第39話 嵐の前の静けさ
そして、ついに新入生歓迎会当日。
この日は月曜日なのだが、新入生歓迎会のために、一年生以外の生徒は午前中で授業が終わる。
午前中の授業を終えた俺は、泰栖さんと一緒に特別教室へ向かい、実行委員と顔を合わせから、会場である体育館へと向うことになる。
調整役としてこの日まで仕事をしてきた俺たちだけど、当日にも仕事がある。裏方として、イベントが円滑に進行するよう手伝わないといけない。
体育館へと向かうために、渡り廊下を歩いているときだった。
「きーちゃん!」
リュックを背負って帰り支度を済ませている瑞望が、泰栖さんに手を振る。
「瑞望ちゃん」
自然体の笑みを見せる泰栖さん。相手が親友である瑞望だからだろう。このあたり、やはり瑞望には抜群の信頼を置いているに違いない。
「それと、カワバタくんもね」
ついで扱い&俺を名字で呼ぶ他人行儀な瑞望。俺と瑞望が付き合っていることは泰栖さんには秘密だから仕方がない。俺と瑞望が幼馴染なことも、泰栖さんは知らないはずだし。
まあ、当の瑞望は、俺を名字呼ぶすることに違和感がありまくるからなのか、口元をもにょもにょさせて複雑そうな表情をしているのだが。
この日は、新入生歓迎会のため、部活動全般が休みだ。だから瑞望も、運動部の助っ人をする必要がないわけで、放課後の学校に用事なんてないはずなのだが……。
「瑞望ちゃん、どうしたんです? 教室に忘れ物?」
泰栖さんが訊ねた。俺も同じ疑問を持っている。なんでここに?
「今日まできーちゃんが頑張ってたし、歓迎会の前に応援しないとなーって思って!」
「ああ、そうだったんですね。ありがとうございます」
親友二人が向かい合って手を取り合う。
微笑みに溢れた穏やかな時間が流れる。
ここで終わっていれば、それでよかったんだけど。
「でも、心配しないでください。川幡くんだって一緒にいてくれるんですから」
すすすと俺の隣にやってきて、腕に手を触れてくる泰栖さん。
そっと触れるという感じではなく、しっかり手にして離さない。
まるで、これは私のです、とマウントを取っているかのような……。
いや、考えすぎだ。
ここ最近の泰栖さんはスキンシップの頻度が爆上がりしたけれど、それに親しみ以上の意味はなかったじゃないか――
「……」
感情を失った顔の瑞望が、一点を凝視していた。
泰栖さんが触れている俺の腕だ。
「瑞望ちゃん、どうかしました?」
行動不能状態の瑞望を前にして、困ったような顔の泰栖さん。
どうやら、意図的に所有マウントを取っていたわけじゃないらしい。
たぶん。
「べ、べつになーんでもないよ!」
なんでもないというわりには、笑顔が引きつりまくっている……。
「そ、それより~、カワバタくんも隅に置けないな~。きーちゃんから触られちゃって、喜び散らかしお祭り騒ぎなんじゃないの~?」
俺の腕を肘でツンツン突いてくる瑞望。
茶化すレベルを超えて普通に肘鉄を放ってきているので、刺さって痛い。
瑞望、意外と嫉妬深いタイプだったのか……。
まさか、瑞望がいる前でも泰栖さんがこれほど俺に接近してくるとは思わなかった。
このまま返事を先延ばしにしたら、泰栖さんは瑞望の前だろうと関係なくよりアピールが強くなることは目に見えている。
瑞望が限界を迎える前に、早いところ泰栖さんの告白問題に決着を付けないといけない。
今日だ。
今日、新入生歓迎会を無事に終わらせて、実行委員の仕事から解放されたとき。
俺は、泰栖さんに断りの返事を伝えよう。
大丈夫。
今のたくましくなった泰栖さんなら、たとえ俺から断られたって深く傷つくことはないはずだから。




