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支持

 代表議席案が公開されて以降、橋前市場の空気はさらに熱を帯びていた。


「市場二席少なすぎるだろ!」

「いや宿区画側の声も必要だ!」


 橋前広場では、毎日のように議席配分論争が起きている。


 だが最近、人々の関心は少しずつ変わり始めていた。


「で、誰に入れる?」

「市場派ならあの商人じゃね?」


 制度ではない。


 “人”の話になり始めている。


 玲司は第二橋の欄干へ寄りかかりながら、その空気を静かに見下ろしていた。


 代表制が始まると、政治は制度論だけでは終わらない。


 最終的に人々は、“誰を信じるか”で動き始める。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司!」


 ボルドが疲れた顔で橋へ上がってくる。


「最近、候補者連中が市場回り始めた!」


「でしょうね」


「最近本当に全部予測済みみたいに言うな!?」


 玲司は少しだけ苦笑した。


 市場通りでは、候補者たちが店を回っていた。


「市場税軽減進めます!」

「宿区画の安全確保します!」


 握手。

 雑談。

 売り込み。


 完全に選挙運動だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……なんか急に“人間臭い政治”になったわね」


 エルザが静かに言う。


「前世でも大体こうなりました」


 感情。

 印象。

 信頼感。


 人は、完全合理で投票しない。


「都市って、多分“感情込みの意思決定”なので」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の昼。


 橋前広場には、大きな紙が貼り出されていた。


『候補者一覧』


『市場区画候補』

『宿区画候補』

『工房区画候補』


 人々が立ち止まり始める。


「この鍛冶屋出るのか!?」

「宿側はミーナ支持多いな」



 “街を代表する候補”として見られ始めている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……つまり、“政治家”が生まれ始めてるのか」


 カルムが低く呟く。


「かなり」


 玲司は静かに答えた。


 代表民主制では“代表される側”と

 “代表する側”が分かれていく。


 そして、


 代表側は、支持を集める技術を学び始める。


「最近の橋前、“都市運営参加”から“支持獲得競争”へ移行してる」


 ボルドが頭を抱えた。


「本当に止まらねぇなこの街……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「でもこれ、危なくない?」


 エルザが静かに聞く。


「人気だけで選ばれたりしそう」


「かなり危険です」


 玲司も否定しなかった。


 民主制は熱狂と隣り合わせだ。


 分かりやすい言葉。

 強い演説。

 敵味方構造。


 人は、冷静さより勢いで動くことがある。


「前世でも、“人気”と“能力”一致しないことかなりあったので」


 その声は静かだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その時だった。


「玲司管理長!」


 若い商人が駆け寄ってくる。


「俺、市場区画候補から“支持頼む”って言われた!」


 ボルドが吹き出した。


「もう完全に選挙じゃねぇか!」


 玲司は小さく息を吐いた。


(まぁ当然か)


 代表制とは“支持獲得競争”だ。


 政策だけではない。


 人脈。

 信頼。

 知名度。


 全部動く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……お前、誰支持するんだ?」


 ボルドが低く聞く。


 玲司は少しだけ黙った。


 今の橋前で、玲司の影響力は大きい。


 玲司が誰かを支持すれば、空気は変わる。


 だが


「……今回は中立維持します」


「珍しいな」


「代表制始めるなら、“管理側が選挙支配しない”の重要なので」


 権力者が選挙介入し始めると、制度そのものが歪んでいく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司殿」


 ラウスが静かに候補一覧を見る。


「……危険ですね」


「何がです?」


「橋前市場、“市民代表”という概念を定着させ始めています」


 玲司は少しだけ目を細めた。


 代表民主制とは、“誰かへ政治を委任する”思想だった。


 そして。


 それは統治構造そのものを変える。


「最近、周辺領地でも“橋前では平民が支持集めしている”と噂です」


 ラウスは苦笑する。


「かなり危険思想です」


 ボルドが吹き出した。


「最近毎回それ言ってんな!?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕方。


 橋前市場では、候補者たちがまだ人々へ話しかけていた。


「市場税見直します!」

「工房排水問題進めます!」


 握手する者。

 応援する者。

 疑う者。


 空気は熱い。


 だが


 誰も無関心ではない。


 皆、この街の未来へ関わろうとしている。


 玲司は第二橋の中央へ立ちながら、その光景を静かに見ていた。


 あれは、“誰へ未来を託すか”を社会全体で決める儀式なのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「でもあなた、そのうち絶対“支持率”とか気にし始めるわよね」


 隣のエルザが呆れたように言う。


 玲司は少し考えた後、小さく苦笑した。


「……胃痛増えそうなので、できれば避けたいですね」


 エルザが少し吹き出した。


「最近初めて普通の反応したわね」

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