127話 灯台守
雨の降る日のヴェス・ディナス港近くの酒場。灰色の空から絶え間なく降り注ぐ雨が地面をじっとりと濡らし、時折外から響く雷鳴が、酒場の中にいる人々の会話をかき消し、持ち上げた杯を止め、皿の上の料理に向かっていたフォークを止め、一瞬の静寂を生み出す。
港の小さな酒場『永遠の船乗り』の外観は、古びた木造の建物ゆえに雨に濡れてさらに暗く、小さな窓から流れ落ちる雨水が窓枠を伝って絶え間なく滴っていた。
酒場の入口には、主人が荒々しい筆致で書いた『永遠の船乗り』という太い文字の大きな木製看板が掛かっている。看板は古びてはいるが、文字は今もはっきりと読めた。雨を浴びながら慌ただしく酒場の扉を開けて入ってくる船員たちの声とともに、扉の内側に取り付けられた小さな鐘が鳴り、新しい客の到着を知らせる。
酒場の内部は、外とはまったく違う様子だった。暖かな暖炉の中で薪が勢いよく燃え、ところどころに置かれた蝋燭が暗い隅々を照らしていた。酒場の中央には大きな木製テーブルが並び、その上には形もさまざまな料理と飲み物を入れた杯が置かれていた。
席に着いた冒険者たちと船員たちは、互いの体験談を語り合い、酒場の外で激しく降る雨音にも負けず、はっきり聞こえる大きな声で笑い騒いでいた。
船員たちは、海の匂いと雨の匂いが染みついた粗末な服を着ていた。主に今回の航海で遭った嵐の話、針金にパン屑や食事の残りの小さな肉片を適当に刺して捕まえた巨大な魚の話、そしてその日の成果が良かったため船長から貰った銀貨の入った袋を見せ合いながら語り合う者もいた。中には自分が働いている船から新鮮な海産物を持ち込んで、酒場の客たちと分け合う者もいた。
冒険者たちが座るテーブルの周辺と近くの壁には、大きさもさまざまな武器が置かれていた。彼らは周囲の客たちに、主に自分が受けた依頼で経験した戦いの話をし、つい先日ゴブリン一団に囲まれて危なかった状況を誇らしげに語っていた。そんな騒がしい仲間の声にもかかわらず、酒場の隅で静かに街周辺の地形図と新しく発見した洞窟の地図を広げ、次の探検の計画を立てている冒険者たちの姿もあった。
酒場の主人は慣れた手つきで空になった杯に酒を注ぎ、ちょうど酒場に入ってきた客たちには注文を考えるまでの間、飲むためのビールを配っていた。
客を迎える酒場の主人は、穏やかな微笑みと親しみやすい口調で客たちと会話を交わし、彼らの話を聞いていた。
酒場の壁には、主人が一緒に働く仲間たちと飾った大きな魚の骨や古びた鉄の銛、小さな船の模型などが並び、海の雰囲気をさらに高めていた。
雨は依然として降り続いていた。時間が経つにつれ、酒場の内部はますます賑わってきた。何人かの冒険者たちが懐から小さな楽器を取り出し、テーブルを叩きながら即興で歌い始め、その楽器の音に惹かれて集まった船員たちは冒険者たちの歌に合わせて足を踏み鳴らし、拍子を取った。やがて酒場内の全員が一つになり、笑いながら歌い、踊り出した。
何人かの客たちはテーブルに拳を打ちつけて拍子を取り、ビールの杯を振りながら大声で合唱に加わった。蝋燭が揺れるほどの賑やかな歓声と歌声は、外の雷鳴さえ飲み込んでしまいそうだった。
雨の降る憂鬱な日とは思えないほど活気に満ちた空間――それが『永遠の船乗り』酒場だった。その酒場の隅の席に座り、拍手をしながら手に持った杯のビールをぐいっと飲んでいる男の姿が見えた。
