事前対策が万全なら危ない思いをしなくて済む
龍真が警戒しろと促す言葉を言い終わる前にミアティスとシオンも異常に気付いており、直ぐ様動いてリオンを中心に背を合わせ神殿の周囲に眼を向ける。荷物を背中に担いでるシオンだけ動きがぎこちなかったが。
「リオン様…何処にもいらっしゃらないと思ったら、神殿へ辿り着いて居たんですね?」
「ロディック隊長っ?無事だったのですね!」
神殿の死角から出て来たのは敵ではなくリオンの"成人の儀"に最初から同行していた隊長のロディックという筋肉質の壮年の男だった。
再会を喜び警戒心を解いていたのはリオンだけで龍真達は勿論だが、神殿に到着した時点で姿を消しているもちことメリアも警戒を強めている。
《あれが一団を率いてた隊長っていう奴か……確かに弔った時も遺体は出なかったな》
《っ、はい…ですがあの心音は人族の物ではありませんね。それに取り囲む敵意の中から出てくるのも不自然です》
《主よ、最悪の場合誰かの隠蔽は解除せねば皇女の小娘が危ういかも知れんぞ》
異変を明確に感じ取った龍真がリオンに聴かせるのは悪いと思い念話の方に切り替えて話し掛けるとそれぞれ感じた違和感や判断を返し警戒維持を確め合う。自己判断で危険だと理解しても勝手に行動を起こさない辺り元引きこもり気味オタクの龍真には出来た従魔である。
「あの、皆さん…?何故彼にそのような眼を向けて固まってるのですか?」
「…皇女様は気付かないですか、彼とは初対面ですがこの森で単身武器も持たずにここまで辿り着けるでしょうか?」
警戒を解かない様子に違和感を感じたリオンは前に陣取る龍真に質問してみたが逆に質問を返され、それは…と言葉を詰まらせてしまった。
「さぁ、リオン様…儀式の護衛は私が勤めます故、2人で中へ参りましょう!」
こちらの声はさして聞こえていないのか、ロディックはふらふらと不安定な足取りでリオンに近付きながら手を差し伸べ儀式を済ませるには自分だけで充分だと言い出した。
護衛団として臨んだ筈の儀式なのに明らかに不自然である。
「ロディック隊長…リオンと貴方の2人では儀式を済ませるには厳しいのではないかと思います。ここに居るリョウマ様達はリオンを盗賊団から助けてくれました、どうか手を取り協力して目的を果たしましょう?」
「ぬぅ…しかし……いえ、リオン様の仰せのままに。そこの者ども、くれぐれも我々の足を引っ張るなよ?リオン様の温情で同行を許可してやる」
龍真達に囲まれながらもこの森まで共に過ごしてきたロディックを完全に疑う事の出来ないリオンは龍真達と共に居る敬意を話し、協力して儀式を済ませようと説得を試みた。
皇女からの頼みともなれば無下に出来ないロディックは明白に龍真達を厄介者と見て睨み付けながら悩み始めるも、このままでは事が進まないと判断したようで嫌味を交えて渋々同行の許可を出した。
(これは…"一緒に神殿の奥まで行って肝心な所で裏切り、最悪の場合皇女に何か手を加える"的なイベントだな。此処で同行すれば隊長を中に入れる事になるか……)
「貴方には悪いが同行はお断りだな。それに俺達から皇女様を引き渡すのも遠慮しておこう」
「何だと貴様…無礼な…っ!」
ロディックの反応に龍真自身が良くゲームや本で味わってた裏切り行為を連想させられ【識別眼】の発動で予想通りの思考の識別を受け取ると龍真はロディックの方を見てきっぱりと断りを入れる。
皇女のリオンに対しては敬語を使う龍真だったが彼には使う必要がなかった為普通に断ったのだ。
そして食って掛かろうとしたロディックを見ると反射的に手を回して鞘から引き抜きエアル・ブレイカーの切っ先を向けた。
「気付かないと思ってるのか?そもそもお前は人族じゃないだろ…観念して正体を晒したらどうなんだ?」
武器を向けられて驚いた仕草は見せたものの、恐怖を抱いていない様子のロディックに向け何者なのか問い詰める。一瞬リオンには申し訳無いと思ったが事前に取り除ける不安要素や危険要素は取り除いておいた方が良いのだ…例え発生するイベントを潰したとしても命には変えられないのだから。
「"…貴様、何者だ?" …申し、訳…ありませ……お逃げ…下さっ……ごほっ!!……"まさか見破られるとはなぁ"」
エアル・ブレイカーを向けたまま見据える龍真に暫く無言だったロディックが俯くと急に雰囲気が変わり、辺りに不気味な風が流れる。
するとそれまでのロディックの声とは異なる底から響くような声で龍真の正体を探った瞬間、自我を戻した元来のロディックがリオンを見て途切れ途切れに逃走を促し、言葉を言い終わる前に背中が爆発してゴム皮質の左右対象の翼と先に黒い棘が着いた長い尻尾、最後に無数の触手が姿を現した。
