国王ナルダ
胸がすくような冷たい空気に迎えられパラディオンに朝が訪れる。ハイリは朝の冷え込みに身震いしながらも、ベットから起き上がる。羊の飼育が盛んな国の街だけあり、安宿とはいえ羊毛でできた毛布は上質で暖かい。
「久々にベットで寝たな。やはり、こっちの方がよく寝れるな!」
ナルカを侵攻されたあの日から野宿ばかりだったハイリには、ベットの心地よさなたまらない。名残惜しさはあるもののハイリはベッドから抜け出すと、宿屋に庭にある井戸でへむかう。
庭に出た途端に朝の冷たい空気がハイリに触れる。冷たく、新鮮な空気を大きく吸って深呼吸すると井戸の水で顔を洗う。
それからは、厩舎へむかいキュロスの様子を見に行く。
「やあ、キュロス!おはよう!!」
「キュー、キュウ!!」
キュロスは、ハイリに気づくと元気よく鳴き、挨拶をする。
キュロスの足元には、藁が敷き詰められた上から毛布が敷かれている。さらにキュロスの翼から胴にかけては、大きめの毛布が掛けられていた。
「寒くはなさそうで安心したよ。はい、これ朝飯な!」
ハイリはマジックバックから羊の丸焼きや羊肉のソーセージを取り出して、キュロスに与える。昨夜、《雪上の羊亭》で土産用に作ってもらったものだ。
キュロスは、羊の丸焼きに美味しそうにかぶりついている。
「はは、ゆっくり食べな!今日はパラディオンの冒険者ギルドで情報を集めることにするよ。だからキュロスはここでゆっくりしときな」
ハイリの言葉に羊の丸焼きに夢中になりながらも「キュウ!!」としっかり答えるキュロスであった。
○○○
日が高く昇り、ハイリが冒険者ギルドで情報収集に励んでいる頃
パラディオンの街があるメルニダ王国の南に位置する隣国ホストル王国の王城の一室にて会議が行われていた。
会議には、ホストル王国の各大臣や軍務職につく各地方の上級者貴族、宮廷魔道士、国軍の大隊長クラスの兵士が参加していた。そして、会議室の一番奥の上座の席には装飾の豪華な服を着た金髪の30歳ほどの男が座り、会議を取り仕切っている。
この会議を取り仕切る男こそホストル王国の国王ナルダだ。
広い会議室が狭く感じるほどの人数が集まっていた。
「では、今回の会議で出た結論をまとめるぞ。我がホストル王国は3日後にメルニダ王国に打って出る。それで良いな!」
国王ナルダの言葉に対して会議に参加していた軍務職の上級貴族から声があがる。
「陛下、最後の確認でございますが、本当にメルニダ王国との戦争に聖国の勇者がその力をお貸ししてくださるのですね?」
「ああ、何度も会議中に余が言ったであろう。余が直接、勇者殿と話をつけた。間違いなく此度の戦争で勇者殿は我が国の味方として戦ってくれる」
国王ナルダは、貴族たちに対し大きく頷いてみせる。
聖国の勇者の噂は各国の重鎮や貴族たちの耳に入っている。まさに一騎当千の戦力で、その加勢を受けた軍は必ず勝利するという話は有名だ。
「ならば、我ら一同に異存ございません。して、メルニダ王国に対して宣戦布告はなされますか?」
「馬鹿か!今回の戦争は、我が国がメルニダの全ての地を手に入れるためのもの。そのためには一切の情けや容赦は無用だ。全てを蹂躙するのだ!!」
国王ナルダが怒気を含めた口調になったことで上級貴族は慌て話題を変えることにした。
「さ、左様でございますか。して、勇者殿は今どこに??我が国に入国しているとは聞き及んでいますが、未だ勇者殿には会ったことがございません」
上級貴族は、不思議そうにナルダ王に尋ねる。勇者はこの会議に参加していない。そして、この会議に出席する者たちのほとんどが聖国からホストル王国に派遣された勇者に会ったことはなかった。
「ああ、そのことか。勇者殿は今、秘密裏にメルニダの王都リースにおるはずだ!」
「?? それはどういうことですかな?なぜリースに?それよりもリースからホストル国境まではどのように急いでも馬車で8日はかかる距離でございますよ??出陣は3日後であれば勇者殿が間に合わないのではございませんか?」
国王ナルダが勇者が現在はリースにいると発言したことや上級貴族から発せられた疑問の声に会議室はざわめきはじめた。
「鎮まれ!!お前たち!!」
国王ナルダの声が会議室に響く。ざわついていた会議の参加者たちも静かになる。
会議室全体が静寂に満ち、参加者たちの視線が一斉に国王ナルダに集まった。それを確認すると、国王ナルダはゆっくりと口を開く。
「勇者殿が今、メルニダ王国の都リースにおるのは我が国が此度の戦争で勝利するために必要不可欠なことだ。心配せずとも明日の夕方にはここに帰ってくるわ!」
「しかし、陛下、リースからここドゥームまでは10日は要しますぞ!!やはり間に合いませぬ!!」
「心配するなと言ったはずだ!勇者殿はな転移の魔法を自在に操ることができるのだ。あれをそこらの腕の立つだけの兵士と一緒にするな!!あれはまさに人外の化け物よ!!」
「転移魔法ですと!?勇者殿はリースからドゥームまでの距離を転移できるというのですか??ありえませぬ!!」
国王ナルダの言葉に会議に参加していた宮廷魔道士はじめとする魔法に心得のある者たちから驚きの声があがる。
転移魔法は会得するのが難しく、消費魔力が激しい魔法である。そのため会得したしても長距離を移動することはできず、魔力を回復する時間も必要なため実用的な魔法ではないとされている。
国王ナルダは笑みを浮かべさらに参加者たちが驚くことを口にする。
「ふふふ、だから化け物だと言ったであろう!それだけではないぞ。勇者殿は兵士1万程度なら同時に転移できるそうだ!これで、ヒダン山脈越えの心配はなくなるわ!!」
「なんと・・・・、して魔力を回復までに要する時間はいかほどに??」
国王ナルダの言葉を聞き、宮廷魔道士は唖然とする。
「ふふふ、驚いたか?勇者殿の話では大軍と一緒に転移する場合には半刻のほどで次の転移が可能だそうだ!」
「は?えっ!えぇ??た、たった半刻ですと!?」
既存の常識を打ち破る勇者の魔法。その話を聞いた宮廷魔道士は驚きすぎてうまく喋ることができない。
「明日の夜に再び会議を開く。その時には勇者殿を皆に紹介しよう!!それまでは各自戦争の準備を急いで進めろ。わかったな!では、今日の会議は終わるぞ!!」
国王から勇者の話を聞いた参加者全員が信じられないといった表情を浮かべる。そんな中、国王ナルダが参加者全員にそう告げた後にと会議は終了するのだった。
メルニダ王国に戦争の足跡が近づいている。




