表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/74

2度目のスレイリンク 2


……龍真とシオンが戦い始めて大体20分前後といった時間が経過している。

1人と1体の戦いは過激になっていく一方だった。此処がシオンの見付けた無人の荒野地帯でなければどれだけの損害が出ていたか計り知れなかった。


朽ちていた木々は粉々に砕かれ、無造作に転がってる岩は削り抉られ砂と化し、大地にも大小穴が無数に出来ており滅茶苦茶にされていた。


《良い…良いぞ、龍真よっ!私が此処まで追い詰められる事がかつて有っただろうか。いや…無いな、初めての経験だっ》


「…なぁ、もちこ。時々思うけど、シオンって危ない奴になる時あるよな…?」


「龍真さん、聖獣様にも色々あるんだよ…きっと」


シオンが自分で言うように状況はシオンの方が劣勢だった。だというのにも関わらず、シオンは心底楽しげに戦闘を続けていた。

龍真の担当精霊であるもちこは基本的に龍真から離れる事は無いが話し掛けられない限り中々自分から声を掛ける事は少なくなっていた。元々ステータスの精霊というのはステータスに関する更新や変動があった時担当の人族に声を掛けるのが主な関係性らしい。

人族の中にも独りを好み生活する者も居るのでそういう人族の担当になると声を掛けたりするそうだ。龍真も度々一人で出掛けてるが、そういう時は普通に会話してたりする。


そんなもちこに龍真が小声で声を掛けるともちこは生暖かい視線を向けて龍真に諭すように返答してきた。もちこ自身も何か突っ込みたそうな雰囲気は醸し出していた物の、無駄だと理解して諦めたのだろう。


《龍真よ、これならどう対処する?》


自分の技を簡単に対処されていく経験があまりにも浅かったシオンはその珍しさからスキルを多用し続けていた。

次にシオンが龍真に繰り出したのは無数のミラーを繰り出し一帯を取り囲みそこに光の集束体のレーザーを放って反射を利用した攻撃だった。

相手の避ける位置を鏡の角度で捉えた絶妙な攻撃で、並の相手なら即座に蜂の巣になっても可笑しくない手数と威力のレーザー光線達が龍真に襲い掛かる。


「これを返すのは無理だな…【万物集束】攻撃はエアル・ブレイカーに集まれ…そして、力を纏って仇為す力を無に還せ…【万物離散】」


龍真はこの攻撃を【識別眼】で弾き返すのは無理だと理解し、本来必死に避ける筈の無差別波状光線をエアル・ブレイカー1つに集める。それから自分のスキルを纏わせたエアル・ブレイカーを大きく振るい、集まる全てのレーザー光線を光の粒子に変えて霧散させた。

龍真がシオンの攻撃に対処をしてシオンが居る方向へ眼を向けるもそこにシオンの姿は無い。

すかさず【識別眼】で位置を確認するとシオンは龍真の真上に居た。


《ふっはっはっは…っ、これ程気持ち良く力を解放出来る存在に成長するとはなぁ!》


「っ!」


シオンはただ真上に居たのではなく、龍真が放った攻撃に対処出来てしまうと読んで対処し終えた頃に直撃するように前脚に光の魔力を纏わせて急降下してきた。攻撃を霧散させていて気付くのが一瞬遅れた龍真はそれでも気付いた瞬間エアル・ブレイカーを上に掲げ防御の姿勢を取ったが、その一瞬の間は結果に大きく明暗を分ける。

激突の衝撃で砂煙が大きく巻き上がりその威力がどれだけ強大なものか物語っていた。


《………》


龍真と接触した筈のシオンは遥か上空に居た。衝突の手応えは掴んでいたので無傷では済んでいないだろうと思い、龍真がどうなっているか煙幕の中を覗き見る。


「…俺も使った事あるけどさ、その一瞬が命取りになる…って奴だな」


《何?ぐぬ…っ!》


煙幕の中を見ていたシオンは突如背後から聴こえた龍真の声に驚き振り返った。しかし既に龍真はエアル・ブレイカーで攻撃出来る間合いに切迫しており、更に攻撃態勢も完璧に取れている状況だった。

