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ミアティスの奮闘


《お母さん、こんな感じで…良いの、かな?》


《ええ、上手ね》


ミアティスと聖獣ミルガ・ヴォリオスのシオンが龍真の住居に住み着くようになってから既に地球でいう所の1ヶ月が経過していた。

今、龍真のスレイモンスター…所謂従魔であるミアティスは自分の母親のフェルスアピナ、レティスの住む岩山へ足を運んでいる。

此処は元々フェルスアピナの群れが住んでいた住居の岩山だった。

因みに龍真とシオンは早朝からの鍛錬に汗水流してる最中である。


ミアティスが母親の所へ出向いていたのは母親の様子の確認だけでなく、調理や加工に影響する様々な技術を習得する為でもあったのだ。


《それにしてもミアティス、貴女が龍真さんの所にお世話になってから…随分と色々な事に興味を持ち始めて積極的に動くようになりましたね》


《うん、マスター…どんどん強くなる、から、他の所でも私に出来ること、で…役に立ちたいの》


以前のミアティスなら恥ずかしくて俯くだけだったレティスの言葉にも今は普通に自分の考えを言葉にして返事が出来ていた。

スレイモンスターとしてマスターの傍に居る事は人が呼吸する事と同等くらい当然の事だし、戦闘時には自分の全てを費やしてでも龍真を守り、共に戦う覚悟ではいるが、鍛錬を重ねる度に龍真の力が増しているのをミアティスは肌身で感じている。

戦闘の時は恐らくシオンも同行しているだろうしミアティスが役立てる事は少ないだろうと容易に予測出来た。


だからそこ、龍真やシオンが何かしている間に自分が一番役立てる事を探して母親に師事を仰ぎ、自らを高めていたのだ。

当然戦闘でも知能の高いレティスからフェルスアピナ独自の戦い方を学び、人族に近しい自分の身体に見合うようにアレンジを加えて昇華させている。

人族の血がレティスより更に強いミアティスは限り無く人族同等の知能を持ち"勇滅の森"で余裕の生活が出来る程の魔物の力を継いだ聖獣のシオンに近しい存在に成りつつあった。


《ミアティス、貴女には私の全てを覚えて貰うし、それよりも上の力を身に付けて貰いますよ。それが貴女の最低合格点です》


《はい、お母さん…今の私、独りじゃない、から》


以前一緒にこの住処でレティスが守りながら過ごしていた頃のミアティスとは雲泥の差と言える程意欲が違っており、主人が存在する事で自分が嫌われても帰る場所があると安心して厳しさを増した対応をするばかりのレティスが驚く程の変化だった。


《そうね、じゃあミアティス…今度からもっと密度を増やしましょう。マスターの龍真さんの迷惑にならない時間の中で貴女は調理、片付け、身に付けてる物の洗浄、主人に対しての言葉遣いや作法、解体や加工に加えて当然だけど戦闘に、万が一に備えて交尾の知識…着いて来るんですよ?》


《…こ、交尾…っ?》


どれも母親の技術を越えて更に高みを目指し、スレイモンスターとして役に立とうと意欲を燃やしていたミアティスだったがレティスの口から最後に出た交尾と言う単語を聞いて一気に赤面する。


《そうですよ、何を驚いているのですか。私達は雌しか居ない種族…望みの数の子を成す迄発情期が飛来するのですよ?》


雌しか居ない種族の魔物、フェルスアピナには成体になると他の魔物に比べて極めて強力で抗えない発情期が存在しており、本能が望む子を成し終えるまで周期的にやってくる事をレティスはミアティスに教えた。


通常のフェルスアピナで考えれば一度か二度の到来で落ち着くのが平均であり、レティスもミアティスを産んだ後落ち着いたのだがより強く人族の姿と知能を持ったミアティスが何処まで続くか、全く見通しが見えないのだ。

母親として有事に備えた方法や知識を教え込むのは必然事項だった。

他の野性的な魔物に対して嫌悪感を多少なりとも持つレティスが自らの娘と訳の分からない獣が交わる事に断固反対の意思を持つのは仕方無いと言える。

レティスの理想としては人族の使用人同様マスターに甲斐甲斐しく尽くし、種族は魔物とは言えど、人族の龍真から寵愛を受けて欲しいと思ったのだ。


"勇滅の森"の魔物どころか聖獣様にも圧倒する程の強さを持ち魔物とも争う事無く対話から始めようとする理性的な態度、娘と同じ位の見目年齢、互いに共感出来そうな特異性など細部を含めて龍真は有望な雄だと直感していたレティスは、実はそこに一番重きを置いていた。


《…でも、交尾の知識って…》


自分にも近い将来降り掛かって来る発情期の波にいずれ自分も耐え切れず交尾に及ぶのだろう事を再認識したミアティスだが、ミアティスも母親同様…いや、それ以上に魔物同士での交わりに拒絶を示していた。

かと言って龍真は自分のスレイマスターだし憧れと尊敬、それに恋慕の気持ちを持っていても自分の発情期に巻き込むつもりは毛頭無かったし自分には龍真に相応しい魅力なんてないとも考えていた。


