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 始動5

 美緒を含めた面々は、顔をこわばらせていた。

「武尊、帰ってこないね」

「うん」

千穂の言葉に、未海が不安そうに頷いた。

「太良さんも戻ってないって」

「康兄も?」

「そうみたい」

樹の報告に千穂が質問を投げる。樹は頷いた。頭を占める言葉がある。人が行方不明になる村―神隠しの村―。

「・・・だめだったのかな」

「でも、武尊に限ってそんな」

未海の小さな声に、壱華が腰を浮かす。しかしすぐに座った。

「武尊頼みはだめよね。武尊がいれば大丈夫なんて思っちゃだめよね」

壱華の声も不安に震えていた。

 斎には報告済みだ。村の男たちは武尊と太良親子の捜索に駆り出されていた。啓太も捜索部隊に入れられたから、今ここにはいない。

「牙、武尊を見つけられないかな」

千穂が提案する。

「やってみようか!」

樹が立ち上がる。

「武尊の私物を借りよう!」

そう言うと樹はバタバタと二階に上がって行ってしまう。その後を千穂と壱華と未海は追いかけた。一人になった美緒はため息を吐く。そして家族写真が置いてある棚に膝立ちで近寄った。写真立を手に取る。そこには、家族四人で写った写真が収めてあった。それをぎゅっと抱きしめる。

「お願い、あなた。みんなを守って」

すっと涙が一筋流れた。


 ばっと二階から牙は飛び下りた。その背には樹が乗っている。

『俺、牙と探してくる!みんなは家から出ないで!』

そう言い残して行った。

「家から出ないでって言われても」

千穂と壱華はうろうろしてしまう。それを未海が諫める。

「家から出るなんて食べてくださいって言ってるようなものなんだからね!守り手も三人中二人が出払ってるんだから壱華にはいてもらわないと困るし」

「でもー」

「そうね、そうよね」

壱華が千穂の手を取る。

「下りて、下で待ってましょう」

「でも!」

「大丈夫よ」

牙まで出て行ったのだ。きっと見つかる。千穂は空いている手を胸の前でぎゅっと握った。いつかを思い出す。その日は今日とは違い雨が降った日だった。雨上がりの中を必死に探したのだ。それでも見つからなくて―否、見つかったのだがそれは最悪の状況でだった。

「貴ちゃん―」

千穂はずるずると座り込んでしまう。どうしよう。武尊まで死んでしまったらどうしよう。

「私と関わったから!」

「違う!」

それは違うんのだと壱華が叫ぶ。壱華はがっと千穂の細い肩を掴んだ。

「そんな言い方はダメ!絶対にダメ!」

「!あ、ごめんなさい」

千穂は頷いたが、手はまだ小刻みに揺れていた。

「下に行きましょう?私、お茶淹れるから」

「うん」

壱華に言われ、千穂はゆっくりと立ち上がった。気を抜けば、足がくじけそうだった。

―いつからこんなに弱くなったんだろう

―いや

―自分はずっと弱かった

それをみんなが守ってくれたのだと思い知る。そうでなければこうして生きてなどいない。震える足で、千穂は階段を下りて行った。


 樹は暗闇の中を牙に乗ってかけていた。自分たちが武尊と別れた場所まで戻ってみる。やはりその周辺を探しているのか、懐中電灯の明かりが動き回っていた。樹は啓太を見つける。

「兄ちゃん!」

ずざっと牙がブレーキを掛ける。飛ばされないよう。樹はぎゅっと牙にしがみついた。

「見つかった?」

「いや、まだだ」

啓太が視線を下にやり牙を見る。

「なんで千穂のところに残らなかったんだって言いたかったけど、確かに牙はいたほうがいいかもな」

「匂いも覚えさせたから、ここら辺から探したらいいかな」

「そうだな」

俺もついて行くと啓太は樹たちと行動を一緒にすることを決めた。

 牙は地面のにおいをかぎながら少しずつ歩いていく。その後ろを啓太は歩きながら周囲を懐中電灯で照らす。

「武尊ー」

いるかーと声を出してみるが、反応はない。

「こう見つからないと、貴輝のこと思い出しちゃうな」

「怖いこと言わないでよ」

「悪い悪い」

「本当に思ってる?」

「思ってるって」

啓太はそれだけ言うとまた周囲に注意を戻した。樹もじゃれているときじゃないと視線を前に定める。牙は進んでいく。その方向に、樹が首を傾げる。

「なんか、くねくね曲がってるね?」

「そうだな。まっすぐじゃないな」

兄弟は考え始める。

「こんなに曲がってちゃ、着くまでに時間が掛かっちゃうよ」

「だな」

啓太は足元も照らしながら道のない森を進んでいく。樹は牙の背に乗ったままだ。こっちの方が速い。

 牙について行き、二人は森の中を歩いた。そして、開けた場所に出る。その場所に、二人は戦慄した。

「ここって」

「貴輝が死んだ場所だ」

二人は目も合わせずにぎゅっと手に力を込めた。昨日、生贄の話で話題になった場所でもある。嫌な汗がにじむ。牙は洞窟の中へと進む。エレベータの前で止まった。二人は顔を見合わせる。

「行く?」

「ああ、行こう」

啓太が頷いて手をボタンに伸ばす。

「およしなさい」

その声は突然聞こえた。二人は洞窟の入り口に視線を向ける。そこには斎が立っていた。

「先生」

「でも牙がここにいるって」

「そこは私が確認しました。いませんでしたよ」

「そう、ですか」

啓太の答えは歯切れが悪い。心から斎の言葉を信じているわけではないことがよく伝わる。

「今日はもう遅い、帰ったほうがいいでしょう」

「でも!」

樹が食い下がる。斎は安心させるように柔和な笑みを浮かべた。

「武尊は無事ですよ」

「どうして分かるんですか?」

「占いの結果です」

そうですか、と樹が俯く。斎の占いが当たるのは知っている。

「どこにいるかは分からないんですか?」

「ええ、そこまではどうしてか分からないのです」

「そうですか」

斎は悲しそうな顔をした。

「私も年をとったのでしょうね」

そう言うと二人に背を向け歩き始める。啓太と樹は目を合わせた。

「今日は戻ろう。明日になっても見つからなかったらここに来よう」

「分かった」

啓太の案を樹は飲んだ。二人は斎の後をついて洞穴を後にした。

 ―日付が変わっても武尊たちは見つからず、捜索はいったん打ち切り日が昇ってから再開することになった。


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