7.休息1
「武尊、大丈夫かな」
千穂は居間でそうつぶやいた。
「先生が見てくれてるから大丈夫よ」
壱華がそう慰める。
「時って何だろう」
「今は分からないよ」
樹が千穂の言葉に答えた。樹も浮かない顔をしていた。
「なんか、疲れたな」
啓太も元気がない。
「はい、お茶が入ったわよ」
美緒がお茶を出してくれる。それに未海を含めた五人が手を伸ばした。
「あつっ!」
「気を付けて!」
熱いお茶を飲むことに失敗した千穂を美緒が心配した。千穂はえへへと笑う。
すっと襖が開いた。斎が居間に入ってくる。
「先生!武尊は!」
「大丈夫です。少し呪いをかけられたようですが、眠れば元に戻るでしょう」
「呪い!」
千穂が悲鳴を上げる。斎は優しく笑んだ。
「大丈夫ですよ。彼はそんな柔ではありません」
「でも!」
「大丈夫。それは千穂が一番分かっているでしょう?」
そう言われれば千穂はつまる。危機感は感じなかった。大丈夫だと、自分のどこかが言っている。
「はい」
千穂はしおしおと座った。それを斎は笑顔で見つめる。
「さて、私はお暇しましょうか」
「先生、お茶を淹れます」
「いいえ、けっこうです」
美緒の申し出をやんわりと断り、斎はすっと立ち上がった。高齢を感じさせない見事な所作だ。
「千穂」
「はい」
「武尊と仲良くやるのですよ」
「はい」
千穂は頷いた。うまくやるしかない。だって、彼がいなければ自分は簡単に死んでしまうのだから。千穂はうつむいてしまう。こんなに弱い自分が嫌になってしまう。
「それでは、今日はもうおやすみなさい」
「「はい」」
子供たちだけではなく、美緒も斎の言葉に返事をする。斎は優しく目を細めてから千穂の家から出て行った。
武尊は目を覚ました。外はまだ真っ暗だ。
―今、何時だろう
そう思って枕元にあるはずの携帯を探す。それはこつんと武尊の手にあたった。武尊は携帯を掴むと時間を確認する。
―四時
武尊はむくりと起き上がった。頭痛がする。視界も揺れている気がする。熱でもあるのかもしれない。
―喉が渇いた
水を求めて武尊は一階に下りた。まだ電気がついていた。居間に顔をのぞかせると、千穂が小さくなって座っていた。膝を立て、顔を押し付けている。そう言えば、ベッドに千穂の姿はなかったかもしれないと思いだす。テーブルを見ると、割れてしまった石が置かれていた。
「割れちゃったんだ」
その声に、千穂はばっと顔を上げた。大きな瞳が武尊を射る。
「寝ないの?」
「体は平気?」
二人は同時に言葉を発した。武尊は笑った。
「ちょっと風邪っぽいけど大丈夫」
「そか」
千穂はほっと胸をなでおろした。
「眠れないの?」
「うん」
千穂は小さくなって頷いた。武尊は座って割れた石に手を伸ばす。何とはなしにそれを拾うとぎゅっと手の中で握った。千穂が不思議そうな顔で武尊を見た。武尊は手を開く。ころんと、丸い石が転がった。―一回り小さくなった気がしたが。
「直った・・・」
「元に戻った!」
自分で驚いている武尊に対し、千穂が歓声を上げる。
「みんな起きちゃうよ」
そう言えば、千穂は慌てて口を手で覆った。
武尊はテーブルの上に置いてある紐を手に取り、また穴に通す。それを千穂の首にかけてやる。
「ほら、お守りは元に戻ったから、寝よう」
「・・・うん」
千穂はふわりと笑った。そう言えばと千穂は口を開く。
「武尊は何で起きて来たの」
「喉が渇いたから水を飲もうかと思って」
「お水ね」
千穂は立ち上がると台所から水の満ちたコップを持ってくる。
「はい」
「ありがとう」
水を飲み終わると、千穂がコップを下げてくれる。
「寝よう」
「寝る!」
武尊の言葉に千穂は元気よく答えた。




