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人が集まる理由

 橋の前は、朝とは別の場所のようだった。


「まだあるか!」


「こっち三つ!」


「焼きたて来たぞ!」


 人がいる。


 それだけで、空気は変わる。


 橋を通る商人たちが足を止め、パンを買い、雑談し、また去っていく。


 その流れが、何度も繰り返されていた。


「……嘘だろ」


 ボルドが呆然と呟く。


「こんな売れるもんなのか」


 ミリアは必死だった。


「ちょ、ちょっと待って!」

「今焼けるから!」


 顔は汗だらけ。


 だが表情は明るい。


 昨日までの沈んだ空気とは、まるで違っていた。


 玲司は橋の脇に立ちながら、人の流れを見ていた。


(やっぱりだ)


 この場所は強い。


 特に重要なのは、“橋”だった。


 人は、狭い場所で速度を落とす。


 止まる。


 見る。


 そこに商品がある。


 だから売れる。


 構造としては、極めて単純だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おい玲司!」


 ミリアが叫ぶ。


「銅貨ってどこ置けばいい!?」


「箱分けして」


「箱?」


「売上と釣り銭分けないと後で混乱する」


「えぇ!?」


 玲司は苦笑した。


 前世では当たり前だった。


 だが、この世界では違う。


 そもそも、小規模商売の管理概念がかなり弱い。


「あと列作って」


「列?」


「並ばせるんです」


「なんで?」


「混雑してるように見えるから」


 ミリアがぽかんとする。


 だが玲司は真顔だった。


 実際、人は“人気がある場所”へ集まる。


 これは前世でも同じ。


 飲食店でも、イベントでも、行列は宣伝になる。


「いいからやって」


「う、うん!」


 ミリアが慌てて動き始める。


 すると。


「あれ、並んでるぞ」


「なんか人気なのか?」


 さらに人が増えた。


 ボルドが玲司を見る。


「お前……」

「今わざとやったのか?」


「多少は」


「怖ぇよ……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 昼過ぎ。


 パンは完売した。


「全部……売れた……」


 ミリアが呆然としている。


 机の上には、銅貨が積まれていた。


「こんなの初めて……」


 玲司は銅貨を見ながら考える。


 売れた理由は単純だ。


 味もある。


 匂いもある。


 だが、一番大きいのは立地。


 つまり。


(商品じゃなく場所が勝った)


 前世でもよくあった。


 普通の商品でも、立地だけで売上が変わる。


 逆に、どれだけ良い商品でも、場所が悪いと死ぬ。


「なぁ」


 ボルドが低い声で言う。


「これ、毎日やれるか?」


「できます」


 玲司は即答した。


「ただし、パンだけだと限界が来る」


「限界?」


「飽きます」


「……」


「だから別の店も必要です」


 ボルドが頭を抱えた。


「お前、もう次考えてんのか……」


 玲司は橋を見る。


 重要なのは、“店”ではない。


 “空間”だ。


 人が集まり、

 滞留し、

 会話する場所。


 それを作る。


 そうすると、自然に商売が増える。


 都市とは、結局それの巨大版だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その時だった。


「随分面白いことをしているのね」


 女の声。


 玲司たちが振り返る。


 馬車だった。


 黒い外装。


 紋章付き。


 明らかに高級。


 そして。


 そこから、一人の女性が降りてくる。


 長い黒髪。


 整った顔立ち。


 深緑の外套。


 年齢は二十前後だろうか。


 ただ、周囲の空気が変わった。


 村人たちがざわつく。


「お、おい……」


「なんで領主様のところの……」


 玲司は目を細める。


(領主関係者か)


 女は橋の前を見回した。


 並ぶ人。


 笑い声。


 売り切れたパン。


 そして玲司を見る。


「この村で、こんな光景を見るのは久しぶりだわ」


 その目は、明らかに玲司を観察していた。


「あなたがやったの?」


 玲司は少し考え、静かに答えた。


「場所を変えただけです」


 女は一瞬、驚いたように目を細めた。


「……面白い人ね」


 玲司は嫌な予感がした。


 前世でもそうだった。


 成果を出すと、必ず“上”が来る。


 そして大体、面倒事になる。

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