第65話 指名手配
「な、なんだこれは」
深い森の中、俺はリリナとアリシャから受け取った一枚の手配書を見てそんな言葉を漏らした。
その手配書には俺の名前と、捕まえたときの賞金、そして俺の似顔絵が書かれていた。
どうやら、俺は指名手配をされているらしい。
……いやいや、らしいで片付けられないことだぞ、これは!
俺はここ最近の出来事を思い出してみるが、どれだけ思い出しても指名手配をされるようなことをした記憶がなかった。
すると、リリナとアリシャが嫌なことを思い出すように眉間にしわを入れる。
「今、街中にガラの悪い男の人たちがたくさんいます。みんな邪気ぷんぷん臭ってますよ」
「私も確認しましたけど、穢れてる人たちが多いですね。少なくとも、憲兵の人たちではないのは確かかと」
俺は二人の言葉から最悪の事態を想定してしまい、軽く頭を掻く。
「つまり、これは国や憲兵が発行したわけではないってことか。ガラの悪い男たち……くそっ、嫌な予感しかしないな。二人とも聞いてきた情報を俺に教えてくれるか?」
俺がそう言うと、二人は街で起きていることを俺に教えてくれた。
それらの報告を聞き終えた俺は、頭を抱えるとともに再確認させられることになる。
俺が転生したのは、追放系アニメでざまぁされる悪役パーティのリーダー、ロイドであるということに。
ケインとの対決を終えた俺たちは、少しだけ落ち着いた生活を送っていた。
ケインが乱した山の生態系も随分と戻ってきており、今は街も落ち着いている。
最近は、この街の店の店主などにもあからさまに嫌われるようなこともなくなってきた気がしてきた。
少しずつではあるが、俺の悪評も落ち着いてきたのかなと思う。
そんなある日、街でお祭りが行われることになった。せっかくの機会ということもあり、俺たちはそのお祭りを楽しむことにした。
たまにはゆっくり過ごすのも悪くはないだろう。そう考えて、リリナとアリシャと共にお祭りに向かったのだが……
「ロイドさま! 今度はあっちに行きましょう! 美味しそうな匂いがします!」
「ロイドさま、あちらの雑貨などいかがですか?」
俺は二人に腕を組まれて、色んな屋台を連れまわされていた。
さすがアニメのヒロインたちというだけある。これだけ密着されてしまうと、意識しないようにと考えていても、鼓動が速くなりそうだ。
どうやら、ゆっくりすることは難しそうだ。
俺は小さくため息を漏らしてから、屋台を見て回る二人の顔を見る。
すると、二人とも無邪気な顔で屋台を見て楽しんでいた。
俺はそんな二人の表情を見て、表情を緩める。
まぁ、二人が楽しそうにしているなら、これはこれでいいのだろう。
そう考えると、自然と笑みがこぼれてしまった。
こんな日がずっと続けばーー
「おい、見つけたぞ! あいつだ!」
俺がそんなことを考えていると、突然そんな大声が聞こえてきた。
何事かと思って視線をそちらに向けると、遠くの方でガラの悪い男二人が俺を指さしていた。
「え、俺?」
俺は初めて見る男たちに睨まれている状況を呑み込めずにいた。すると、男たちは表情を険しくさせて、俺たちに向かって走ってきた。
「とぼけやがって! とっ捕まえてやる!」
すると、リリナとアリシャが俺の腕から手を放して戦闘の構えをした。
いやいや、こんな祭り中に乱闘騒ぎはマズいだろ!
俺はそう考えて、二人の手を取って男たちと逆の方向に走り出した。
「り、リリナ、アリシャ! 逃げるぞ!」
「「え?」」
俺が二人の手を引くと、リリナとアリシャは意外そうな声を漏らした。それから、リリナが俺に並走してこちらを見た。
「ロ、ロイドさま! なんで逃げるんですか?」
「強面の男に追われれば誰でも逃げる! それに、これだけ一般の人がいる中で乱闘騒ぎはマズいだろ」
俺はそう答えてからちらっと俺たちを追ってきている男たちと、周囲にいるお祭りの参加客を見る。
さすがに、子供がいる前で戦う訳にもいかない。
そう考えて走って逃げていると、男たちと俺たちの間に結構な距離ができてきた。
このままいけば、上手く逃げることができそうだ。
「ロイドさま。あの方、ロイドさまの名前を叫んでいますよ。知り合いとかでは?」
「知り合い?」
俺はアリシャの言葉を聞いて、また男たちの方を振り向く。
多分アニメとかでは見たことがないキャラだとは思うが……さすがに、モブキャラまでは把握できてないんだよなぁ。
「どうだろう。まるで記憶にはない」
可能性があるとしたら、俺が転生してくる前、ロイドがチンピラに恨まれるようなことをしていたのだろう。
正直、話し合いができるのならそうしたいが、追ってくる男たちの表情から察するに、話し合いはできなさそうだ。
いきなり殴ってきそうな勢いしかない。俺はそう考えて二人を見る。
「どこか広い所に行って迎え撃とう。敵が二人くらいなら、どうとでもなるはずだ!」
「見つけたぞ!」「あいつだあいつ!」「追いかけろ!」
すると、二人が頷こうとしたとき、俺を追っていた男たちと同じようなガラの悪い男たちが俺たちを指さして追いかけてきた。
どんどんと増えていく数を前に、俺は目を見開く。すると、リリナが不安そうな目を俺に向けてきた。
「ろ、ロイドさま」
「くそっ、一旦遠くまで逃げるぞ!」
一体、何がどうしたらこんなことになるんだ!
こんな半グレみたいな連中に追われるって、ロイドの奴は何をしでかしたんだ!
俺はそんな誰にも言えない文句を胸の中で叫びながら、森の奥まで逃げることにしたのだった。
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