《スレイモンスターの貴女がこれを乗り越えられる方法は一つです、人族のように龍真さんの心を掴んで傍に寄り添いながら夜のお世話もしなさい》


《マスター…の…?》


《そうですよ、龍真さんに同行するのですから発情期など関係無い状態にすれば貴女が相手に困る事は無いのです。幸い貴女の容姿はほぼ人族…以前はその容姿になってしまった自分を責めましたが、今はそうは思いません。龍真さんと交わるのに貴女以上に近しい雌は居ないのですから》


ミアティスが発情期を思い出して一番最初に連想したのは龍真だった。

色々な状況を考えて自分では無理だろうと身を引こうとしていたミアティスだったが母親のレティスの方が諦めるなと背中を押してきた。

それはもうミアティスが引く程に。

レティスのミアティス幸せ史上主義は日を追う毎に増している気がした。


しかしその後押しに感化され頑張ってみようかと思い直すミアティスだった…龍真の貞操が狙われる日もそう遠くないだろう。




…─龍真達の鍛錬が終わる頃合いを逆算して住居の洞窟に帰って来たミアティスは自分が作った魔物料理の品々を並べ暫く過ごしている洞窟全体を見渡した。

シオンには無意味だがミアティスが加わった事で防護柵の精度は禍々しく向上し、万が一の備えは出来ているのだが自覚無しで成長し続けてる龍真を筆頭に聖獣であるシオン、特殊個体らしく着実な成長を遂げているミアティスが住んでるこの場所に動物は愚か、屈強な魔物達でさえ近付く事は皆無だった。


視線を別な所へ向けると今度は浴室が視界に入る。

最初ミアティスとシオンが来た時は急拵えだった脱衣スペースや流し場所もこの1ヶ月で余裕を持った仕切りと空間に変貌を遂げていた。

湯気が洞窟の維持に悪いとシオンから指摘された龍真が換気口をぶち空け、コンクリートとして加工に成功した洞窟の土を使って配管を作り、浴室内の湯気を逃がしていた。


龍真は剣の練習と称して洞窟内部を開拓し、新たな空間を作ると知識だけを頼りに見様見真似で"かまど"を3つ作り木材で腰の高さ程の棚を作って簡易的なキッチンも追加した。

器具などは龍真が木の皮に描いてミアティスが火の通る鉱石を加工して随時増加中だった。


この洞窟を外から見ると左右の穴から湯気が立ち登り後方から温かい水が流れ落ちている不気味な場所と言われても反論の余地は無かった。

逐一外に出て調理しなくても良くなったミアティスとしては嬉しい限りの話だったが。


当然の話だが、寝室も改良されている。

全面洞窟の土を使って固め、今は内部の方も徐々に固めている最中だ。

龍真とシオンは自由時間になるとそれぞれ散歩に出回り別な理由で行動していた。

シオンは羽根伸ばしと空からの探索、毎日羽根を動かして飛び回らないと翼が鈍って気持ち悪いというのだ。

龍真の方は"勇滅の森"の探索を兼ねた狩り。生きていくには食事は不可欠な為ミアティスばかりに食材調達を任せず、本能のままに襲い掛かって来る魔物を倒しては解体の練習と食材にしていた。


魔物の毛皮は高く売れるのだとシオンやもちこに諭されても自分の生活にストレスを感じていたら意味が無いと結論付けた龍真はミアティスに布団として加工して貰った。

設備が揃ってきたのを実感した龍真は"このまま領地開拓系でも進めるな"と満足げに考えていたが、出会いが少なすぎると判断して結局取り止めた。


異世界の常識を学ぶ勉学では1つ変化が有った。

龍真だけではなく、ミアティスも参加するようになったのだ。

ミアティスが"この外見だから人族の言葉を話せるようになりたい"とシオンに頼み、その時間に当てる時はシオンと龍真ともちこがミアティスに教える形となっており、支え合って良い関係を築いているとそれぞれが実感していた。


「今戻ったぞ、ミアティス」


《おか…あっ》

「おかえり、なさい…マスター。食事…出来て、ます」


ミアティスが自分の生活を思い返していると鍛錬を終えた龍真達が戻ってきた。

日常的な人族の会話を身に付ける為に龍真は可能な限り人族の会話をイメージしつつゆっくり話し、ミアティスも出来るだけ人族の言葉を使うようにしている。

スキルでどうにかしている龍真にとってはその使う使わないがイメージするかしないかで簡単に切り替わるが、本来別な言葉を使うのは容易な事では無い。

ミアティスの努力を一番理解出来ていたのは龍真でも天才肌の聖獣シオンでもなく精霊のもちこだったかも知れない。


頑張るべき物事は山積みされていてフェルスアピナの住処に居た時よりも多い筈なのに、ミアティスは此処での生活に幸福感を感じていた。

此処には侮蔑も迫害も無く、ミアティスをミアティスと捉えて接する存在しか居ないのも勿論関係してるだろうがマスターの龍真と共に生きているのが大部分を占めているだろう。


龍真の帰宅を見て自然と表情を綻ばせ、笑顔で出迎えるミアティスの奮闘は今後も続いていくのだった。




読んで下さってる皆さん、ブックマークして下さってる皆さん、いつも本当に有難うございます。




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