作戦会議
※Nika※
「いや~、でもほんとごめん…!俺って、貞操観念とか倫理観とかバグってるから…。その辺の気遣いに疎くて…」
「…………」
私がASMRの活動をしていることをにいにバラされてからしばらく。
私の心もようやく落ち着いてきた。
けど、結局相談したかったことはまだ話せていなかったので、にいには申し訳ないけれど少しだけ席を外してもらっていた。2時間も待たせちゃったしね…。
「……その件は、にいからも、深く聞かれなかったからとりあえずいい」
「よかったぁ!じゃあ仲直りのオナ電しよ?」
「……しない。…本当に反省してる?」
「してるしてる!だから!しよ?恥ずかしいならビデオはつけなくていいからさ!」
百奈のセクハラは相変わらずだ。
出会った当初はここまで酷くなかったと思うのだけど、いったい何がどうしてこうなっちゃったんだろう。
「というか、よく二佳ちん、オナ電なんて言葉知ってたね?やっぱりむっつり?」
「……それより相談のことなんだけど」
「わお、気持ちいいくらいのスルー」
これ以上、百奈のセクハラに付き合っていたら埒が明かない。にいだって待たせているのだ。
「……えっと、できれば売る作品を増やしたくて…、いまよりたくさん台本は作れないかなって」
百奈とはいわゆるサークル活動という形でネットストアで一緒にASMR作品を販売している。台本や作品紹介のイラストは百奈が、声は私が担当して、売り上げは折半という形をとっていた。
「ほぅ、二佳ちんからそんな提案されるとは思わなかった。なんかあったん?」
「……それが」
私は百奈に今日までのにいとの出来事をかいつまんで説明した。にいが仕事を辞めたこと、無理して働こうとするにいを止めるため、私が堕落計画を建てたこと、そして試みの多くが失敗していることなどだ。
「そっか。お兄さん、けっこう大変なことになってたんだね…。そしてそれをなんとかしようって考える二佳ちんマジ天使…。…けど、それと作品を増やすことのどんな関係が?」
「…にいは、シスコンだから私を養うために無理をしてでも働こうとしてる所があるの。だから、私がもっと稼げるようになったら、心置きなくぐーたらできると思って」
「あのお兄さんがシスコンなのは同意だね~。通話超しでも、俺のセクハラ発言に怒り心頭なのが伝わってきてマジ怖かったもん。…うーん、でもなぁ…」
歯切れを悪くする百奈に私は「…なに?」と疑問を投げかける。
「二佳ちんから聞いた話だとお兄さんってくっそ真面目な性格なわけなんだよね?そんなお兄さんが二佳ちんが稼げるようになったからって、そう簡単にぐーたらするかな?」
「それは……」
「むしろ、妹に働かせているなんて僕は最低だ…、とか、そういう自分を責める方向に行きそうじゃない?」
百奈の言うことは…、正しいと思った。にいは仕事を辞めてから自罰的な側面が多くなっているように感じていた。
昔からそういう所がなかったとは言わないけれど、ここまで酷くはなかったから、たぶん会社でいろいろと自尊心を傷つけられるようなことを言われたんじゃないかと思う。いったいどんな言葉を投げつけられたのか。
想像もしたくない。思いつきたくない。脳内でも言葉にしたくない。
「…私、これからどうすればいいのかな」
今はまだ、にいと口を利くようになって間もないから私に構ってくれている。けど、このままじゃきっとにいは私の前からいなくなる。貯金が底を尽きる前ににいはまた無茶をして仕事を見つけてくるだろう。私はいつまでも引きこもりのお荷物のまま、にいだけは自分をすり減らすことをいとわずに。
せめて、私が学校に行けば兄の心労も少しは減らせるのだろうか。そう思い、学校へ行くべきか、と葛藤をしそうになってすぐに考えを放棄した。
この手の問答はもうやり慣れている。そして結論も変わらない。無理なもんは無理だ。
「…いや、でも、二佳ちんの言うこともわかるよ?だから販売作品を増やす件については任せてよ!二佳ちんに読んでほしいセリフやシチュなら無限に湧いてくるしね!」
「…あ、ありがとう」
気付けばどんどん思考が下向きになっていた。
そんな私の表情を読んだのか、百奈から急に優しい声色で話しかけられて、私もつい殊勝な返事をしてしまった。
「けど、その代わりと言ったらなんだけどさ。俺にもその堕落計画に一枚嚙ませてよ」
「…え、百奈が?」
「うん!まぁ、面倒くさいお兄さんの心情はいったん置いておいてさ。とりあえず今は、すげえハマれる趣味をお兄さんに作って欲しい感じなんだよね?」
「…そう、だね。にいにはまずは、何かに没頭して、辛いことを忘れて安眠できるようになってもらいたい。じゃないとASMRの収録もできないし…」
「実は俺にいいアイデアがあるんだ!お兄さんには、自責する暇もないくらい最高に忙しくて楽しい現実逃避の仕方を教えてあげようじゃないか!」
百奈はそう言って画面の向こうで楽しそうに笑っていた。




