表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/90

熱狂

 最近の橋前市場は、少し異様だった。


「今のうち買え!」

「第二市場予定地だぞ!」

「半年後には倍だ!」


 市場のあちこちで、土地取引の声が飛び交っている。


 以前の橋前市場は、物を売る場所だった。


 だが今は違う。


 “未来”そのものが売買され始めている。


 玲司は第二橋の欄干へ寄りかかりながら、その光景を静かに見下ろしていた。


(……完全に加熱し始めたな)


 再開発。

 新都市計画。

 インフラ整備。


 人は、“未来の利益”へ熱狂する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司!」


 ボルドが疲れ切った顔で走ってくる。


「最近おかしいぞ!」


「土地ですか?」


「なんで毎回分かるんだよ!」


 玲司は小さく息を吐いた。


「転売増えてるでしょう」


「増えてる!」


 ボルドが頭を抱える。


「買った翌日に値段吊り上げて売る奴まで出始めた!」


 玲司は少しだけ目を閉じた。


(投機フェーズ入ったか)


 都市期待が膨らむと、“使うため”ではなく“儲けるため”に土地が動き始める。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……でも、それだけ人気ってことじゃないの?」


 エルザが橋前市場を見る。


「半分は」


 玲司は静かに答える。


「でも熱狂って、大体壊れるので」


「壊れる?」


「期待が先行しすぎる」


 バブル期。

 再開発投機。

 新都心幻想。


 “未来は絶対伸びる”と皆が信じ始めると、市場は暴走する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の昼。


 橋前管理所では、怒鳴り声が響いていた。


「ここは俺が買った!」

「契約前だろうが!」


 土地売買を巡って、商人同士が揉めている。


 カルムが頭を抱えた。


「最近、本当に酷ぇぞ……」


 玲司は静かに市場地図を見る。


(……前世でも全く同じだったな)


 都市成長は、必ず“熱”を生む。


 そして熱狂は、理性を消す。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……つまり、“儲かると思われすぎてる”のか」


 カルムが低く呟く。


「ですね」


 玲司は頷いた。


「今の橋前、“街”じゃなく“投資対象”になり始めてる」


 人気都市ほど投機化する。


 住むためではなく、値上がり期待で人が集まる。


「だから制御必要です」


 ボルドが嫌そうな顔をした。


「最近、お前の“必要”全部重ぇんだよ……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司殿」


 ラウスが静かに市場を見下ろす。


「……危険ですね」


「かなり」


 玲司も否定しなかった。


 ラウスは静かに続ける。


「最近、“橋前へ投資するためだけ”に来る商人までいます」


 玲司は少しだけ空を見る。


 都市バブルは“期待”で膨らむ。


 そして、期待だけで膨らんだ都市は、大体どこかで崩れる。


「最近、周辺領地でも“橋前土地価格”が話題です」


 ラウスが苦笑する。


「もはや商品扱いですね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……でも、本当に崩れるの?」


 エルザが静かに聞く。


 玲司は少しだけ黙った。


 前世では、何度も都市バブルが崩壊していた。


 人は、“永遠に伸びる”と信じ始める。


 だが都市は、そんな単純じゃない。


「多分、一回どこかで止まります」


 玲司が静かに言う。


「人口も」

「物流も」

「投資も」


 永遠には増えない。


 部屋が少し静まる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……珍しいわね」


 エルザが少し笑う。


「あなた、“限界”の話するんだ」


「都市って、限界管理なので」


 玲司は苦笑した。


 都市運営とは結局、どこまで成長させ、どこで抑えるか。


 その調整だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕方。


 橋前市場では、人々が都市計画図を囲んで騒ぎ続けていた。


「ここ絶対伸びる!」

「次は南区画だ!」


 少し前まで、未来なんて存在しなかった村だ。


 だが今は違う。


 皆、“未来の橋前”へ熱狂し始めている。


 玲司は第二橋の中央へ立ちながら、その光景を静かに見ていた。


 都市バブルなんてニュースの数字だった。


 だが今は違う。


 熱狂とは、人の目の輝きそのものなのだと、少しずつ理解し始めていた。


「でもあなた、そのうち“投機規制”とか言い始めそうよね」


 隣のエルザが呆れたように言う。


 玲司は少し考えた後、小さく笑った。


「……まぁ、放置すると都市壊れるので」


 エルザが遠い目をした。


「もう完全に都市国家運営なのよ……」


 夜の橋前市場では、“まだ完成していない未来”へ向けた熱狂だけが、静かに膨れ上がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