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3.違和感1

 意識が浮上する。武尊はゆっくりと目を開いた。手を頭の上に伸ばし携帯を探す。携帯が見つかるとそれで時間を確認する。

「七時」

のそりと起き上がる。隣を見れば、ベッドで千穂は気持ちよさそうに眠っていた。

―起こしていいかな

連絡もなしに部屋から出たら、なぜ睡眠中にいなくなったのかと怒られるに違いないという予測は簡単に立った。

―昨日もなぜ部屋にいなかったのかって突進してきたもんね

やっぱり起こすことにする。膝立ちになって、細い体を揺らす。

「千穂、起きて」

「う~ん」

「千穂、朝だよ」

「もうちょっと」

「俺、起きるよ」

「うん~」

話しにならない。起きる気配がみじんもない。

 武尊は息を吐き出すとゆっくり立ち上がった。

―顔でも洗おう。で、三人が起きてるか見てみよう

啓太は寝てそうだなと思いながら廊下に出る。ゆっくりと扉を閉めた。二階にもついている洗面台を使い顔を洗う。すっきりしたと思いながら、本来なら自分が寝るはずだった部屋の障子をそっと開けてみる。三人ともまだ眠っていた。なら起こす必要もないだろうと何もせずに障子を閉じる。何をして暇をつぶそうか考えながら千穂の部屋に戻る。千穂もまだ眠っていた。

―昨日は何時に起きたんだったっけ

そんなことを思いながら布団の上に座る。携帯でもいじってみようと手を伸ばし、携帯を見るには部屋が少し暗いと気づく。

―カーテンくらい開けてもいいよね

もう朝だし、と武尊はベッドの足元に膝をついて、ベッドの向こう側にある窓のカーテンを開けた。今日もいい天気だ。

「ん~」

まぶしさに覚醒を促されたのか、千穂がもぞもぞと動く。起きるかと武尊は期待したが、千穂は布団を頭からかぶってしまった。光避けだ。

「起きないのか」

少々呆れながらベッドから下りる。

 たぶん、今日は何事も問題は起きない。そんな気がしていた。そしてそれは一日が暇であることを意味する。

―課題でもするかな

しかし、別荘での勉強時間で出された課題は全部終わらせてしまった。見せてと言われるから誰にも言っていないが。

―なんだかんだあっちにも長くいたからな

七月いっぱいは別荘にいた。あの忠文を核にしていた化け物を倒した後はほとんど海で遊んでいたためみんな焼けた。そんなどうでもいいことを思い出し、武尊は時間をつぶしていた。

―昨日、風呂場で感じた気配は誰のものだったんだろう

ふと、引っかかる。十中八九、この村の人間だろう。村人が、なぜ自分を見張るようなことをする?

