不信
代表会議発足から数日。
橋前管理所では、連日のように怒号が飛び交っていた。
「減税案先送りばかりじゃねぇか!」
「先に井戸整備しないと宿区画崩壊する!」
市場代表ラグス。
宿代表ミーナ。
工房代表ガルン。
全員、街のためを考えている。
だが。
優先順位が違う。
だから衝突する。
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「玲司!」
ボルドが疲れ切った顔で橋へ上がってくる。
「市場側、今度は“代表交代要求”出してる!」
「でしょうね」
「最近本当に驚かなくなったな!?」
玲司は少しだけ苦笑した。
市場区画では、最近ラグスへの不満が増えていた。
「減税まだかよ」
「代表になった途端、管理所寄りになってねぇか?」
前世でもそうだった。
政治家は、“選ばれた瞬間”から批判対象になる。
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「……でもこれ、危険じゃない?」
エルザが静かに聞く。
「選んだ代表すぐ引きずり下ろそうとしてるわよ?」
玲司は少しだけ黙った。
民主制は不安定に見えた。
支持。
不支持。
政権批判。
だが。
逆だった。
“平和的に降ろせる”からこそ、暴力革命へ行きにくくなる。
「“倒せない権力”の方が危険なので」
その声は静かだった。
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その日の昼。
橋前広場には、新しい木板が立てられていた。
『代表不信任提案』
周囲がざわつく。
「不信任?」
「なんだそれ」
ラグス本人も顔をしかめている。
内容は単純だった。
『市場税軽減進行遅延』
『代表方針説明不足』
つまり。
“代表として信用できるか”を問うている。
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「……なんか本当に容赦ないわね」
エルザが木板を見る。
「前世でも政治はこんな感じでした」
玲司は静かに答えた。
民主制では、支持は永久ではない。
選ばれても、評価され続ける。
支持を失えば、交代する。
「最近の橋前、“選ぶ”だけじゃなく“降ろす”段階入ってるので」
エルザが少しだけ黙った。
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「……つまり、“権力が固定化しない仕組み”か」
カルムが低く呟く。
玲司は頷いた。
民主制安定条件の一つは、“政権交代可能性”だ。
もし、交代不能なら
人は最終的に、暴力で変えようとする。
「都市って、多分“合法的に不満逃がす構造”必要なので」
ボルドが遠い目をした。
「最近のお前、本当に国家運営の本質しか言わねぇな……」
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その時だった。
「管理長!」
若い職員が駆け込んでくる。
「市場区画、“公開弁明会”要求してます!」
ボルドが吹き出した。
「次から次へと制度生えてくるなこの街!?」
玲司は小さく息を吐いた。
(まぁ必要になるか)
代表制は“説明し続ける制度”だ。
選ばれて終わりではない。
支持維持が必要になる。
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夕方。
橋前広場では、ラグス本人が前へ立っていた。
「減税が遅れてるのは事実だ!」
ざわめき。
「だが今の橋前、先に水と治安整備必要だった!」
反論が飛ぶ。
「公約違反だろ!」
「でも最近の宿不足本当に危険だったぞ!」
空気が割れている。
だが。
誰も剣を抜かない。
誰も“裏切り者”と叫ばない。
皆、“支持を続けるか”を議論している。
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「……お前、本当にこれ安定すると思うか?」
ボルドが低く聞く。
批判できるから、破裂しきらない。
交代可能だから、革命になりにくい。
「多分」
玲司が静かに言う。
「民主制って、“壊れる前に修正する技術”なんだと思います」
その声は小さい。
だが静かに夜風へ溶けていった。
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「玲司殿」
ラウスが静かに広場を見る。
「……完全に変わりましたね」
玲司は少しだけ目を細めた。
前世でも、“忠誠”で動く社会と、
“支持”で動く社会は違った。
忠誠社会では、反対は裏切りになる。
だが支持社会では、反対は制度の一部になる。
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夜。
橋前広場では、不信任提案を巡る議論がまだ続いていた。
「ラグス残すべきだ!」
「いや別候補立てろ!」
怒号。
拍手。
反論。
騒がしい。
だが。
誰も街を壊そうとしていない。
皆、“制度の中で変えよう” 不信としている。




