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 違和感2

 ざくざくと森の中を他愛のない話をしながら歩いていく。

「荒川さん、相変わらず元気だったね」

樹が歩きながら言った。

「うん。お話長い~」

千穂は疲れたーと背中を曲げた。

「さっきの人、荒川さんって言うんだ」

「そうだよ」

啓太があくびをしながら頷いた。

「荒川さん、心配性だから」

「心配性とはちょっと違うような」

未海の言葉に壱華が首を傾げた。

 荒川さんの話を自分で振っておきながら、飽きたのか樹が話題を変えた。

「そう言えばさ、兄ちゃんって宿題大丈夫なの?」

「あ、それお姉ちゃんにも訊きたい」

弟妹組は、己の兄と姉の宿題を心配する。

「別荘でちょっとやったから平気」

「私も~」

兄姉コンビは終わってはないが、手を付け始めたから大丈夫だと言う顔をしている。

「ちょっとじゃ足りないでしょう!?」

樹が驚きの声を上げる。啓太は平気な顔だ。

「だって、まだ八月の頭だぜ?少しやっとけば充分だよ」

「そうそう」

千穂も頷いてしまう。

「まあ、泣くのはお姉ちゃんだから別にいいんだけど」

未海は樹よりも冷めているのかそれ以上言及しなかった。

「課題チェックした方がいいかもね」

八月の終わりに泣きつかれても困る。今のうちにコントロールして少しずつやらせなくてはと武尊はため息をついた。

「なんか、お姉ちゃんがすみません」

「いいよ。たぶん学期が始まっても泣きついてくる奴がいるのは目に見えてるし」

大島が助けを求めてくるのは確実だろう。もしかしたら優実も危ないかもしれないと武尊は計算を始める。

―やっぱり啓太と千穂は夏休み中に終わらせなきゃつらいな

「お昼寝したら、お勉強にする?」

壱華が提案する。

「え~」

「まじかよ」

千穂と啓太は明らかに不服そうだ。

「そうしよう。どれくらい終わったのか俺も知っておきたい」

「武尊まで~」

「壱華も分らないところとかあるでしょう?」

「あるわ」

うんと壱華が頷く。

「じゃあ、午後は課題を進めよう」

「「はーい」」

返事はしたが二人の顔は暗かった。


 ごろんと開けた場所にあった花畑に転がる。

「ああ~気持ちい~」

千穂はご満悦の用だ。ごろごろごろごろと転げて回る。啓太は頭の下に腕を敷いて寝る気満々だ。そんな二人を見て、武尊もごろんと寝転んでみる。木にくっきりと切り取られた空はきれいな青色をしていた。

―海の青とはまた違うな

―そう言えば、碧はおとなしくしているだろうか

―もし持ち歩いてれば、おとといの夜に入ってきた妖怪の話が聞けたのに

 現在の情報収集元はどうしても碧になってしまう。しかし、碧はよく物事を知っているようだった。

―あいつ、結局何者なんだろう。全然分からないな

そんなことを考えているとうとうとと眠気が襲ってきた。目だけ動かして周りも見れば、全員結局寝転んでいるようだった。まだ午前中だけどいいかと、武尊は目を閉じた。


 黒い何かが潜んでいる。こちらの様子をじっとうかがっている。しかし、その姿は見えない。

 シャン

剣が鳴った。危険が近づいているのだろうかと武尊は首を傾げた。けれど、周囲を見渡しても何もいないし、誰もいない。

―結界にでも閉じ込められたんだろうか

一人隔離され、千穂が危険な目にあっているのかもしれないと考える。だったら急いで行かなくてはならない。

 シャン

剣は鳴る。しかし、武尊は危険を感じなかった。焦りを感じなかった。なぜだろう。心はとても穏やかだ。それすら、罠だと言うのだろうか。

 シャン

剣が鳴る。その声に応えて武尊は剣を顕現させる。ふわりと黄金の光があたりを照らした。

「っ!」

視線を感じて視線を落とすと、足元に大きな目が一つあった。地面にガラスでも張られているようだった。透明な壁に仕切られ、その壁にべったりとくっつきこちらをうかがっている。

「なっ!」

一つだと思っていた目が数えきれないほどに増えていく。

「なんだよ、これ」

―ね

「何?」

それは、何か言いたげだった。微かに声のようなものが聞こえる。

―ね

―し、ね

―死ね

「・・・・・・」

その言葉に、慌てるような武尊ではなかった。武尊はそっと剣の先をそれに向ける。そして振りかぶる。その瞬間、逃げるようにそれは地下深くに沈んで行った。武尊はぽつりとつぶやいた。

「なんだったんだ?」


 パチッと目を開く。とたん白い光が差し込んできて、武尊はぎゅっと目をつぶった。今度は慣らすようにゆっくりと開ける。そして上体を起こす。すると千穂が壱華と花を摘んで遊んでいるのを見つける。

胸に手を当ててみる。心臓はリズムよく脈打っていた。

―夢?

ふるふると首を横に振ってみる。隣を見れば、啓太が大の字になって眠っていた。そのさらに隣では樹も眠っている。その光景はどこまでも平和だった。

―夢、だったんだよな

武尊はぎゅっとシャツの胸元を掴んだ。冷や汗をかいたわけでもない、自分の体は平素通りのそれだ。

―じゃあ、今のはなんだ?

夢に見た意味があるのだろうか。

―話した方がいいんだろうか

武尊はじっと千穂を見つめた。

「どうしたんですか?固まって」

上から声が降ってくる。見上げれば、未海が上から見下ろしていた。腕には大きな水筒を抱えていた。

「喉乾くかと思って」

調達してきました、と未海は笑った。

「家の麦茶なんですけど」

「いや、ありがとう」

「どういたしまして」

未海はそう言うとさくさくと千穂の方へと歩きだした。

「お姉ちゃん!お茶持ってきたよ!」

「飲む飲む!」

千穂はぴょんと立ち上がった。

「はい、急いで飲んでむせないでよね」

水筒のコップにお茶を入れて千穂に渡す。

「ありがとう!」

 ぶわっと強い風が吹く。花弁が強い風に舞った。青い空に映えてそれらは美しかった。

―この空気を進んで壊す必要もないか

武尊は、夢のことは今はまだ話さないと決めた。


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