ファッションヘルス『ネオン・パラダイス』
一昼夜交代勤務。朝の9時に駅に出勤し、終電を見送り、仮眠室で3時間だけ目を閉じ、また始発から翌朝の9時まで働く。それが僕の日常だ。【実際は早番遅番があり、早番は22時から翌朝4時(初列車前)まで仮眠、遅番は深夜1時(終列車後)から翌朝6時までかみんだが、、、】
24時間ぶりに駅の改札を出ると、朝の眩しい太陽が痛いほど目に刺さる。世間の人々が「これから1日が始まる」という顔で足早にすれ違っていく中、泥のように疲弊した僕だけが、時間の流れからこぼれ落ちたような感覚になる。
そんな僕が、いつからか週に一度、吸い込まれるように足を運ぶようになったのが、歓楽街の雑居ビルにあるファッションヘルス『ネオン・パラダイス』だった。
「蓮さん、お疲れ様。今日も駅のお仕事大変だった?」
そう言って僕の隣で微笑むのは、指名している「アミ」だ。派手なメイクに、露出の多い衣装。お店では少し強気でクールな人気嬢として通っているらしい彼女だが、僕の前ではいつも、どこかホッとしたような優しい顔を見せてくれる。
彼女の細い指先が、僕の疲れた肩に触れる。その心地よさに浸りながらも、僕の胸にはいつも、冷たい澱のような自己嫌悪が溜まっていく。
(アミちゃんみたいな、こんなに華やかで綺麗な子が、僕みたいな冴えない駅員に本気で興味を持つわけがない……。これはただのビジネス、お金で買っているだけの時間なんだ)
しかし、僕には見えていない。
メイクを落とし、地味なパーカーに着替えて店を出た彼女――専門学校で子供たちのための絵本をめくっている「長谷川亜美」の、本当の胸の内は。
(蓮さんは、いつも私をちゃんと一人の人間として見てくれる。でも……私みたいな汚れた女が、あんな真っ直ぐで真面目な駅員さんに恋をするなんて、許されるわけがない。もしバレたら、きっと軽蔑されて終わりだもん)
同じ街の空気を吸いながら、二人の心の距離は、決して交わらない平行線のままだった。




