると、一人の兵士が割って入いった。
その兵士は、パラディオンの街の門を潜る際にハイリがギルドカードを見せた兵士であった。
「レンプトンさん!!」
「おい!若造、今は外に出すわけにはいかん。諦めろ!!」
レンプトンと呼ばれる兵士は、ハイリの目を見ながら告げた。
「何だ!俺は強い!!ホストル兵を蹴散らせることができる!だから行かせてくれ!!」
「ならん!!若造、お前が強いのは儂だって十分にわかっている。Aクラスのワイバーンを従獣にするくらいだ。外にいるホストル兵どもを削ることができるだろ!しかし、行ってはならん!」
「なぜだ?」
「先ほど通信魔法で王都に連絡したばかりでまだ交戦の許可が出ていないのだ」
「交戦の許可なんかいるか!!あいつらの方から攻めて来たんだ!こちらから仕掛けて何が悪い!!」
「この愚か者!!!!」
レンプトンはハイリむかって力強く怒鳴り、さらに言葉を続けた。
「まだ、ホストル兵は街を取り囲んでいるだけで我らに実害は出ていない。そんな段階で相手を攻撃してみろ!メルニダとホストルとで本格的な戦争になるぞ!そうなれば、例え、貴様がここでホストル兵を蹴散らせたとしても、他の街が戦場になるかもしれん。そうなってしまえばメルニダの民の命が多く失われることになるのだぞ!貴様はその失われるであろう命に責任を取れるのか??どうなんだ!おい!答えろ!!」
「そっ、それは・・・・・・」
ハイリは言葉に詰まる。
ハイリ自身は、旅をしている身であり、他の国へ気ままに移動できる。しかし、国を、職を、家を、家族を持つ者たちにとってはそうはいかない。
長く暮らしていく以上は、長期的な視野で物事を判断する必要があったのだ。
例え、ホストル兵をハイリが蹴散らしたとしても、ハイリはずっとメルニダ王国にいるわけではない。ハイリの独断で交戦したことによりハイリが旅立った後にホストルが再び報復に出れば、被害は必ず何処で発生するのだ。
ハイリは自身の身勝手さに気づかされ、己を恥じるのだった。
そんなハイリの気持ちを察してかレンプトンは優しくハイリに告げる。
「若造よ、理解したか?だから今は待ってくれ。通信魔法で王都から交戦許可が出るか、ホストル兵が我々に攻撃してきた時は共に戦ってくれ!お願いだ!」
レンプトンはハイリに頭を下げた。
「わかった。俺も冷静さを欠いていたよ・・・済まなかった!!交戦許可が出るか、敵が攻めてしたら教えてくれ、、じゃあ、俺は宿に戻るよ!」
ハイリは門を守護する兵士たちに頭を下げると、トボトボと歩いて戻るのだった。




