75幕間 カリスマちゃんとウールくん その①
ウールくんは近頃なんだかもやもやしています。ご主人様のカリスマちゃんが、溜め息ばっかりついているからです。
カリスマちゃんの溜息の理由もウールくんは知っています。カリスマちゃんが待っている『王子様』のせいです。
カリスマちゃんの憂鬱はある朝唐突に始まりました。いつも通りカリスマちゃんが起きてすぐウールくんを抱きしめてくれました。大きな掌が、見た目よりずっと優しく撫でてくれるのでウールくんは幸せいっぱいになれるのです。
だけど、そのあと『うんえいメッセージ』と言うものを読んだ後からカリスマちゃんはおかしいのです。切れ長のお目目をきらきらさせて『メッセージ』を読んでいたカリスマちゃんが、にわかに涙をこぼしました。
ウールくんは飛びあがるほど驚きました。だっていつもにこにこしているカリスマちゃんがしくしく泣いているのです。ものすごく大変なことが起きているのだとウールくんにはわかりました。
『……カリスマちゃん泣かないで』
ウールくんはカリスマちゃんの涙を前足でそっとおさえました。カリスマちゃんの涙は全然止まりませんが、カリスマちゃんは明らかに無理をして笑いかけてくれます。
「ありがと、ウールちゃん。……聞いてくれるかしら?アタシ、運命の王子様をずっと待ってるの、だけどね、今この世界のどこにも王子様がいないことがわかったのよ……」
ウールくんは愕然としました。だっていつも優しいカリスマちゃんには好きな人がいたのです!カリスマちゃんと結ばれるのは『王子様』で、ウールくんじゃないのです!
『……僕じゃ、ダメなの?カリスマちゃん』
ウールくんは一生懸命カリスマちゃんの涙を抑えて泣き止ませようと頑張りました。でもカリスマちゃんにはウールくんの言っていることがわかりません。カリスマちゃんはウールくんが慰めてくれていると思っているようでした。
『……ありがとうなんて』
お礼を言ってくれるカリスマちゃんでしたが、ウールくんが欲しい言葉はそんなものではありません。ウールくんは、カリスマちゃんに元気になってほしいのです。出来れば、自分の力でなってもらいたいのです。だけど言葉は通じません。
ウールくんはあんまり考えることは好きではないのですが、とにかくカリスマちゃんに自分の気持ちを伝えたいと思いました。ウールくんはない頭を振り絞って考えます。
『……そう言えば』
カリスマちゃんと仲良しの良い匂いのする人の事を思い出したのは、それからしばらく経ってからです。正確には、一緒にいる気の強そうな水龍の事でした。良い匂いの人と水龍は確か喋っていた気がします。次会ったらどうして言葉が通じるのか聞こうと、ウールくんは心に決めました。
次の日。わくわくしながらウールくんは水龍を待っていましたが、その日に限って二人は来てくれませんでした。そりゃそうです、その頃辰砂たちはスパイダー農場を暢気に見学していましたから。がっかりしすぎて思わず泣いてしまい、カリスマちゃんを心配させてしまいました。反省しきりです。
次の日。今日は来なくても泣かないぞと、後ろ向きな決意を抱えたウールくんを運命の女神様は見離しませんでした。遅い時間でしたが、水龍が来たのです!待たせすぎです!ウールくんはドキドキしながら良い匂いの人を試着室に引っ張り込みました。カリスマちゃんにだってこんな強引な事やったことないのに!
