第1話 八乙女める 嘘・初・恋 ①
……まただ。
バイト帰り、誰かに見られてる気がする。
振り返っても誰もいない。
でも『いる』と確信だけが残る。
早いうちに対処しないとまずい。
でも大事にするほどじゃない。
……だから、嘘でもいい。
「お願い。人助けだと思って、アタシの彼氏になって」
みんなが帰った放課後の教室。大して仲が良いわけでもないクラスメイトだからこそ、必死に頭を下げた。
それは、もう。下げた頭で、机が真っ二つに割れそうなくらいに。
「本当に、私で良いの? 」
予想していた返答と違った……
質問ってよりは、確認みたいな言い方だな。
「え? 」
「まず、顔を上げて」
言われた通り顔を上げると、泉さんは、一度だけ目を伏せた。
涼し気な目元。と、でも言うのか、切れ長の奥二重。
「なぜ、私なの? 」
女子校では貴重な『クール系イケメン女子』でファンも多い、泉さんの滅多に見れなさそうな困惑顔。
「あーね。自分で言うのも何だけど、アタシって、男を勘違いさせちゃう。って、ゆーか……」
口に出しづらいので、アハハと愛想笑いしてみたものの、通じるわけもなく
「男に彼氏役を頼めば、八乙女さんの事を本当に好きになってしまうと」
通じた! すごっ。さすが新入生代表!!!!
まぁ、頼めそうな男友達も皆無なんですよね。
こんな無茶なお願いを、泉さんが本気でオッケーするとも思ってはないけど。
「それな。ほら、アタシ超絶可愛いし」
…………無反応やめて! アタシに興味なくても無反応は切ないって。
「泉さんなら、アタシのこと恋愛対象で、好きにならないじゃん」
眉間にシワを寄せて、下唇まで噛んでらっしゃるけど、当たり前のこと言うなって感じだよね
クールな無表情と佇まいが大好評の泉さんに、こんな表情をさせてしまうとは、我ながら申し訳ない。
「だから、アタシを好きにならない、泉さんが安心出来るかな。って」
泉さんにNG食らったら、アタシ一人で何とかするしかないよね。
高校入ってまだ一ヶ月くらいだし、なるべく穏便に終わらせたかったのに。
「頼めるのが泉さんしかいないんだよ。アタシの周りには、出来そうな人いないし」
最後に拝む様にして、目を閉じる。
数秒間が異様に長く感じ、諦めようと心に決めたとき、『はぁ』と、ため息が聴こえた。
チラ見すれば、ものすっごい微妙な顔の泉さん。
それでも、視線だけはアタシからずらさなかった。
気まず……ほんと、ごめんなさい。
「嘘の彼氏役……やるよ」
え!? 引き受けてくれるの?? アタシから言っておいてなんだけど、なんで? 断りそうな雰囲気だったのに!
「マ? ありがとう! 泉さん。神過ぎ!! 」
「で、明日は何時に、何処に行けば良いの? 」
「17時くらいにアーケードのドンキ前。そこの地下のファミレスがバ先だから」
「男の子っぽい、格好をすれば良いんだよね」
「うん。本当ありがとう」
「先に帰ります」
慌てたように教室を出ていく、泉さんに『バイバイ』と、声を掛けた
ってか、ホント面倒くさい。
昨日もバイト帰りに気配がした。振り返る。
誰もいない。……でも、絶対いた。
なんで恋すると喜んだり悲しんだり、感情が揺れ動くんだろ? アタシって、中学の時もそんな事なかったよね??
友達が楽しそうに話す恋バナ聞いてても、理解は出来るけど共感は出来ないから、適当に合わせちゃう感じだし。
告白された事はたくさんあっても、何でアタシを好きになるのか分かんないし。
告白のセリフを聞いても、トキメイてしまうことはなかった。
アタシの顔しか知らんだろ。って、奴に限って告ってくるし。
……まぁ、いいや。
明日、上手くいけばそれで。




