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定住者

 第二橋開通から三日後。


 ハルグ村の空気は、以前と明らかに変わっていた。


「おい、あっち空いてるぞ!」

「旧市場側、最近店増えたな」

「第二橋の方が歩きやすい!」


 人の流れが分散している。


 以前のような橋前集中ではない。新橋を経由して、旧市場側へ自然に人が流れ始めていた。


 玲司は新橋の中央へ立ちながら、その様子を静かに見ていた。


(……かなり変わったな)


 前世でも、導線一本で街の重心が変わることは多かった。


 だが今は、その変化を目の前で見ている。


 それが少し不思議だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司!」


 ボルドが慌てた様子で橋を渡ってくる。


「問題発生だ!」


「今度は何です?」


「家足りねぇ!」


 玲司は少し黙った。


 そして小さく息を吐く。


(やっぱり来たか)


 橋前市場ができた時点で、ある程度予想はしていた。


「最近、村へ住み始める奴増えてるんだよ!」


「商人ですか?」


「半分は」

「あと職人」


 玲司は少し目を細めた。


 物流が増えると、必ず周辺産業が集まり始める。


 前世でも同じだった。


 物流拠点には、


 倉庫業者。

 修理職人。

 飲食。

 宿泊。


 そういう機能が自然発生する。


「空き家、ほぼ埋まりました」


「……早いですね」


「お前が人呼びすぎなんだよ!」


 ボルドが頭を抱えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の昼。


 旧市場側では、空き家改装が急増していた。


「ここ宿にするぞ!」

「二階貸し部屋いけるか?」

「壁直せ!」


 以前は放置されていた建物だ。


 だが今は違う。


 人が増えたことで、“建物そのもの”へ価値が生まれ始めている。


「……完全に不動産フェーズですね」


 玲司が小さく呟く。


「フドウサン?」


 隣のエルザが首を傾げる。


「土地と建物です」


「最近、本当に知らない言葉増えたわね」


 玲司は苦笑した。


 前世では、ここからさらに地価が動き始める。


 住宅需要。

 賃貸需要。

 土地投機。


 都市化の第二段階だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「でも変じゃない?」


 エルザが周囲を見る。


「最近、“泊まる”じゃなく“住む”人が増えてる」


「それが重要なんです」


 玲司は旧市場通りを見る。


「人って、通うより住んだ方が金落とすので」


「……」


「定住人口が増えると、街は安定します」


 前世でも同じだった。


 観光だけの街は弱い。

 通勤だけの街も弱い。


 強い都市は、“住む人”がいる。


「だから次は住宅整備ですね」


 エルザが呆れたように笑う。


「あなた、本当に次から次へ問題見つけるわね」


「都市は問題製造機なので」


「嫌な言い方」


「事実です」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その時だった。


「玲司殿」


 ラウスだった。


 最近かなり頻繁に来ている。


「また視察ですか?」


「半分は」


 ラウスは旧市場側を見ながら、小さく息を吐いた。


「……本当に人が住み始めていますね」


「始まりました」


「普通、村は市場ができてもここまで急拡大しません」


「導線が強いので」


 玲司は第二橋を見る。


「物流、宿泊、定住」


「今、全部繋がり始めてます」


 ラウスは少し黙った。


 その顔には、明確な警戒が浮かんでいる。


「正直、周辺領かなり焦ってますよ」


「でしょうね」


「最近、“ハルグ村へ移る商人”まで出始めました」


 ボルドが目を丸くした。


「そこまでか!?」


「物流が強い場所へ、人は集まります」


 玲司は静かに答える。


 前世でもそうだった。


 都市は、人を吸い寄せる。


 だから競争になる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕方。


 玲司は新橋から村全体を見下ろしていた。


 橋前市場。

 旧市場通り。

 増えた灯り。

 改装中の建物。


 ほんの一ヶ月前とは、もう別世界だ。


「……本当に街になってきたな」


 思わず呟く。


 前世では、都市開発はもっと巨大だった。


 だが本質は同じだ。


 人が流れ、

 定着し、

 空間へ価値が生まれる。


 そうやって都市は形作られる。


「でもまだ足りない顔してるわよ」


 隣へ来たエルザが笑う。


 玲司は少し考える。


 そして静かに旧市場側を見る。


「……次は、多分住宅地区ですね」


 エルザが呆れたように笑った。


「本当に終わらないのね」


 玲司も少しだけ笑う。


 都市は、一度成長を始めると止まらない。


 その感覚を、今の玲司は誰より理解し始めていた。

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