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マーメイドウィッチ  作者: いろはうた
19/88

取引

見張りの兵たちは、ふとこちらに向かってまっすぐ歩いてくる


人影が二つあることに気付いた。


なんという無鉄砲な者たちだろう。


手に持っている槍を握る力を強くする。


止まれ、声をかける前に、背の高い人影の目を見つめた。


血のように真っ赤な瞳をもつひどく美しい男だった。


その目を見つめると同時にぞくりと背に悪寒が走った。


人間ならざる者の目。


はらりと額にかかっている髪は闇のように黒い。


この国の者ではないのは明らかだった。


王女が来るだろう、ということしか聞いていない。


こんな得体のしれない男が来るなど一言も聞いていない!!



「と、止まれ!!」



声が裏返ってしまう。


突き付けた槍の穂先は震えていた。


それだけ目の前の男に気圧されてしまっているのだと悟る。



「この館に住まうお方を知っての来訪か!?」


「そのようなこと、我が知らぬとでも?」



嘲笑を唇に浮かべつつ男が歩み寄ってくる。


兵たちはそれ以上動けない。


妖しく輝く赤い瞳がくすぶる熾火のように燃え輝いている。


黒髪の男の隣には付き従う娘がいた。


らんらんと輝く金色のつり目が勝気そうに兵たちを射ぬく。



「アンタたちの主人に伝えなよ!!


 ミン国の皇子が会いに来たってさぁ!!」


















一方、そのころ、後方で物陰に隠れつつ、


フレヤ達は一部始終を見ていた。


ミン国の皇子とその配下らしき者がなかば押し入るようにして


建物の中に入っていくのを見送った。



「どういうこと……?


 なぜシウ皇子がいるの……?」



彼は自分の国に帰ったのではなかったのか。


一瞬そう思いかけて、フレヤは違うとすぐに気付いた。


あの皇子のことだ。


ただ結婚式に参列するためだけに


これほどまでに遠い地に足を運ばないだろう。


彼とそれほど親しい仲でもないがなぜかそう確信できた。


一瞬の邂逅でもはっきりとわかるほど、


かの皇子は頭の切れる者だったからだ。



「しばし、様子を見よう。


 あの皇子とメノウのつながりが分からないうちに


 行動を起こすのは危険すぎる」



チノの言うとおりだった。


たった今館に入っていったシウ達がいつ出てくるのかはわからない。


それまで地道に待たなければならないということだ。


フレヤは歯がゆい思いでメノウがいるであろう館を見つめ続けた。
















ろうそくの炎がゆらりと揺れた。


カツンカツンと靴音を鳴らし薄暗い中を


闇よりもさらに濃い黒髪を持つシウが歩いていく。


対面するのは椅子に座っている娘。


閉じていた瞼を開き彼女は夢見るようなほほえみを浮かべた。


緑の瞳にろうそくの紅がゆらゆらと妖しく揺れる。



「……あら?」



シウの姿をとらえると、彼女はゆっくりと瞬きをした。


長いまつげが扇のように上下に揺れる。


かたりと首をかしげると彼女の華奢な肩から


つややかでまっすぐな金髪が流れ落ちた。


あまりにも美しくて、人形じみた容姿の整い方だった。



「私、あなたのような殿方がいらっしゃるとは思わなかったのだけれど」



鈴を転がすような声だった。


その美しさに聞き入ってしまってほとんどの者は気づかないだろうが、


その美しい声はひどく平坦で無機質だった。



「まさか皇子がいらしてくださるなんて。


 それも伴の者も付けずに」


「伴の者は部屋の外に置いてきた」


「丸腰で私の部屋に入ってきたその勇気を褒めているのですよ」



娘、メノウの口調は村人たちに対するものとは


はっきりと異なっていた。


花開くようにメノウは笑った。



「私が今どの立場にいるかわかっていてのご来訪ですね?」


「この我が、わざわざここまで足を運んでやったのだ。


 ひれふして感謝してもらってもかまわないぞ」



メノウは笑みを深めた。


否定しないということは肯定のあかしだ。


メノウがどういう人物かを知っていてあえてこの男は


ここまでやってきたのだと悟る。



「この私の傀儡になるかもしれないというのに?」


「先に言っておくが、なんじの力はほかの者に効いても我には効かない」



シウは獰猛に笑った。


その唇の端から犬歯がちらりとのぞく。



「我は闇の一族でな。


 そこらの人間風情と同じにされてはこまるな、小娘」


「そんなあなたの要件は?」



その迫力に気おされることもなく、メノウは淡々と答えた。


その様子にシウは瞳を細めた。



「取引だ」


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