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先入観で判断してはいけないものだ


「シオン…大丈夫か!?」


シオンの姿が光の中で変化していくのを【識別眼】で理解した龍真は思わずシオンに呼び掛ける。


《…心配するな主よ、もうじき終わる》


シオンが発した声が穏やかなものだったので龍真はこれ以上何も言わず、大人しく経過を見守ることにした。やがて強烈な輝きも徐々に淡くなり、それを感知した龍真はうっすらと眼を開けた。


〔あ~…〕『アー…』{嗚呼~…}「あ~…うむ、これか。主、もう眼を開けても良いぞ」


「シオン…お前…っ」


龍真には全て同じように聴こえていたのだが何度か別な声を発して"人族としての声"を定めたシオンは龍真達にもう大丈夫だと語り掛けた。

しかし龍真達に届いた声は元来のシオンの雄々しく逞しい威厳ある声ではなくミアティスやリオンのような高い女性じみた声だった。


「ふふ、どうだ主よ?私だけテムジェのように帝都でも繋がれるのは癪だからな、人化することにした!」


そう言って姿を現したのはミアティスや"成人の儀"を終えたばかりのリオンよりも幼さ、あどけなさが残る少女だった。

瞳の色はそのままに背中まで伸びる黒髪を靡かせローブというかドレスというか曖昧な物を身に纏っている。手足は華奢な少女らしく細いが胸部だけは人並み平均以上であった。


「聖獣様…姿を変えることが出来るんですねっ。リオンとても貴重な瞬間を目の当たりにしてるんですね」


「シオンさん、ついにその姿になったんですね…」


シオンの変化を何の疑いもなく受け入れ聖獣の力の一部を垣間見ることが出来て喜んでいるリオン。

ミアティスの方は"勇滅の森"での生活で既に知っていたのか大した驚きも見せず、それどころかやっと見せたかというような反応だった。龍真も驚いたことは驚いたが人に姿を変えるのはありがちな流れで大した衝撃ではない。何より意表を突かれたのは人化の力などではなくシオンが女だったということだ…それも属性分けするなら"ロリ巨乳"の分類で。


「シオンって雌…いや、女…だったのか?それとも男なのにわざとか?」


3年程共に過ごして来てシオンの言動行動を見ていてもスレイリンクでスレイモンスターとマスターの間柄となり繋がりを持っていても完全に雄だと認識していた龍真は未だに信じる事が出来ず【識別眼】でシオンを見定めながら問い詰めるが反応は正真正銘雌の個体として表示されていた。


「主よ…何を言っておるのだ?私は生を受け誕生した時から雌のミルガ・ヴォリオスだぞ」


訝しげな様子で龍真を眺めるシオンの口から出た言葉にも嘘偽りの無いことが表明され、龍真にとってはまさに青天の霹靂の如き真実だった。

先入観で判断してしまった自業自得な結果である。


「……。ミアティス、ミアティスはシオンが雌だっていつ知ったんだ?」


「出会った時からです、私は美しい神聖な個体だな…と思って見ていたんですがマスターはそう見えませんでしたか?」


見たら一目瞭然だというミアティスに龍真は言葉を失う。魔物から見た感じ方と人族から見た感じ方は違うのだから当然と言えば当然だろう。

龍真はミアティスの問いに首を振って応えた。


「ふふん、そうか、謀らずも私は主を驚かせることに成功したのだな?それは僥倖っ」


「雌だったのはこの際受け入れるしかないとして…そんな幼女の姿をしてるのはなんでなんだ?」


「なに、簡単な話だ。私は未だ成熟してないのでな、如何に聖獣と言ってもまだ成長段階なのでその成長に伴った人化となっておる」


龍真の良い反応を見れて幸いだと喜ぶシオンを尻目に龍真は溜め息を吐き、何故ミアティス達よりも幼い姿なのかを訊ねる。聖獣の使う変化ならば年齢操作も可能ではないかと思ったからだ。

だがシオンから返ってきた答えは実際の成長具合と平行した人化になるという返答だった。成熟してしまえばどうなるか分からない曖昧な形だったが。


「雌な上に子供だったのか…一本取られたな」


「なにを言うか、未成熟とはいえ私はこれでも数百の歳月を生きているのだぞ?人族の一生に比べれば充分過ぎる程世界を見ておるのだ、子供というのは不遜であろう?主でなければ即座に滅するところよ」


(…それだけ生きてて未だ少女っていうのが結構な問題なんだけどな)