視線を向けて自分の真上に居る龍真に気付く事は出来たものの、身体の向きを変えるような余裕はなく強烈な一撃を背中に受け、未だ砂煙が薄く残る地面に叩き付けられる。

シオン自身の重量と攻撃の威力に落下した時の重力が合わさりシオンが落ちて衝突した場所は漫画などで良く目にするクレーターが作られているのを龍真が着地する頃には視認出来た。


《成…程、私が蹴り込んだ時…やけに高く跳ね上がったと思ったが、龍真は【叛転(リバース)】を使い砂煙の中【万物纏合】で剣全体に魔力を集め……【飛天縮地】で私の上に上がり…【識別眼】で的確に叩き落とした、のか…》


龍真が着地して接近して来るのに気付いたシオンは視線だけ龍真の方へ向け、自分が何を受けたのか冷静に分析する。龍真はそれに対して頷き肯定だと示すだけに留める。どちらも未だ降参を口にしていないしシオンは回復スキルも持っているのだ、油断するなと言う方が無理な話しだった。


《ふ……見事だ。流石に起きれぬわ…》


シオンは回復する素振りを見せず立ち上がろうとしたが受けたダメージが大きかったらしく起きるのも飛ぶのも儘ならない状態で清々しい顔で龍真に称賛を送る。


「…回復して続きをしなくても良いのか?」


《龍真が色々制約をして戦ったように私も回復のスキルは使用しないと決めていたのだ。これが命を掛けての勝負だったとすれば、私は対峙した時点で【即死弾(キルバレット)】で屠られているだろうし…先程の攻撃でも通常刃を立てられた攻撃であったなら、私はこうして叩き付けられるのではなく空中で切断されていただろうからな…龍真よ、私の負けだ》


龍真が自分のスキルに制約を掛けて勝負に臨んだようにシオンもまた自分を戒めて戦っていたようだ。

回復スキルに制限を掛けて動けない程のダメージを受けたシオンは自身の敗北を認める。


「そうか、じゃあ…俺の勝ちだな。これで回復、するんだろ?」


明白な勝敗が決した所でシオンも頷き、自分を癒していく。自分を癒しながら接触してる大地も若葉が生い茂っている辺り集中して力を使えていないという証拠だろう。


「うわぁ、結局勝っちゃった…ねぇ、龍真さん?何目指してるの?」


「勝って何が悪いんだ…」


シオンの傷が癒え始めると気配どころか姿も消していたもちこが姿を現し、担当精霊になって半年も満たないおっさんだと言い張る少年が聖獣と呼ばれ崇拝される対象のシオンに圧倒的な力の差を見せて勝利したことが信じられず、夢でも見たかと眼を擦って現実の出来事かどうか確認してから龍真に対して呆れた様子で問い掛ける。

一瞬不服そうな顔を見せてもちこの言葉に突っ込んだ龍真だったが、回復スキルで身体の傷を癒したシオンが立ち上がると視線をシオンの方へ向けた。


「シオン…もう平気なのか?」


《うむ、大丈夫だ。しかし龍真、随分と戦い慣れたな、今や立派に戦士ではないか》


「ん…あぁ、有難う…」


龍真がシオンに礼を述べたのは戦士としてのお墨付きを貰ったからではない。

見えないように隠していた左腕にシオンが気付き、近付いて来るなり回復スキルで龍真を治療したからだ。


《さて、約束は約束だからな。龍真よ…スレイリンクするとしようか!やり方は覚えているか?》


「まぁ…ある程度ならな」


《ある程度では困る、今度も精霊に続いて確実にやるのだ。この私の初のスレイリンクに失敗など有ってはならんからな》


勝敗が決してスレイリンクを提案し、方法を確認したシオンに対して龍真は曖昧な返事を返す。当然それでは面白くないシオンは龍真がもちこに頼む前にミアティス同様復唱しての契約を指示してきた。