ヴェス・ディナス旧市街商店街の武具店の主人、タルダンだった。グランドトーナメントの影響で押し寄せた客たちに対応するあまり、喉はガラガラに枯れ、腕も脚も痛くないところがなかったが、酒場内に響く陽気な歌声に合わせて手を叩き、足を踏み鳴らすタルダンの表情は、これまでで一番明るかった。
冒険者ニア・カラゴンの紹介で来たという客たちが毎日「彼が使っているハーフスピアはあんたの作品だって?」とか「ここの武器は良いって聞いたぞ」と言いながら集まってきてくれたおかげで、毎日客相手に忙しく、合間には赤く熱した鉄をハンマーで叩いて夢中で過ごしていた。
そんな慌ただしい日々を送っていたタルダンが、久しぶりの休息を満喫しながら、この『永遠の船乗り』で待ち合わせた親友を待っていた。
「おいっ! 鍛冶屋~」
顎を突き、響く歌声に鼻歌を歌っていたタルダンの肩をぽんと叩きながら挨拶する声が聞こえた。
「遅いぞ~ 灯台守。港に戻ってくる船が沈没でもしたかと思ったぜ」
「ふふふっ。沈むわけないだろ! 乗ってきた船も、天気も最高だったさ! 雨は港に着いてから降り始めたんだ。料理は? 注文しといたか?」
タルダンに灯台守と呼ばれた男が、いたずらっぽく笑いながらタルダンが座るテーブルの向かいに腰を下ろしながら言った。
「注文しといたさ。酒場の主人に、俺の席の向かいに口がでかくてガリガリの友達が座るから、調理を始めて運んでくれって言っといたからな……料理が出てくるまで少し時間かかるぞ。その間、この温めたワインでも飲んどけ」
タルダンがテーブルの上に置かれた円筒形の厚手の容器の蓋を開け、向かいに座った灯台守に差し出しながら会話を続けた。
「おお~! ちょうど良かった。この雨で体が冷えて寒くなりかけてたところだ」
タルダンから受け取った杯を手に口元へ運びながら灯台守が言った。
「どうだ? りんごの香りとシナモンの香りがいいだろ?」
「うむ~ そうだな。甘さもほどよくて、料理が出てくる前に飲むのにぴったりの酒だ」
口いっぱいに広がる香辛料と干し果物の香りを満足げな笑みを浮かべて味わいながら灯台守が言った。
「それにしても、忙しいって聞いたぞ? 客もいなくてガラガラだった武具店に、今じゃ客が溢れかえってるんだって?」
灯台守は残りのワインを一気に飲み干した。喉を伝う温かな酒に顔が赤らみ、目尻に笑い皺が深く刻まれた。
「は? 島で灯台なんか守ってる奴がどうしてそんなこと知ってるんだ?」
「ふへへへ いろいろ方法があるさ。それより……最近面白い目に遭ったんだけど、聞くか?」
酒場内に広がる陽気な音楽の音に自分の声が聞こえなくなるかと身を前に乗り出しながら、灯台守がタルダンに尋ねた。そして同時に、温めたワインを柄杓ですくい、自分の杯とタルダンの杯を再び満たした。
「また何を言い出す気だ? また灯台島で捕まえた魚の話なら、聞くふりだけしとくからな……陸で鉄ばかり叩いてる俺には全部似たような話に聞こえるんだよ」
「ええい。釣りの話じゃないさ。つい先日、灯台で起きた話なんだ。クルクートの連中を退治した話だけどな~」
「クルクート? 何匹いたんだ? とにかく話を続けろ……」
なんだか誇らしげな表情を浮かべながら灯台守が軽く咳払いをして喉を整え、好奇心を刺激されたタルダンにその日の話を語り始めた。
「タルダン、お前も知ってるだろ? 嵐の日は時々群れからはぐれたり道に迷ったクルクートが、俺のいる灯台島まで飛んでくることがあるって」
「知ってるさ。だからあの島には兵士たちも一緒にいるんだろ? 何人だっけ?」