シオンが口走る文句に突っ込みを入れたかった龍真だったが面倒臭くなりそうだったので飲み込むことにした。


「聖獣様は未成熟でも聡明な女性…この事実を知る人族がどれほどいるでしょうか…龍真様、これもやはり秘密なのですよね?」


「リオン様…出来ればそのようにお願いしたいですが、難しいですか?」


突如明かされたシオンの聖獣としての力や特長を知識として広められないことは勿体無いと言わんばかりの焦れた表情で龍真に内密を確認するリオンを見て公表したい気持ちも理解出来るが出来れば内密を貫いて欲しいと頼んでみた。結果このまま帝都でシオンのことを始め様々なことで問題が起こったとしてもリオンを責めるつもりは無いし、降り掛かる火の粉は自分達で払うしかないと覚悟を決めることも出来たから強制も避けることが出来たのだ。


「龍真様が秘密にして欲しいことをリオンが言ったりしないですよ、この前のことだってちゃんと秘密にします」


龍真の心配を余所にリオンは朗らかに微笑んで見せた。龍真の心配が取り越し苦労なのをそろそろ身を持って理解させられているところである。


「リオン様が内密にしてくれて良かったです。もしマスターに迷惑掛けるようなら相応の対処をしなければならなかったので」


"勿論私が手を掛けて国を敵に回すのはマスターの迷惑になるので絶対に言えない恐怖を植え付ける程度ですけど"

と、悪びれもなく断言したミアティスは相手が皇族であろうと関係なかった。


「ミアティス、俺のことは大丈夫だからあまり先走ったりするなよ?」


「言えなくなるような恐怖って…ミアちゃん、言わないから大丈夫だよっ」


「流石よミアティス、我らスレイモンスターはそうでなくてはいかん!」


ミアティスにフォローを入れる中、人化したばかりのシオンは的外れな称賛を口にする。スレイモンスターとしての定義としては正しいのかも知れないが今はそういう話ではない。


「はい、マスター…マスターが思う通りに私は従います」


ミアティスが龍真を見詰めて返事する仕草は俗に言う恋する乙女その物であった。

これが漫画などで表現されるならハートマークが飛び交っていることだろう。激甘である。


「それはそうと、シオンもこうして違和感無いように変化したわけですしそろそろ帝都に向かってはどうでしょう?」


人化した姿がロリ巨乳の少女だったシオンにタイミングを崩されていた龍真は気を取り直すと軽く咳払いをして"護衛らしく"リオンに帝都への進行を提案した。


「あっ、そうでしたね。リオンもすっかり聖獣様に魅入ってしまって忘れちゃってました!それでは皆さん、帝都まであと少しですが宜しくお願いしますっ」


シオンの人化に意識を持っていかれていたことを正直に暴露したリオンは自分の頬を軽く叩いて気を引き締めると率先して前を歩き出し、龍真達は帝都リリーファルナへ近付いていくのであった。


(シオンの奴が雌のミルガ・ヴォリオスだと知ってたらもう少し真面目に名前考えてただろうに…といってももう遅いか。何よりも、こんな子に乗ってたと思うとなんか罪悪感が…次から背に乗れるだろうか)


「ん?どうしたのだ、主よ」


「いや、なんでもない。それよりその姿で余り悪目立ちしたりするなよ?見た目子供なんだから」


「何故私が人族どもに気を遣わねばならんのだ?…と言いたいところだがスレイモンスターとして主の頼みは聴いておこう。私は寛大なのでな」


人化したシオンを見下ろして悶々と色々な葛藤をしていた龍真の視線に気付いたシオンは歩みを止めることなく龍真を見上げ何かあったのかと首を傾げる。

名前を適当に宛がったり少女の背に乗ってて気が引けたなどと口に出せば面倒臭いことになるのは目に見えてた龍真は適当な返事を返した後、帝都での過剰な行動は控えるように釘を刺した。

案の定平常運転で人族に対して下手に出るつもりは全くないように見えたシオンだったがスレイマスターである龍真の頼みを無下にする気はないらしい。

野放しの友好関係で同行していたら好き勝手やっていたかも知れないと思うと今更ながらシオンとスレイリンクしておいて良かったと安堵する龍真であった。




「…もうすぐ帝都の城下門に着きますね。こんなに早く帰れるなんて思ってませんでした」


肉眼で確認出来る帝都リリーファルナを眺めながら歩き続け、城下町を囲む門が近付いてくるとリオンが感慨深く口を開いた。

僅か数日の旅とはいえ密度の濃い時間を過ごしたからこそ漏れた言葉である。


「リオン様、未だ気を引き締めておきましょう…来ます」


リオンが安堵するかのような表情を見せた矢先で龍真の【識別眼】が迫る危険を捉えた。すかさず龍真はリオンに近付き小声で油断しないように指摘する。


「確かに情報より遥かに早いお帰りだ、しかしリオン皇女…貴女には帝都に帰る前に命を落として貰わなければ困る」


背後から声が聴こえると同時に鋭利な刃物が龍真達に向けて放たれた。



本来投稿する予定だった日の数日前から体調不良で更新が滞ってしまいました、皆さんもお身体ご自愛下さい。

読んで下さってる皆さん、ブックマークして下さってる皆さん、評価下さる皆さん、いつも本当にありがとうございます。

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