↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マーメイドウィッチ  作者: いろはうた
PR
51/88

前夜

三人は、酒場を出てから、また昨日と同じように宿で二部屋借りた。


念には念を入れて、シウの目の力で相手には、


こちらの印象をぼやかしている。


仮に兵に不審人物の宿泊の有無について問われても、


思い出すことはできないだろう。


三人で一部屋に集まり、小さな椅子に腰かけて


ようやく一息つけた。


王都には当然のごとく、近衛兵が


沢山行きかっていて、一瞬たりとも気を抜けなかった。


フレヤは向かいに座るシウとカルトのほうを向いた。



「二人とも聞こえていたと思うけど、王妃は、私の妹は」


「幽閉の可能性がある?


 信憑性に欠けるな」



にべもなくシウに言い捨てられ、フレヤはぐっと押し黙った。


確かにそうだ。


確かな情報筋ではない。


ただの噂だ。


だが、もしそれが真実だったら。



「カルトのほうはどうだったの?」


「どうしたよ?


 王妃の情報で頭いっぱいでなんも聞こえなかった?」



なかばあきれたように言うカルトを半眼になって睨むが


何も言い返せない。


たしかに、あの時はひどく衝撃を受けたし、頭が真っ白になる思いをした。


しかし、そういうからには、フレヤでも聞こえるような


場所と声の大きさでアルハフ族に関しての話が聞こえたのだろう。



「地下牢に閉じ込められているってさ」



フレヤは目を見開いた。


こみあげてくるのは悔しさだった。


心のどこかで、王宮にアルハフ族が連れ去られたら


自分が先頭に立って救い出せると思っていた。


だけど、地下牢だなんて行ったことがない。



「確かな情報筋なの?」


「話してるの、近衛兵だったからな」



こともなげにカルトは言ったが、フレヤはまた驚いた。


どうしてそんなことがわかるのだろう。



「仕事の愚痴垂れ流してたからな。


 反抗的な異民族など地下牢でさっさと死ねばいいってさ」



ぎゅうっときつくこぶしを握り締めた。


こんな言葉が、自分の国の民から話されただなんて信じたくない。


だけど、これも事実。


自分たち王族が、今のこの事態を招いてしまったのだ。



「……愚痴や不満ばかりを言っていたわ」


「なに急に」


「民はもっと楽しくお酒を飲むものだと思っていたわ。


 でも、だれも笑っていなかった。


 みんな、悲しい顔や怒った顔をしてお酒を飲んでいた」



カルトとシウは何も言わなかった。


今までは、貧しき者たちを救うために、


王都にはほとんど施しを与えに行っていない。


だから現状を何も知らなかった。


悪い気がはびこっているのは、貧困にあえぐ村だけではない。


豊かなはずの王都でも、これだけの不満がたまっていたのだ。


これでは革命が起こって当然だ。



「でも、革命が起こっても、何故、彼らは嬉しくないのかしら。


 全然幸せそうには見えなかった」


「変わってないというか、悪化してるからだろ」


「おい」



我慢できないようにカルトが言った。


それを咎めるようにシウが声をかけたが、彼は無視した。


さらにいらだったように言葉をつづける。



「国は何もよくなってない。


 政(まつりごと)をほったらかして、


 元王女のあんたを血眼(ちまなこ)になって探してる統治者のせいだ。


 近衛兵を動かしまくっているから、金も要る。


 もともと高かった税金は跳ね上がっているし」


「おい」



さらに低い声でシウが言うと、カルトははっとしたように口を閉じた。


しかし、フレヤはしっかりと今の言葉を聞いてしまった。



「どういうこと。


 知っていて、何故私に教えてくれなかったの」


「口止めをしたのは我だ」



ばれてしまっては仕方ない、とでも言いたげな表情のシウを


睨みつける。


彼は知っていたのだ。



「このような現状、知れば汝は死に物狂いで


 この国を救おうと奔走するだろう。


 我は言ったはずだ。


 汝を我が国の女王に望むと。


 本来ならば、汝をさらってでも早くこの国を出たい。


 我が民が待っている」



はっとした。


そうだった。


シウもしぶしぶながらに付き合ってくれているが、


本来、彼も王だ。


彼を待っている民がいる。


それを引き留めているのはフレヤのわがままだ。



「……私がつかまるまで、この現状は続くのかしら」


「言っておくが、汝、わざと捕まろうなどと


 馬鹿なことは考えるなよ。


 なんのために我がここまで骨を折ってやったと思っている」


「でも……!!」


「黙れ。


 反論は認めぬ。


 アルハフ族を救い出し次第、この国を出る」



冷たい声だった。


冷酷な真紅のまなざしに唇をかみしめる。


一切の妥協も認めない声音に、反論したくなるが、


彼には彼の事情があるのだと自分に言い聞かせるしかなかった。
















今夜もカルトはベッドで寝ようとしなかった。


何度もベッドでしっかり休息をとるように勧めたのだが、


見張り役で座った姿勢のまま競ることに慣れているから、と断られ続けた。


浅い仮眠のみで、見張り役をやってくれているのだろう。


フレヤはベッドの中で寝返りを打った。


なんて律儀な一族だろう。


たった一度、一族の子供を救ったという恩とチノの知り合いという


わずかなつながりでも、律儀に恩を返そうとしている。


これでは理由もなく彼らのことをケダモノの蛮族と蔑み罵る


コペンハヴン国の民とアルハフ族、どちらが蛮族なのかわからない。



「さっさと寝れば」



フレヤがなかなか寝付かないことに対していらだったように


カルトがそっけなく言った。


フレヤは毛布の中で縮こまった。


ばれていたのか。



「何考えているのかはしらないけど、


 考えても別にものすごくいい方向に問題が解決はしないし」


「それでも、色々考えてしまうのよ」


「あんたって結構、面倒な性格してるよね」


「……」



それは、カルトに言われたくない。


そう反論したら、また辛口で返答が返ってくるのは


見えていたのでフレヤは黙っていた。



「明日、本当にアルハフ族を救い出しに王宮へ乗り込むのよね」


「なに?


 怖くなった?」


「そんなことはないわ。


 ただ……少し複雑なだけ」


「本当、あんたって面倒くさいね」


「……」



さすがにむかっときたので、ベッドから身を起こした。


カルトは壁に背を預けて座り込んだ。


申し訳程度の毛布しかその体を覆っていない。


危機が来ればいつでも跳ね起きることができるように


するためだと遅れて気づく。


その姿を見て、反論の言葉ものどもとで消えてしまった。



「どうすればいいのかわからないの……今回は、本当に。


 自分が何をしたいのかもわからなくなっている」



ぽつりとフレヤはもらした。


本心からの言葉だった。


カルトが横目でこちらを見たのが気配で分かった。



「別にあのクソむかつく皇子とか気にしなくていいと思うけど。


 どうせ義理でも感じてんだろ。


 別に何でもかんでもあいつの言うこと聞かなくていいじゃん」



言い当てられて、フレヤは言葉につまった。


心のどこかで、シウの言うことに従わなくては、と


考えていた自分がいたことにいやでも気づかされる。



「……やっぱりもう少しだけ考えをまとめさせて」


「好きにすれば」



カルトがため息を吐いた。


フレヤは頬をまくらにうずめるようにしてベッドに横たわった。


しかし、心はぴんと張り詰めている。


目がさえわたって今夜はなかなか寝られそうになかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。