表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マーメイドウィッチ  作者: いろはうた
52/88

決行

結局、答えは朝になっても出なかった。


ベッドの上で座り込む。


今日は何をすればいいのだろう。


その時、不意に、こんこんとドアをノックする音がした。


カルトが立ち上がろうとするフレヤを手で制し、


ゆっくりドアに近づく。


その右手は、腰にさしてある短刀にのばされている。



「我だ。


 さっさと開けろ」



ドアの向こうから、ふてぶてしい声が聞こえた。


フレヤは緊張を緩めたが、カルトの右手はいつでも


短剣を抜けるようにしてあるままだ。


カルトは素早く左手でドアを開けた。


そのとたん、人影が素早く飛び込んできて、


カルトにとびかかった。


響く鋭い金属音。


カルトが自らの短剣を抜き放ち、その人影の刃を受け止めたのだ。



「シウ様に、刃を向けるとか!!


 ありえない、殺す!!」



フレヤはあっと声を漏らした。


人影はつり目に茶髪の少女。


メノウの屋敷でシウの供の者としてその場にいた少女。



「リン、よい」


「シウ様!!


 ですが……!!」


「よいと言っている。


 下がれ」


「っ、はい……仰せのままに」



リンと呼ばれた少女は、しぶしぶ剣をおさめた。


しかし、この国では見たことのない形の剣だ。


たしか、東洋の国ジパングの出身のはず。


ジパング独自の剣に違いない。



「彼らが援軍……?」



フレヤの目は、シウの後ろに控えているものに向けられていた。


そこには、二人の青年が立っていた。


一人は藍色の髪色を持つ青年だった。


風変わりな白い衣を身に着けている。


その白さが神聖さを際立てていて、神官のような雰囲気を醸し出していた。


その瞳はフレヤやシウと同じ真紅に輝いている。


もう片方の青年は、シウと同じような民族衣装を身に着けていた。


こちらは、白ではなく薄い水色の衣を身に着けている。


しかし、純白の衣を着ている青年とは違い、


どっしりとした覇気を感じる。


おそらく武人なのだろう。


禁欲的なまでに、襟は首元まできっちりとしめられていた。


その瞳は、リンや満月の夜のチノと同じように金色だった。


人間とは大きく異なるその色に、彼らが異形の者なのだと


すぐに悟ることができた。


援軍なのだとしたらずいぶんと到着が早い。



「我の配下だ。


 白いのがジパングに住む鴉天狗の一族の末裔、ヤワラ。


 水色のが腐れ縁の龍族の長、ロンだ」


「おい、腐れ縁とはなんだ。


 てめぇの配下になったつもりはねえよ」



すぐさま反論したのはロンと紹介された青年だった。


金色の瞳を不機嫌そうに細めている。


その仕草がチノに似ていてどきりとした。



「シウ様。


 この娘が、シウ様のお探しになっていた娘なのですか……?」



一方のヤワラと呼ばれた青年は、不審そうにフレヤのほうを見ている。


じろじろと全身を無遠慮に眺めまわされ、フレヤは気まずい思いをしながら


こぶしを握り締めた。



「確かに、見目は我らと似通った部分がありますが、


 この者、南蛮人であるうえに、ただの小娘ではありませぬか」



あきらかに馬鹿にされている。


元王女であるフレヤは、差別など生まれてからされたことがほとんどない。


だから、明確な差別の意思を含む視線に


一瞬視線をそらしかけたが、きっと睨み返した。


ここは、折れてはいけない気がした。


数秒にらみ合った後、先に視線をそらしたのはヤワラだった。



「たしかに我らの中では最弱であろう。


 だが、人間どもを相手にしたとき、この娘の力は


 我らの中でも最も強い部類に値する」



言外に歌の力のことを言われているのだと悟る。


左様ですか、といったんヤワラは引き下がったが、


その視線にはまだありありと不信の色が残っていた。



「シウ様、このクソ生意気な男、何ですか。


 あたしが殺しちゃってもいいですか?」



まだ殺気を消さなかったのはリンだ。


その視線は、カルトに固定されている。


しかし、カルトはとっくの昔に、リンから興味を失って横を向いている。


それが、癇に障ったらしい。



「その男、我が国に勧誘している狼族の者だ。


 もうすぐ、我が国の民となるのだから殺すな」



シウが珍しくアルハフ族のことを犬だと言わなかった。


一応狼の血を引く一族だということは知っているらしい。


リンはものすごく悔しそうな表情をしながらも、


大人しく引き下がった。


驚いた。


三人ともなんだかんだ言いながらもシウに従っている。


見た感じだと、シウの軍の幹部を呼び寄せた、と言うところだろうか。
















フレヤは王宮の近くまで来ていた。


もちろんカルトとシウ、シウの配下三人も一緒だ。



「先ほども言ったが、この姫君の言う王宮の警備の薄い場所は


 あまりあてにならない」


「……」



フレヤは顔をしかめながらも、無言だった。


ステファンのことだ。


警備の配置も変えていてもおかしくないからだ。


これからは、二手に分かれる。


今回の目的は、アルハフ族の救出。


囮役と救出役の二手に分かれて救出を確実なものにするためだった。


囮役は顔の割れていない、ロンとリン。


救出役は、鼻の利くカルト、いざとなった時には


人間の兵士に幻惑の力を使えるフレヤとシウ。


そして、鴉天狗のヤワラには驚いたことに翼があった。


その翼で弱っているアルハフ族がいた場合、


空中を飛んで抱えて救い出せるのだ。


シウを一人にするわけにはいかないと、


リンとヤワラがごねたが、最終的には二人ともシウの指示に従った。



「……兵はいないようです」



早速、背中の翼を使って上空から王宮の警備の様子を確認してきた


ヤワラが着地しながら言った。


確認してもらったのは、王宮の東にある壁側だった。


王宮の東側は海に面している。


あるのはわずかな足場だけで、


ここからは空でも飛べなければ王宮に侵入できない。


どうやら、フレヤの覚えていた兵の配置と


何も変わっていないようだった。



「罠じゃん、どうみても」



カルトが飄々とした態度で言うのを横目で眺めながら、


フレヤはシウを見つめた。


罠でもなんでも決意は揺るがない。



「それでも、救い出すわ」


「シウ様になんかあったら絶対殺すからねアンタ」


「シウのやつは殺しても死なねぇよ。


 さっさと行くぞリン」



キッとひと際きつくフレヤを睨みつけると、


リンはロンとともに王宮の正門のほうに駆けだした。


その背中を見送ってからフレヤは前を向いた。


兵はいないとはいえ、気は抜けない。


ほぼ間違いなくこれは罠だ。


アルハフ族をとらえたのは、


フレヤをおびき寄せるための餌とみて間違いないだろう。


だが、それでも前に進まなければならない。


次は、こちらの行動の番だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