第66話 ロイドの冤罪
「偽物の金を製造して販売している?」
俺は戻ってきたリリナとアリシャの話を聞いて、眉をひそめた。
「ロイド様に売られた金を買ったら、それがある日突然土くれに変わったとか言ってました。まったく、失礼な話です! ロイド様がそんなことをするわけがないのに」
リリナは眉間に小さな皺を入れて片頬を膨らませていた。すると、アリシャが隣で頷いて続ける。
「被害を受けたお店が自費で懸賞金を募って、手配書を作ったって言ってました。ロイド様に懸賞金を掛けるなんて失礼が過ぎます」
アリシャもリリナと同意見なのか、振り向いて険しい目を街の方角に向けていた。
そんな二人に対して、俺は一人頭を抱えていた。
……あったわ。そういえば、そんな話がアニメで出てきてたわ!
俺はアニメで軽く触れられていた内容を思い出す。
ロイドはアニメで偽物の金を作って、ヤバい奴らに追われていたことがあった。
まさに今の俺と同じような感じで逃げ回っていたことがあったのだ。
……確か、ロイドは濡れ衣だとか言って、騒いでいた気がする。
俺が転生してくる前のロイドが何をやらかしていたのかと思っていたが、俺が想像していた以上にヤバいことに手を出していたらしい。
これ、今からどうしようもないよな。
俺はどうしようもない現状に大きくため息を吐いた。
「ん? いや、まてよ。時系列がおかしくないか?」
「ロイド様?」
俺が再び考えこむと、リリナがこてんと首を傾げた。
俺はそんなリリナとアリシャをそのままに、再度アニメの展開を思い出す。
ロイドはケインに出会う前から色んな悪事をしていた。
しかし、ロイドが偽物の金を作って追われるという話は、ケインを追放したからの話だ。ということは、俺がロイドの体に転生した時点で、ロイドが偽物の金を作ることはないはず。
それなのに、実際に今ロイドが偽物の金を作ったとされていて、追われている。
「もしかして……アニメの中でロイドが言っていた濡れ衣って、本当のことだったんじゃないか?」
「濡れ衣。やはりそうなのですね。そうじゃないかと信じていました」
俺がそう呟くと、アリシャが胸に手を置いて優しい笑顔を俺に向けてきた。
俺は全く疑う素振りのないアリシャに驚きながらも、小さく口元を緩めてしまった。
分かっていたこととはいえ、ここまで純粋に信じてもらえるのは素直に嬉しいな。
俺がそんなことを考えていると、リリナが俺の手を握ってきた。
「ロイド様! 今すぐ誤解を解きに行きましょう! それで解決です!」
「あ、ああ。そうだな」
俺はリリナに手を引かれながら、本当にこれで問題が解決されるのかを考える。
そして、俺はしばらく考えたところでピタッと立ち止まった。
「ロイド様?」
「ちょっと待ってくれ。冷静に考えると、俺がやってないと言ったところで、俺なんかの話をちゃんと聞いてもらえる気がしない」
いくら最近は悪事を働いていないといっても、ロイドのこれまでしてきたことを考えると、偽物の金を売って金儲けしていると言われて信じない者の方が少ないはずだ。
現に騙された被害者がいるわけだしな。
「リリナも俺の悪評は知ってるだろ? 客観的に見たときに、俺の話を信じてくれる人は少ないはずだ」
「そ、そんなことはないと思いますよ」
リリナは俺の悪評を思い出したのか、気まずそうに俺から視線を逸らした。
それもそのはずだ。リリナは元々俺の悪評を知っていた。だからこそ、俺にまったく邪気がないことに最初は戸惑っていたわけだしな。
今も心から俺のことを信じてはくれているのだろうけれど、街の人たちみんながそうではないことには気づいているはずだ。
「ロイド様。それでは、どうされるのですか?」
俺はアリシャの言葉に唸るようにして考えてから、少し遠くを見て続ける。
「ロイドの名前を使って悪さをしている奴を捕まえる。それしかないだろうな」
きっと、このまま俺はやっていないと主張しても、あのガラの悪い男たちに連れていかれてしまう。
それなら、俺の名前を使って悪さをしている奴を捕まえて差し出すしかないだろう。
信じてもらえないのなら、自らその犯人を連れて来るしかない。
それに、ここでロイドの名前を使って悪さをしている奴らを捕まえないと、今後も俺の名前を使って悪いことをされかねないしな。
そんなことになったら、俺はずっと冤罪で色んな奴らに追われ続けることになってしまう。
これ以上ロイドの冤罪を広めないためにも、根本の原因をどうにかしないと。
俺がそう考えてぱっと二人を見ると、リリナとアリシャは力強く頷いた。
「分かりました! 私たちでいち早く捕まえましょう!」
「そうですね。私もロイド様の意見に賛成です」
俺は乗り気になってしまった二人の言葉を聞いて、手を横に振る。
「え、いや、これから追われることになるから、二人はどこかで隠れていて欲しいんだが」
さすがに、俺の問題にリリナとアリシャを巻き混むわけにはいかない。だから、俺だけでこの問題は解決しようと思っていた。
リリナの家辺りでしばらく隠れてもらって、事態が落ち着いたくらいにまた合流しようと思っていたのだけど。
リリナは小さく首を横に振ると、目だけ笑っていない顔を俺に向ける。
「そんなわけにはいきません。ロイド様の名前を使って悪さをするような不届きものには罰を受けてもらわなければ」
ふ、フラットすぎるリリナの口調が気になるな。
リリナを連れていくことで別の問題が起きてしまわないか、少し不安になる。
すると、リリナは目のハイライトを戻してから続ける。
「それに、今までロイド様には助けてもらってばかりでしたから。今度は私たちがロイド様の助けになる番です」
リリナはそう言って意気込むようにふんすと鼻息を漏らした。それから、リリナの隣でアリシャが笑って俺を見上げる。
「ついてくるなと言われても、ついていきます。私の目とリリナの鼻と耳があれば、ロイド様の跡をつけるのは難しくないですよ」
俺はそんなふうに意気込む二人を見て、諦めるように小さくため息を吐く。
それから、二人が共に来てくれることを心強く思いながら二人に笑みを返した。
「……わかった。さすがに、二人を撒くなんてことできるわけないもんな。二人とも俺のために力を貸してくれ」
俺がそう言うと、二人は力強く頷いた。
こうして、俺たちは俺の冤罪を晴らすために、俺の名前を使って悪さをしている奴を捕まえに行くことになったのだった。
大きすぎる悪評を冤罪に変えるために。




