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第76話 走るのをやめた馬車の中で

「まずいな。俺の『竜風(魔)』に煽られて、頭をぶつけたのか」


 俺は『竜風(魔)』を撃ったときに、御者台の方で大きな音がしたのを思い出して顔をしかめる。


 御者からしたら、追ってきた馬車が攻撃をしてきたことも知らなければ、急に俺が高火力の攻撃をしたことも知らない。


 予期しない状態で馬車を揺らされれば、馬車に頭を打ちつけて気を失うこともないこともない。


 いや、普通はそんなことはないだろ。村に入る前に偶然馬車を見つけたり、その馬車が俺たちのことを知らなかったりと運がいいことが続きすぎたから、その調整としか思えないようなアクシデントだ。


 いやいや、今はそんなこと考えている場合じゃない!


「リ、リリナ、アリシャ! 二人は馬車を御したことはあるか?」


「いいえ。私はございません」


「私もないです!」


 もしかしたらあるかもと思って聞いてみたが、二人とも首を横に振ってそう言った。


 まぁ、アニメでそんなシーンも見たことないし、当然といえば当然か。


「ロイドが馬車を御している所なんか見たことないし、馬車を御すのは無理だよな……いや、もしかしたら、」


 俺はハッとしたから、ステータスを表示させてロイドがこれまでに奪ったずらりと並んでいるスキル一覧に目を通した。


 ロイドは嫌がらせの手段として人からスキルを奪っていた。


 だから、もしも御者に嫌がらせをして『スティール』をしていれば、馬車を御するスキルがあるかもしれないと考えたのだ。


「……あったな。馬車を御せそうなスキルが」


俺はロイドが奪ったスキル一覧から、『ライド』という文字を見てそう呟いた。


名前からして魔物とかに乗る系のスキルだとは思う。しかも、『ライド』のスキルのレベルは上限に達しているようだ。


かなりベテランの御者から奪ったのか、気に食わない御者がいる度に『スティール』を浴びせていたのかは分からないが、卑劣極まりないことに間違いはないだろう。


 ……ロイドの奴、俺の想像以上に嫌がらせをしていたらしい。


「ロイドさま?」


 俺がそんなことを考えていると、アリシャが俺の顔を見上げてきた。


 まぁ、今更ロイドの悪行について色々と考えたところで仕方がない。それよりも、今はいち早くこの場を離れなければ。


「多分、俺なら馬車を動かせると思う。御者の代わりに俺が馬車を御そう」


 そう言うと、アリシャは目を大きく開いて俺の顔を見つめてきた。


「ロイドさま。馬車も御せるのですか?」


「ロイドさま凄いです!」


 すると、御者台からこちらを見ていたリリナも俺にキラキラとした目を向けてきた。


 二人にまっすぐ尊敬するような眼差しを向けられて、俺は気まずさを覚える。


「いや、俺のはあんまり褒められた感じではないんだって」


このスキルって、ロイドが人から奪ったスキルだし。


「おい! あいつら止まってるぞ!」


「今のうちにあいつらを馬車から引きずりおろせ!」


 俺がそんなことを考えていると、外からそんな物騒な声が聞こえてきた。馬車の窓から声のした方を見ると、俺たちを追ってきていた馬車からガラの悪い男たちが下りて俺たちに向かってきていた。


「マズい、逃げるぞ! アリシャは追っ手の足止めを頼む! リリナは俺の隣で『気配感知』をしつつ、俺が追っ手の攻撃から馬車を避けるように指示をしてくれ!」


 俺は二人にそう言ってから、急いで御者台の方に移動して手綱を握った。当然、人生で一度も馬車に乗ったこともなければ、御したことなんてない。


 それでも、今はロイドが奪った『ライド』のスキルに任せるしかない。


「頼むぞ……『ライド』!」


 俺がスキルを使うと、勝手に手綱を握る手に力が込められた。俺が止まった馬車の手綱を強く引くと、馬車を引く魔物が俺の気持ちを汲んだように勢いよく走りだした。


「こんなに簡単に馬車を……さすが、ロイドさまです」


「本当に褒められたものじゃないんだってば」


 俺はそう言いながら、意のままに馬車を操れる『ライド』のスキルの凄さに驚きを隠せずにいた。


 本当に、どれだけ手練れの御者から奪ったんだよ、このスキル。


「ま、待ちやがれ!!」


 外から聞こえてきたガラの悪い男の声はどんどん遠くなり、少し馬車を走らせるとガラの悪い男の声は聞こえなくなってきた。


 すると、俺の隣に座るリリナが銀色の耳をぴくぴくっとさせて斜め右後ろを指さした。


「ロイドさま! あっちの方から馬車の音が聞こえます!」


「簡単に逃がしてはくれないか」


 俺はそんな独り言を漏らして、馬車をまた走らせて追っ手から逃げることになった。


 どうやら、しばらくは気を抜くことはできなそうだ。


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