バスルームの2人
湯気に満ちた狭いバスルームに、シャワーの規則正しい音が響いている。
タイル張りの壁に反響する水音が、外の世界の喧騒を完全に遮断していた。
「蓮さん、熱くない? 大丈夫?」
アミが手際よくシャワーの温度を調節し、蓮の背中に温かいお湯をかける。一昼夜の勤務を終え、緊張でカチコチに固まっていた蓮の身体が、お湯の熱と彼女の添えられた手の温もりで、じわじわと解きほぐされていく。
アミは、自分の豊かな髪をクリップで雑にまとめると、白い泡をたっぷりと立てた。
「背中、流すね」
柔らかいスポンジと、それに包まれたアミの手のひらが、蓮の背中を優しく滑る。
ふわりと広がる石鹸の甘い香りと、時折、蓮の背中に触れるアミの柔らかな肌の感触。至近距離から聞こえる彼女の規則正しい呼吸の音に、蓮はドクドクと自分の鼓動が速くなっていくのを感じていた。
鏡を見ると、湯気で白く曇ったガラスの向こうに、お世辞にも格好いいとは言えない自分の姿と、その隣でプロフェッショナルに徹して微笑む、あまりにも綺麗なアミの姿が映っている。
(……僕は今、世界で一番幸せな空間にいるはずだ)
けれど、蓮の胸の奥には、やはり寂しさが頭をもたげる。
(でも、アミちゃんにとっては、これも仕事のルーティンの一つに過ぎないんだ。毎日、何人もの男の背中を、こうやって同じように洗っているんだろうな……)
蓮がそんな感傷に浸っているとは露知らず、アミは蓮の肩にそっと顎を乗せるようにして、耳元で悪戯っぽく囁いた。
「蓮さん、なんだか考え事? 私に洗われるの、緊張しちゃう?」
「あ……いや、そんなこと……」
「ふふ、可愛い。じゃあ、前も綺麗にしてあげるね」
アミの指先が、泡と一緒に蓮の胸元へと滑り落ちていく。そのプロとしての完璧な優しさと、抗えない心地よさに、蓮はただ翻弄されることしかできなかった