『……ちょっと、水龍。出てきて』
ひとまず第一目標は達成です。後は良い匂いの人を追い出せば完璧だとウールくんは水龍を呼びました。
「何だ俺に用事かよ、ですか」
水龍は嫌そうな雰囲気を出していますがウールくんは知っています。この水龍、粋がってみているけれど実はだいぶいい奴です。良い匂いの人をいつも守るようにしているのですから悪い奴なはずがありません。
『……教えてほしい事があるの!内緒話したい』
「はあ?……辰砂、俺ちょっとこいつと喋るます、戻ってていいですよ」
近頃おかしな言葉遣いをする水龍は、それでもウールくんの要求に従って良い匂いのする人、辰砂さんを外に出してくれました。やっぱり良い奴です。カリスマちゃんにちょっかいを出さないところも良い奴です。
「で何だ、ですか?わざわざ呼び出すくらいなん、ですから大事な用なんでしょう」
『……どうやって喋れるようになったの?』
ウールくんはあんまりおしゃべりが得意じゃありませんので、単刀直入に尋ねました。水龍はそんなことかと言いながら、思い出すように首を傾けました。
「どうだったかな?なんか、ばあちゃんに言われて……お礼言わなきゃって一生懸命話しかけて……だんだん通じるようになってきたんじゃなかったっけな?」
衝撃の方法です。一生懸命話しかけるだけなら、ウールくんだって朝昼晩と欠かさずやってきています。だけど一向にカリスマちゃんには通じていないのです。
『……話しかけてるもん。なんか他にはないの?』
ウールくんは頬を膨らませました。いつになったら通じるやらわかったもんじゃない不毛な努力は、やる方も結構辛いのです。水龍は困ったような顔をしました。トカゲの顔なのでよく分かりませんが。
「うーん……お前、ステータスって見たことあるか?カリスマのも、お前のも」
『……カリスマちゃんを呼び捨てにするなよ!僕だってまだなのに!えっと、見たことは有るけど』
ウールくんは断固抗議を申し立てました。カリスマちゃんを呼び捨てにしていいのはカリスマちゃんの王子様になりたいウールくんだけなのです。水龍は引きつったような顔で頷きました。
「あー、うんわかった。それでだな、お前とカリスマ……さんのInt値とMnd値、覚えてるか?」
愚問です。ウールくんはあんまり頭がよくありませんが、大好きなカリスマちゃんの情報を忘れるほど愚図でもありません。自信満々に答えました。でも自分のは見てみないとわかりませんのでステータスを開きます。
『……カリスマちゃんのIntは80でMndは70だよ。僕のは、えーっと両方50だ』
「あー、たぶん二人とも両方のステータスが足りてねーんだわ。俺の取得可能スキルには【人語】があるけど、お前のには無いんじゃないか?取ってないけど」
目から鱗でした。なんとこの水龍はウールくんより何倍もレベルもステータスも高かったのです!水龍の言うところによれば、いろいろ頑張っているとスキルを習得することができるそうなのです。しかし、ウールくんくらい頑張っているのにスキルが習得できていないと言うことは、他の部分が足りていないのではないかと言うのです。
「俺らの適当な会話ですら取得可能になるくらいなんだから、お前もステータス上げればいいんじゃね?」
水龍はやっぱり良い奴でした。ウールくんに頑張ればできそうな目標を教えてくれたのです!カリスマちゃんは普段お裁縫ばっかりしていますが、たまに素材を求めて戦うことがありました。その時にウールくんも頭から降りて戦えばいいのです!
『……頑張る。僕、カリスマちゃんの王子様になる』
「えー……いや、まあうんいいんじゃねーの、うん。蓼食う虫も好き好きだよな」
たでなんとかはウールくんにはわかりませんでしたが、水龍も応援してくれているようです。これでやらねば男がすたる!ウールくんは意気込みました。
『……カリスマちゃんにふさわしい男になって見せるんだから……!』
ウールくんの脳裏には、カリスマちゃんより大きくなってカリスマちゃんを抱きしめてあげるウールくんの姿が鮮やかに描かれました。今は抱きしめてもらってますが、いつか絶対抱きしめてあげるのです。頑張れウールくん!
なお、焦れたイルが辰砂を呼ぶよう頼むまで、ウールはうっとり妄想に浸っていたのであった。