「二十人くらいだな。まあその日の話だけど、あの日は風も強くて月も厚い黒雲に隠れて、灯台の光をより明るく照らすために油瓶からいつもの倍の量の油を入れた日で……夜も遅かったのにどうしても眠れなくて、灯台の火を大きく灯した後、下の兵営にいる兵士たちと干し魚でも分けようかと、灯台の地下の貯蔵庫を漁っていたんだ」
「この前持ってきた干し飛魚の話か? あれは結構美味かったな……」
「ん? いやいや……その日はおそらく鯛だったかな……? 鯵だったかな……? とにかく飛魚じゃなかったさ」
灯台守とタルダンの会話に邪魔にならないよう、料理の載った皿を持ってきた酒場の女給が慎重にテーブルに置いた大きな皿には、こんがり焼き上げられたガチョウがじゃがいもとともに盛られていた。
静かに皿をテーブルの中央に押しやり、目で笑いながら『お召し上がりください』と口を大きく動かして言った女給に、頷いて答えたタルダンと灯台守の会話は続いた。
「それで……どこまで話したっけ? ああ、そうそう、貯蔵庫で干し魚を何匹か見つけて手に持ち、灯台を出たんだ。兵営までは短い下り坂を下るだけで着く道だから、フード付きのマントも着ずに、蝋燭を替えるのも面倒でランタンも持たずに歩いたんだよ」
「月明かりもなかったんだろ? あの暗い道をよく歩けたな……」
タルダンが皿の上のガチョウの肉を大きく一切れ引きちぎりながら言った。
「へへ……灯台周辺は目をつぶっても歩けるさ。灯台島とヴェス・ディナスを行き来して、もう十年になるからな……。まあそんな感じで兵営の方へ歩いていると、その時俺の耳に聞こえてきたのが、あの忌々しいクルクートの羽ばたき音だった。一匹や二匹じゃないらしく、雨音を突き抜けてあのバタバタという音が聞こえてきたんだ……」
「直接見たことはないが、俺たちよりずっと大きいって聞いたな……。あんな大きさなら羽も大きかっただろうし、だいたいの想像はつく。で? その後はどうした?」
「どうするもこうするも、兵営に向かって走ったさ。声を上げて兵士たちに知らせたいと思ったが、そんなことをしたら空から何かが飛んできて俺に当たる気がして、唇をきつく噛み締めて走ったんだ」
灯台守は当時のことを思い出すように肩をすくめ、両手をぎゅっと握りしめた。緊迫したその瞬間の空気が、酒場のテーブルに一瞬漂ったかのようだった。
灯台守が少し言葉を止め、近くを通りかかった女給に指を二本立ててビール二杯を注文した。そして少し後、冷えたビールがタルダンと灯台守の前に置かれ、二人の会話は続いた。
「兵営のある場所まで走り着いたが、すでに兵営の周囲と見張り台の上にはクルクートどもがたかり、兵士たちは松明を振り回したり投げたり、矢を射かけたり、槍を突き出して羽ばたくクルクートを刺そうとしていた……。俺はそのまま近くの大きな岩の影に隠れるしかなかった。兵営の周りにはどんどん多くのクルクートが集まってきていたからな」
その日の記憶を詳しく思い浮かべながら灯台守がビールの杯を傾け、大きく一口飲んだ。
「でも結局はちゃんと退治したんだろ? そうじゃなきゃ今俺が幽霊と話してるはずだからな」
「はっはっは そうだな。あの夜、羽ばたきながら飛んでいたクルクートどもはみんな死んだか、生き残った奴らは羽を縛られて足枷をはめられ、ヴェス・ディナスの深い地下牢にいるさ」
「地下牢に? 何匹かは生け捕りにしたのか? どうやって?」
「タルダン、お前の言う通りあの夜は危うく幽霊になるところだった。兵営の周りはクルクートどもに包囲され、眠りから覚めた兵士たちを全部合わせても、あの鳥野郎どもの数がずっと多かったからな……。危機だった。俺みたいな灯台守が駆けつけたところで、あの島の上に死体が一つ増えるだけだと思って、隠れて状況を見守るしかなかったんだ」