「あ…ぁ……」
見知った人間が不気味な変貌を遂げた姿を目の当たりにしたリオンはその場で全身を震わせ心が恐怖一色に染められていた。
成人の証明の為に外へ出て初めての実戦だろうし訓練とは違うのだから恐怖に支配されるのも無理のない事だと思った龍真はミアティスとシオンに目配せしてリオンの護衛を任せる。
龍真の頼れる従魔達は主人の意図を察するとシオンの左右に並び怪物と化したロディックとそれに相対する龍真から距離を取らせる。
「皇女様、しっかりして下さい。あれは最早貴女の知る隊長殿ではありません…乗り移られてるのか操られてるのか定かではありませんが、明白な対処が分からない以上護衛を受けた我々としては襲い掛かって来るのであれば心苦しいのですが倒さなければなりません」
「はい、はい…っ、そうですよね…。彼を救う手立ては解放してあげるしか…ない、ですよね…っ。ごめんなさい…リオンが…しっかり出来なくて……っ」
恐怖に駆られたリオンが少しでも気持ちの整理を付けられるように龍真は襲い掛かって来るのなら倒すと明白に告げる。
迷い無い龍真の言葉を受けたリオンからは涙が溢れ、救う事が出来ない自分の不甲斐無さを嘆きながら両手で顔を覆う。
「皇女様、これは自身の考えですが…彼の最後から眼を背けてはならないと思います。護衛の一団の隊長を勤めた者として心に刻んでおかなければならないかと…彼等に報いる為にも必ず成功させて帰りましょう」
いつ襲い掛かって来るか分からないロディックへ視線を戻し何時でも対処出来るようにエアル・ブレイカーを構えた状態でリオンに個人としての考えを告げる。
皇女としての彼女でも一人の少女としての彼女でもこの経験を無駄にしてはならないと感じた龍真は今から手に掛けるロディックを始め儀式に参加した一団の遺志を引き継いで無事に済ませて帝都に連れ帰る事を改めて決意した。
振り返りもせずに見ようによっては皇女に叱咤した龍真にはどう受け止めてどう行動してるか見えなかったがリオンには言おうとしてる事が伝わったのではないかと感じていた。
「"身体にも漸く馴染んできた…無駄話してくれたお陰で本調子で遊べそうだなぁ"」
(…この手の戦いは俺が書いて出すとしても長引かせちゃいけない戦いだな。引っ張って情報を聞き出す事も出来そうだが神殿内部の事もあるし…巻くか)
会話最中いつ攻撃して来るかと思っていた龍真だったが化物には化物なりの事情があって時間稼ぎを目論んでいた所で会話が入り好都合だったようだ。
強敵感を醸し出してきた化物を他所に龍真は後に控える神殿攻略イベントを考慮して早めの討伐を選択した。
「そうか…やる気満々なところ本当に申し訳無いんだが、こっちも結構作業が多い…退場して貰うぞ」
「"愚かな奴だ、命が要らないと見えるなぁ"」
隠蔽したレベルより少し速い程度の速度に抑えて駆け出し接近してくる龍真に自身の力を過大評価し過ぎて慢心している化物は余裕の笑みを浮かべて両腕を拡げると、龍真の進行上を狙い背中から出た触手で攻撃する。
(動いてる最中なら大丈夫だろう…そのままでも飛べるが念は入れようか)
攻撃に動き出して戦闘に入った状態なら多少のスキル併用は誤魔化せるだろうと一度は判断した龍真だったが、思い直してエアル・ブレイカーに微量の風の魔力を込めて棒高跳びのように身体をひねり剣の先端を地面に着いて触手攻撃を回避しながら空中に飛び上がる。
「"翼を持つ相手を前に空に上がるとは救えない奴よ、そのまま串刺しになれぇっ!"」
化物は龍真を嘲笑い気味悪い翼を拡げて飛び上がり攻撃を仕掛けて来るが、勿論何の考えも無く上空へ位置取った訳ではない。
リオン達へ攻撃の流れ弾が当たる心配が無くなると上空で【識別眼】を発動、攻撃対象の弱点を見分けていく。
(…向かって来る触手は此処、翼は此処…本体は…そこか…)
迫り来る触手の群れの先端を切り裂き化物へ接近、翼を動かす起点となる場所を的確に貫き空中に停滞させるとエアル・ブレイカーを振り上げ両手で握り、ロディックの姿をかろうじて成している本体を左肩から右足に掛けて斜めに斬擊を浴びせる。
「"そんな…馬鹿な………っ"」
立て続けに受けた攻撃の全てが自分の弱点を的確に見抜き死に追い詰められた事が信じられなかった化物は驚愕以外何も口にする事が出来ずドシャッとうつ伏せで地面に衝突し、そのまま動かなくなったのだった。
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