魔物が増えた生活 3
明けましておめでとうございます、今年も宜しくお願いします。
《この辺が妥当であろうな》
昼の食事を済ませた龍真達は魔物の解体をする目的で全員洞窟の住居から外出していた。
暫く森の中を歩き川に出た所で少し上流の方へ歩いて行くと都合良く開けた場所を見付けた。
龍真がこの場所で良さそうだと思って口を開く前にシオンが妥当だと決めて足を止める。
《んぅ、マスター…取り敢えず、魔物を…出して?》
《ミアティスは此処で良いみたいだし決まりだな…俺も解体を知りたかったし2体出すか》
ミアティスが解体場と定めた場所の中央辺りに移動すると珍しく積極的に次の行動を求める。
自分の技術が龍真の役に立つと張り切るミアティスの本心に気付く事も無く、龍真はミアティス用にグラ・ダルガスを、自分用にイビルティグレスを【自由保存】から取り出しその場に出現させた。
《仔牛と仔猫か、捌き甲斐の有る大きさだな》
龍真が倒したグラ・ダルガスとイビルティグレスを見てシオンのやる気にも火が着いたようだ。
「私は余り役に立てなさそうだから、この際龍真さん達のを見て確実に覚えておこうかなっ」
自分より解体知識が豊富なシオンが居る事でもちこも指導側では無く学習する側に回る。
一般的な人族と過ごしていたら滅多に見られない解体なのだからそれも当然の事だろう。
《では先ずはミアティスの方から取り掛かろうか…龍真は手伝いながら作業を学ぶと良い。こやつは此処から此処までを捌いて血抜きするのだ、血に価値が有る魔物は居るが仔牛は無価値だからな》
シオンは龍真とミアティス同時に解体させるのでは無く、始め慣れてるミアティスを主体にして一緒に作業していく方法を取ったようだ。
龍真もミアティスに教えているシオンの言葉を聞き入れながら【感情保護】と【識別眼】を発動させ、肉を裂く嫌悪感を無くし切り裂く位置を識別していく。
《シオン様、こう…で、大丈夫?》
《うむ、ミアティスの魔法は便利な物が多いようだな》
シオンが黄金の角で指した場所に風魔法を帯びた手先で医療器具のメスを使うように正確に切り裂くミアティスにシオンは次々と指示を飛ばし、手早く確実にグラ・ダルガスを必要な部分と不要な部分に切り分けていく。
(…魔物が魔物に教えて、絶命した魔物を解体していくってこのシュールな光景は中々無いんじゃないか…?)
どれだけ人族に近い容姿をしていてもミアティスは魔物だし教えるシオンも聖獣として高位に属するものの、結局魔物なので龍真は切り分けられた必要部位を【自由保存】に収納しながら違和感有る光景を眺める。
《…シオン様、ありがと。この魔物は…分かった》
指示通り解体を終えたミアティスは一度の指南でグラ・ダルガスの解体は理解したと伝える。
解体の流れに似ている所は有っても魔物それぞれでやり方が違う事をミアティスは理解していた。
《そうだな、仔牛はこんな感じで捌くのだが次は仔猫か。傷は少なく状態も良いが練習台にするのか?》
人族の生活とも無関係では無いシオンがイビルティグレスの亡骸に近付くと外傷を確め暗に人族へ回せば利益を得られると龍真に伝えたが龍真は首を縦に振り解体の練習に使うと肯定した。
《今必要なのは知識と経験だ…それに倒して目立つような魔物を持って行って目立つと後が面倒になるんだ…》
どれだけ力を得られても目立ちたくない龍真は目先の利益より自身の経験を選択する。
"勇滅の森"に生息する魔物とスレイリンクを行い、聖獣と友好関係を結んだだけでも困っている龍真がこれ以上目立つ要素を増やす選択肢は皆無だった。
勿論、ミアティスとシオンと一緒に過ごすのが嫌な訳ではないから余計困り物なのだ。
《そうか、では練習に使うとしよう。仔猫の解体は此処からだな…》
《…分かった》
納得したシオンがイビルティグレスに近寄り前足の付け根を黄金の角で指差すと龍真がナイフを携えて近付く。
(…ミアティスの風の刃は参考になったな。武器に宿せたら攻撃のバリエーションが増えるか)
ミアティスの鮮やかな解体捌きを見て、龍真はそれを参考にして解体を試してみようと考えた。
「【万物集束】…風の魔力よ、集まれ。【万物纏合】、風の魔力よ…ナイフに宿れ…これで識別眼で見定めれば…」
龍真はナイフを握り意識を集中させると新しいスキルを使っていく。1日とは言えシオンとの鍛練で把握していたスキルは滞りなく発動された。
