211幕間 辰砂とイルの1分クッキングいか飯!いか飯!スペシャル
「あれ?立て続けに収録なんて珍しいですね、どうしたんですか……そ、それは!」
「うん、見ての通り剣先烏賊だ。今年もどこかの誰かからお裾わけが来たわけだね」
「あー。諸々の事情によりシーズン終わりかけになっちゃったけどどうにか行けるってホクホクしてましたね」
「来年こそは開幕の大型を狙うそうだぞ。確かに胴長が17~18cmくらいか、小さいからな。まあ、釣る度こちらにも流れてくるならそれでいいけど」
「そうですね、ところで俺去年このイカ料理を食べてないんですよ、また次回とか言ったっきり一年、一年ですよ?イカ料理回はやってこなかったわけです」
「う、ごめん。普段殆ど店売りの物は食べないんだよ。だから釣りに行くか貰うかしないと烏賊を取り上げる機会が無いんだ。今からできるだけ美味しく料理するので許してくれ」
「むむ、しょうがないですねえ。別に根に持ってるわけじゃないんですよ、別にね。ただ烏賊の美味しさだけ聞いてお預けだったのを覚えてるだけでー」
「(大分根に持っているなあ)うん、捌くところは一年前にやったから今回は調理段階からやっていこうと思って下ごしらえをしてあります。今日作りたいのは烏賊飯なので、胴体は切り開いていないままです」
「へえ?耳も皮もそのままでいいんですか?確か前回は白くて綺麗な状態にしてましたよね」
「うん、刺身にする時には皮は邪魔以外の何物でもないからね。だけど今から作る料理には皮も美味しさの一部になれるから、むしろ剥かない方が宜しい。さて、ではまずは米を洗います」
「はい、ところでどうして俺も辰砂も米を洗っているんですか?そんなに大量でもないのに」
「うん、それは米の種類が違うからだね。イルが洗っているのは普段使いのうるち米、私が洗っている方はもち米と言う。良く見るとうるち米の方が透明感が強いんだけど、わかるかな」
「あ、ほんとですね。同じくらいの量ですけど、使いどころが違うんですか?」
「いいや、混ぜて使うよ。別にどちらかだけでも出来るしいろいろ流派はあるけれど、私が半々が好きなだけ。個人的にもち米だけだと冷たくなった時の固さが辛い。うるち米だけだと出来立ての食べ応えがちょっと物足らない。そう言う理由です」
「ふうん?はい、混ぜてざるにあげました。ええと次は、下足を刻むんですか」
「はい、刻んでいきます。なおこの小ささの胴に下足を全部入れると米の入る余地がなくなりますので私は大分減らして四分の一くらいにします。胴長30cm位あると全部入れてもいけるんだけどね、今度は鍋に入らないって言う」
「中々上手く行かないもんなんですねえ。はい、米と下足が混ざりました。そしたら、え?胴にお米を詰めるんですか?」
「イカ飯だからね。非常に調理手順がシンプルです。これがまた米粒がなかなか言う事を聞かないんだ。サイズが大きいとこの苦労は大分軽減するんだけど、素人が失敗なく炊くにはこの掌程度のサイズが丁度良い、面倒だけどね」
「詰める量ってこんなちょっぴりでいいんですか?なんか寂しいですね」
「いいんだよ、米粒が炊いてるうちに膨らむから。今いい感じに詰めると破裂して大失敗する。はい、では口を爪楊枝で留めてください。煮てる間に米が流出しないように」
「はあい。で、留めたら鍋に敷き詰めるんですね。楊枝が刺さらないように気をつけないといけませんね」
「さすがDex1000超えだな、餃子以来の凄さを見たぞ。ええと煮汁は酒と味醂と醤油で作るぞ、だけどこれを入れた後烏賊がひたる位には水を足すこと。薄いんじゃないかってくらいにしておくのがポイントだ。薄かったら後で煮汁を煮詰めてかければいいんだから」
「まあ、しょっぱい物を薄くするのは難しいでしょうね。おお茶色一色の鍋に火が入りました。結構な強火ですね」
「煮立つまでは強火で大丈夫。沸騰したら少し火を落としてアルミホイルなんかで落とし蓋をします。烏賊臭くなるからまともな落とし蓋は使わない方がいいと思う。結構しみつく、さて。烏賊が小さいから30分も炊かなくていいと思う。しばしお待ちを」
「珈琲淹れましょうか?」
「そうだな、頼む」
~しばらく後~
「炊きあがったな。落とし蓋をした場合、煮汁の残量は常に気を掛けて欲しい。烏賊が水面から出てしまっていたら、途中でひっくり返さないと味むらが出来るので」
「あれ、烏賊を引き上げたら思ったより煮汁が少ないですね。結構一杯入れたのに」
「米も水を吸うからな。だから調味料だけで煮汁を作ると地獄の様な事になる」
「うわあしょっぱそう……ま、まあそれはともかく烏賊がしっかり膨らんでますね!こんなに膨らむなら最初が寂しいのもわかりますよ」
「うん、艶々だし皮も破れなかった。良い出来だ。後はこの煮詰めた煮汁を掛けて、楊枝を抜いていきます。しっかり形になってるからもう外しても中身は出て来ない」
「あ、本当だ。それにしても何だろう、初めの煮汁とは違うけどいい匂いが漂ってますよ」
「烏賊を煮ると、烏賊にしか出せない味と匂いが出るんだよな。生、焼き、煮物、揚げ物……それぞれで違う表情を見せるんだ。演技派なんだな。よし、食べようか。小さいし切り分けなくていいや」
「いただきまーす!む!……!」
「(意外とすぐに飲み込めないんだよなあ、もち米って……)うん、やっぱり薄味にしといてよかったな。身が薄いからか味馴染みが良過ぎた」
「……ごくっ。辰砂、これ美味しいですよ!なんだろうなんか烏賊が美味しいんですよ!中のお米も烏賊じゃない筈なのに猛烈に烏賊なんですよ!そしてもっちもちなんですよ!」
「お、気に入ったみたいで良かったよ。烏賊を貰う度無性に食べたくなる不思議な食べ物なんだよなあ、今後も恐らく定期的に作ると思う」
「それはとってもいいですね。俺手伝いますよ。うん、二口三口で無くなるサイズなのも良いです。何かもう一つもう一つってなっちゃう、もぐもぐ」
「冷まして食べてもまた感じが変わって美味しいんだが、無くなりそうな勢いだなあ」
「……え!?そんな楽しみ方があるんですか……!?う、うう。ううっ、これで終わりにします……後は我慢しますから」
「そんなに気に入ったのか、うーん。材料さえあればもう一度作るのはやぶさかではないんだが、どっかの誰かもそれほど釣れなかったらしくてな。もう烏賊が無いんだ。ごめんな」
「ううん、辰砂のせいじゃないのです。誰かさんが爆釣しないからですとも!来年は山程釣ってきてもらいましょうね!」
「うーん、多分本人が一番そう思ってると思うよ……。まあ、ぼちぼち期待しておこう。あ、お時間が来たようです。それではまたいつか、ごきげんよう」
「ごきげんようー!」




