出発
岩に打ちつける波の音ががリズムを刻む。野宿から翌朝、ハイリはハール大陸の北へ向かうため準備をしていた。
準備と言っても、着てる服を魔法で保温効果の付与されたものに着替えるだけだ。
「よし、じゃあ行くか!キュロスよろしくな!!」
「キュウウ!」
任せとけとばかりにキュロスは大きく翼を広げる。ハイリはその姿に頼もしさを感じながら、キュロスの背に股がる。
そして、キュロスは空へ飛び立つ。あっという間に陸地をつき離し雲の位置まで飛ぶ。
ハイリが下を見おろすと、そこには海の青が広がっていた。ハイリはポケットから方位磁針を取り出すと、北の位置を確認しキュロスへ指示を出す。キュロスが指示に従って飛行進路を変える。
1人と1匹は、ハール大陸北方にあるメルニダ王国を目指すのだった。
○○○
ハイリがメルニダ王国を目指し飛び立った、ちょうどその頃、シエン王国の最西端にある港町サモーには、3隻の戦艦が入港していた。
魔王討伐遠征に出ていた、勇者率いるシエン王国軍が帰還したのだ。港には、勝報を伝えられた沢山の民衆が押し寄せている。お目当は、遠征で圧倒的勝利をもたらした勇者を一目みるためだ。そんな民衆たちに、面倒くさいと思いながらも勇者は笑顔で手を振る。手を振られた民衆からは、キャーという声援が漏れている。
勇者は、参謀であるマーベルに先導されながら用意されていた一台の豪華な馬車に乗りこんだ。
「はっはは、勇者様はやはり大人気でございますな!勇者様の存在だけで、我が国の民たちも活気付くというものです」
勇者の向かい側に座ったマーベルは、笑顔で勇者に話しかけた。
「俺が遠征に参加したんだ、勝利して当たり前だろう!それよりも民衆に愛想を振り向くのも疲れた。早く馬車を出せ!」
「それもそうですな」
マーベルは馬車の窓から手を出して御者に合図を送る。するとほどなくして勇者を乗せた馬車が動き出した。
「勇者様には移動でお疲れのところ悪いのですが、今からシエン王国王都にむかいます。そこでクルカ王に謁見し、此度の遠征での勝利報告をしていただきます。勝報自体は、すでに通信魔法で伝えてあるので、簡単な報告で構いませんぬ」
「ああ、わかった!しかし、あと2日は馬車での移動と考えると気が滅入るな!俺の魔法を使って移動した方がはやいぞ!!」
勇者の言葉にマーベルは苦い顔をしつつも勇者を宥める。
「移動の連続で申し訳ありませぬ。なにぶんクルカ王様に勝報を伝えた際、すぐに勇者様から遠征の話を直接聞きたいとおっしゃっいまして。このようなことになった次第です。しかし、魔法で移動するのはおやめください」
「なぜだ?」
「何事も形式美というものがございます。勇者様を乗せた馬車が王都の門を通り凱旋する。それだけで、民衆たちは勇者様のご威光とシエン王国の繁栄を感じるのです。おそらく、王都に住む民たちの間にも此度の勝報はあまねく伝たわっているでしょうから民の出迎えは、サモーの比ではございませぬぞ!!」
「そういものか?」
「そういものでございます」
「わかったよ。そういうことは、全部お前に任せる。それよりも俺は寝るから、適当なところで起こしてくれ!」
バタっと馬車の長椅子の上で横になる勇者。豪華な馬車なだけあり、長椅子はフカフカだ。
「ハッ!かしこまりました勇者様!」
一応は納得してくれた勇者に安心しつつ、マーベルは寝息を立て始めた勇者を見守るのだった。
勇者を乗せた馬車は、シエン王国王都ザマルに向かって街道を進む。
○○○
煌びやかな装飾の施された椅子に座る初老の男が1人。男の座る椅子に後ろには、神アポクリフを象った大きな石像がある。
初老の男は目を瞑っている。
「教皇様!教皇様! 起きてください!」
銀髪の青年の声に教皇と呼ばれる男は目を開く。
「なんじゃ、ニンギルスか。どうしたのじゃ?」
「先ほど、港町サモーにある教会から連絡が入り、モモタロウが遠征から帰還したとのことです」
「おお、そうかそうか!して、結果は?」
「はい。モモタロウは魔王を討ち、その骸を持ち帰ったとのことです」
ニンギルスという青年は、教皇の問いに対して淡々と報告する。そして、ニンギルスからの報告を聞いた教皇は、ニヤリと笑う。
「それは上々。それでモモタロウは今どこに?」
「シエン王国王都ザマルに向かっているそうです」
「そうか・・・、ニンギルスよ。魔王の亡骸を聖国に運ぶようザマルの教会を通してモモタロウに伝えなさい」
教皇の命を受けたニンギルスは、「ハッ」と返事をすると部屋を出ていく。
1人になった教皇は笑いながら呟いた。
「これで素材は揃いそろいそうじゃの。フォフォフォ、我が悲願の成就も近いようじゃ」
教皇、そう呼ばれる存在はこの世界では1人だけ。アポ教最高指導者のことだ。ハイリの敵である異端者。
教皇は笑い終えると再び目を閉じた。