「よくやったさ。あの瞬間隠れていたって、誰も文句は言わない。俺たちみたいな人間があんな凶暴で野蛮なクルクートを相手に何ができるって言うんだ」
「そう言ってくれると、あの夜の俺が少しは臆病者じゃなく見えるな。ありがとう、ふふふ……。で、結局どうなったかというと……」
灯台守がフォーク二本を使ってガチョウの肉を切り分け、一本のフォークには切り取ったガチョウの肉を、もう一本にはじゃがいもの一切れを刺し、残りの話をタルダンに語り続けた。
「どこからか現れた男が、兵士たちを助けてクルクートどもを一匹ずつ一匹ずつ空から叩き落とし始めたんだ。黒いフードを深く被って顔は見えなかったが、クルクートどもより高く舞い上がり、奴らの羽を切り落とし、腕を切って手に持った武器を落とさせた。なんて速さだったか、目で追うのも大変だった。奴らは腕や脚、腰を切られて真っ二つにされた者まで、空から地面に落ちてきた。きっと雨風も吹かず太陽の昇る晴れた日でも、あの速さは目で捉えられなかっただろうな」
灯台守の目が一瞬輝いた。まるでその日の空をもう一度見上げるように、天井をちらりと見上げた。
「兵士の中に腕の立つ奴がいたんじゃないのか?」
「そんなんじゃないさ。空でクルクートを斬っていたのは兵士の中の誰でもなかった。俺も兵士たちもみんな、黒いフードの男が空でクルクートを斬るのを目撃したんだ」
「つまり、遠い海の真ん中の島に突然どこからか現れて、空を飛んでクルクートどもを刀で斬り、兵士たちと灯台守を救ってくれた人間がいる……ってことか?」
灯台守の言葉を確認するように、タルダンの顔に疑わしげな色が浮かんだ。
「そうだってば! しかもすげえ速い剣技で、シャシャシャッ、チャッ! って感じでな」
剣の代わりに手に持ったフォークを振り回して、あの黒いフードの男が見せた動きをタルダンに見せようとした。
「まあ……お前がそう言うなら本当なんだろうが……。で、そのフードの男は? その後は? クルクートどもを全部退治した後はどうなったんだ?」
「うーん……そのまま消えたさ。黒い雲の中に姿を隠した……。お礼を言おうと近づいたんだが、兵営の周りをぐるっと見回して、もうクルクートが残っていないのを確認したのか……そのまま消えちまった」
「奇妙な話だな……。でもその奇妙な話のおかげでお前が今ここにいるんだから、正体不明の不満は言えないな」
「ははは。他のことはともかく、命の借りは確かだ。また会ったら感謝の言葉と干し魚を山ほど渡さなきゃな。まあ、それが俺が今日ヴェス・ディナスに来る少し前にあった話だ。暇つぶしに聞くには悪くなかっただろ?」
灯台守が陽気に笑いながらビールの杯を高く掲げ、口に傾けた。
「それじゃあ生き残ったクルクートどもを証拠に、領主様か、ラタク様に金貨でも報酬をもらったんだろうな!今日のここの勘定は、報酬で懐が温かいお前が払うことになるな?」
「おいおい~ 何言ってんだ。数枚の報酬金で冬の寒い日、外れの灯台で寒さをしのぐ外套を買わなきゃいけないこの貧乏灯台守より、最近客に品物がなくて売れない武具店の主人に、今日の食事代と酒代全部を払う機会を譲ってくれよ~!」
しばらく笑い声の混じった言い争いが続いた後、ビールの杯がぶつかる音と、さらに大きな笑い声だけが響き渡った。
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