「それもそうだな、もちこ…また頼む」


「良いよ~、先ずはお互いの意思の確認からだね」


スレイリンクは先ず契約者側と魔物側双方の同意が得られてる状態な事から始まる。もちこの誘導に従い頷いた龍真は戦いで使用していたエアル・ブレイカーを【自由保存(フリーストレージ)】に収納して代わりにナイフを取り出した。



「シオン…お前は俺のスレイモンスターになる事を承諾するか?」


《うむ、承諾する。私は龍真を主としてスレイモンスターと成ろう》


シオンの返事を聞いた龍真は自分の指先をナイフで切り、少し出血させるとシオンの口へ近付け、シオンはそれを一舐めすると龍真に前脚を差し出した。意図を理解した龍真は前脚の自分に近い位置を軽く切り、シオンの血を飲み込んだ。

これで承諾に続いて血の交換の儀式を済ませた事になる。



「それじゃあ龍真さん、今回も私に続いて?"我等は互いの意を共にして生命の繋がりの元、主従の契約を結ばん!我を主と認め此処にスレイリンクを受け入れるならば制約を誓え"っ」


《我等は互いの意を共にして、生命の繋がりの元…主従の契約を結ばん。…我を主と認め、此処にスレイリンクを受け入れるならば…制約を誓え」


龍真とシオンの血の交換迄見届けて、もちこが龍真の横に並ぶとミアティスの時と同様に片手を振り上げ契約の言葉を口に出し、途中で拳を前に突き出し言葉を紡ぐ。やはり龍真はこれで魔力を使った制約になるのか疑問が残る物の、もちこに追従して言葉と動作を繋げ拳を突き出す。

すると前回より少し大きな魔方陣が大地に浮かび上がり龍真の身体から淡く蒼い光が溢れ、龍真の全身を包み込む。


《うむ、我は今後主と認め、このスレイリンクを受け入れ苦楽を共にし主へ寄り添い…別れのその時迄、服従する事を此処に誓おうっ》



魔方陣に包まれ龍真の拳を見るとシオンもスレイリンクの言葉を繋げる。そして黄金の角が当たらないようにして龍真の拳に額を当てた。


以前と同じく龍真の拳とシオンの額が触れ合うと、龍真を包む淡く蒼い光がシオンも包み込み拳と額に収束すると紅く輝いて吸い込まれる様に消えていった。

シオンの首元の左側にローマ数字の"Ⅱ"に近しい紋様が薄く浮かび上がる。龍真は恐らくスレイリンクを繋げた順番なのだろうという推察に至った。


《ミアティスの次というのが少し不服ではあるが…これも私が龍真を読み誤った結果なのだから仕方無いな。改めて宜しく頼むぞ、主よ》


「主…か、何か違和感あるけどその内慣れるだろう。此方こそな、シオン」


互いの利害が一致して龍真のスレイモンスターにシオンも加わった。

飛行移動可能な従魔が加わり友よりも強い繋がりを得たのは良いとして今後の行動が嫌でも目立つようになると頭を悩ませた龍真は、もうこのまま開拓者ルートでも良いかも知れないと投げ出したくなったが結局対策を考える事にした。

外の世界を見ずに終わるのは味気無いし面白味も無い、強さを得ても龍真の思考は変わらなかった。


「龍真さん、聖獣様なんて規格外な仲間を作って世界を乗っ取るとかは止めてあげてね?多分誰も敵わないから…」


「…そんな事するか。俺を何だと思ってるんだ」


ステータスの精霊として世界を見てきた中で常識的に有り得ない事ばかりを起こす龍真に、もちこは興味と恐怖の入り交じった複雑な心境で魔王や悪魔の所業を起こさないように諌めてきた。

龍真に本気の眼で訴えるもちこに即答で返事するとそのまま小さな頭に指一本でチョップを浴びせた。


こうしてシオンのスレイリンクを賭けた勝負は幕を下ろしたのだった。




読んで下さってる皆さん、ブックマークして下さってる皆さん、いつも本当に有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