ミアティスの風の刃をイメージして漂う魔力を風魔法として集め、集めた風魔法でナイフを包みその状態を維持する。
そして【識別眼】を使用して、シオンの指定した場所を最小限の動きで切り裂いていく。
正直言って中々の狡い解体作業である。
《おぉ、上手くスキルを利用して作業しておるではないか!おっと、次は此処だな》
見よう見真似で解体していくとシオンは手際というよりスキルの併用の方に眼を見張っていた。
ナイフ一本でこれ位の技術力を付ければ言う事無しなのだろうが龍真は解体の専門職を目指して極めている訳でも無い為、便利で使える物は惜しみ無く使おうというのが鮮明に出ていた。
例えるなら店で買った武器が有るのにわざわざ自分で武器を作って使うかと言われれば、買った武器をそのまま使う…と言った感じである。
《…うむ、仔猫の解体はこんな物だな》
スキル併用を惜しみ無く使い龍真も初めてのまともな解体を済ませる。
龍真とミアティスが一体ずつ魔物を解体しただけで解体場は中々エグい光景が広がり血肉の破片が散乱している。
使える物と不要な物を分けるのなら惨状が作られるのは明白だと理解していても【感情保護】を使っておいて良かったと龍真はしみじみ感じていた。
《マスター、お疲れさま…でした。あの、これ…飲んで?》
龍真が解体している間何処かに行っていたミアティスだったが解体が終わる頃合いを見計らい戻って来ていた。
その時にでも採って来たのだろうか、果実とハーブらしき香りの植物の葉をブレンドした飲み物を龍真を労いながら差し出す。
《有難うミアティス、やったと言っても指導を受けながら1体だけどな》
《それでも、初めての事や慣れない事…たいへん。だから、落ち着くの、飲んで》
解体してる最中も強さの基盤を上げてる龍真にしてみればイビルティグレスといえど魔物い1体の解体では大して疲れを感じない龍真だったがミアティスは自分の体験を思い出して龍真に出来る事を考えたのだ。
相手を思いやれる心優しいスレイモンスターである。
《ご馳走様。それでシオン、これの後始末はどうするんだ?》
解体場から少し離れた所でミアティスから貰った飲み物を飲み干すと直ぐに戻り、ミアティスの頭を軽く撫でてシオンに処理の方法を尋ねる。
《方法としては穴を掘り埋める、燃やし尽くす、持ち帰って何らかの餌に混ぜる…等が有るが、私が居る間は心配無いだろう》
シオンが何通りかの処理の仕方を口頭で説明すると、見ておれ、と龍真達を制止し光の魔力を黄金の角に集める。
《汝らの魂を浄化し血肉を大地の恵みへと還元せよ…》
シオンが真剣な眼差しで口上を唱えると集まった光が解体場を覆い尽くし、やがて散乱していた魔物の血や肉が大地と同化していった。
明らかにスキルの無駄使いだと龍真は突っ込みたくも有ったが、幻想的な光景を隣のミアティスと眺める事にした。
《と言ってもお前達に解体を教えたらもう同席はせぬだろうからそれまでだろうがな!》
今後の解体でも心配無いと安心した龍真を落とすように、シオンは悪びれも無く期間限定だと告げた。
それによって龍真は結局後処理まで覚えなくてはならなくて肩を落とす。
色々と台無しにしてくれる聖獣様だった。
《そうか…仕方無いな。取り敢えずもう一体練習でもしてみるか》
《あ、マスター…お願いがあるの…っ》
気持ちを切り替えて解体作業の経験を増やそうと【自由保存】からもう一体魔物を取り出そうとした時、ミアティスが制止を掛ける。
《どうしたんだ?》
《さっき解体した素材…使って、服って言うの、作って、良い…?私困らないけど、私が服着ないとマスターが困るなら…嫌だから》
自分の我が儘を言って良いものか迷ったミアティスは一拍置いた後、自分で解体して出来た素材を利用して龍真が懸念していた衣服の加工を申し出た。
フェルスアピナの群れの中で役立たず扱いされて迫害まで受けていたミアティスは今の龍真にとって必要な事ばかり出来る器用な魔物だった。
読んで下さってる皆さん、ブックマークや評価下さってる皆さん、いつも本当に有難うございます。
元旦更新を目指して進めてましたが今年は難しかったです。
今年は挿絵も更新も途切れないように力を入れて行きたいと思ってますので生暖かい目で見守ってやって下さい!