―千穂に何かするとでも思われているんだろうか

―それとも、別に理由があるのだろうか

思うことはあった。不思議に感じることはあった。それは口にはしないけれど。

―銀の器は、この村ではどう思われているんだろう

「ん?」

 千穂が寝返りを打つ。見れば、千穂はかぶっていた布団をはがしたところだった。

―暑かったのか

苦笑しながら見ていると、千穂が目を覚ましたらしくゆっくりと上体を起こした。

「あれ?武尊?おはよう」

「おはよう」

千穂はまず武尊が隣にいるか確認した。今日はいなくなっていなかったので安心したようだ。

「夢はどうだった?」

「大丈夫だったよ」

えへへと千穂は笑う。

「先生のお守り効いたのかな」

「そうかも」

そう言えば、千穂は首元にかけてある石を手に取った。そしてふふふと笑う。

「きれい」

「そうだね」

そう返せばまたえへへと笑った。千穂はベッドから下りると、顔を洗ってくると部屋を出て行った。

―千穂が戻ってきたら一階に下りよう

武尊は床に敷いてある布団をたたみ始める。たたまないと手狭なのだ。それに万年床もよくないだろうと武尊は思った。扉が開く、千穂が戻ってきた。

「下に下りるけど、千穂も起きる?」

「うん」

顔を洗ったはずなのに、千穂はまだ眠そうだった。


「何して遊ぶかな~」

 啓太が朝食後、横になりながらそうぼやいた。

「川遊び?」

「また?」

樹の案に啓太は不服そうに声を上げた。

「森に出たら危ないでしょう?」

壱華も考えるがいい案が思いつかない。

「森って、あの森で遊んでたの?」

「そうだよ」

武尊の質問に千穂が頷いた。それがどうかしたかと大きな瞳が問うてくる。

「いや、よく迷子にならないなと思って」

「小さいときはよく迷子になってたけど、もうずっと遊んでたから覚えちゃった」

「そんなもん?」

「樹は小さいからって理由で一緒に来るの許されなかったりしたけど」

「それはいいから」

樹は恥ずかしいのか千穂の言葉を遮った。

「よくかくれんぼして遊んだ」

千穂が懐かしそうに目を細める。

「へー」

―隠れる場所に困らなさそう。てか、見つけにくそう

武尊はそんな感想を持った。

「いつも何してたの?夏休みとか冬休みとか」

尋ねてみる。四人はうーんと考え込む。

「やっぱり森に入って何かしてたわよね」

「森には行ってた」

「そうだな」

壱華の答えに樹と啓太もうんうんと首を縦に振った。

「森かー。俺が迷子になりそう」

「じゃあ、誰かとついて回ればいいよ」

「だったらやっぱり千穂について回ったほうが安全じゃない?」

森に対して自信がない様子を見せる武尊に、千穂と壱華が提案する。

「それで遊びになるならいいけど」

武尊はテーブルに乗せていた上半身を起こした。

「森に行ってみようよ!先生の結界内だったら大丈夫だよ!」

千穂がぴょんと立ち上がる。それにみながそれもそうだなと体を起こしたり立ち上がったりする。居間を出ると、二階から未海が下りて来たところだった。

「どこか行くの?」

「森!」

千穂の答えに未海は眉根を寄せた。

「森は襲われるって言ってなかったっけ」

「言ったっけ?」

「言ってたよ」

「大丈夫!武尊と一緒だから」

「まあ、武尊さん一緒なら安心だけど」

いいんですか?と未海は武尊に目で問うた。

「別にいいよ?家にいるのも暇しそうだったから」

「本当ここ田舎で」

未海も暇なのか分かると頷いた。それを見た千穂が未海を誘う。

「未海も行く?」

「・・・・・・行こうかな」

そういうと未海は準備してくると階段を駆け上って行った。その背を見送る。

「靴でも履いてましょうか」

「うん」

未海は長袖長ズボンに着替えてきた。

「森は危ないからね!」

未海は威勢よくそう言った。


「よかったね~千穂」

 森に向かう途中、遭遇した村人に千穂たちは足を止められていた。50代と思われる女性でちらちらと武尊をうかがいながら千穂に話しかける。

「金色の使い手が見つかってよかったよ」

「はい」

千穂は少し困ったような表情を混ぜながら笑った。

―なんか、長くなりそう

武尊は二人を見つめながらそんなことを思った。

「みんな心配してたんだよ。いつになっても金色の使い手候補が現れないんだから」

―みんなで心配してたのか

―千穂は村で守るという認識なのかもしれない

武尊は会話に耳を澄ませながら考える。

「東京に出て良かったね~」

「はい」

ふと、武尊は思い至る。

―どうして俺と、東京で会わせたんだろう

―俺をこの村に送りこんでもいいだろうに

それをわざわざ学校まで作って東京に呼んだ?どうして?

―ここだと俺がやりにくいから?

武尊は思考に没頭し始める。

―村の人間は見える人間ばかりだ。そして千穂のことを守らなければと思っている。

―村を出ないほうが千穂は安全ではなかったのか

―それをどうして村から出したんだろう

別荘に遊びに行かせたことを思い出す。あれが時間稼ぎだったとしたら。

―父さんは、千穂をこの村に帰らせたくなかった?この村から出したかった?

―この村は、千穂にとって危険なのか?

胸に手を当ててみる。剣は静かだった。

「胸でも痛むの?」

女性にそう話しかけられ、武尊は現実に戻ってきた。

「いえ。何かあったら剣が鳴るから、何もないか確認したくて」

また知らないうちに妖怪が紛れ込んでいたら危ないなと思って。そう言えば、女性は眉をハの字にした。

「そうなのよ!なんで先生の結界があるのにあんなに入ってきたのかしらね!」

食いつかれてしまった。間違えたと武尊は苦笑いで後ずさる。

「さあ、どうしてでしょう」

「あなた、貴昭君の息子さんなんでしょう?お母さん似なのね。貴昭君には全然似てないもの」

「よく言われます」

そう答えるとでしょう?とまた食いついてくる。

「それにしてもきれいな顔してるのね。本当に男の子?」

「はい、そうです」

「そうよね、がっちりしてるものね」

啓太ほどじゃないけど、と笑う。

「そう言えば、みんな揃ってどこかに行くところだったの?」

女性がとうとう会話の終わりに近い話題を選んでくれた。

「はい、森に遊びに行こうかと思って」

「先生の結界に入っているころまでにしなさいよ」

「はい」

当然ですと武尊を除いた五人が頷いた。

「じゃあ、気を付けて行ってらっしゃい」

「行ってきます」

こうしてやっと立ち話から解放された。


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