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街の骨格

 第二橋工事は、予想以上の速度で進んでいた。


「杭固定終わりました!」

「板運べ!」

「縄張り直せ!」


 川下では、朝から怒鳴り声が飛び交っている。


 事故以降、工事の空気は少し変わった。


 確認。

 役割分担。

 監視。


 以前より明らかに、現場全体が慎重になっている。


「……ちゃんと回り始めましたね」


 玲司は橋脚を見ながら小さく呟く。


「最近のお前、工事現場見る時だけ妙に安心した顔するよな」


 ボルドが苦笑した。


「多分、“形になる”のが好きなんですよ」


 前世では、計画だけで終わることも多かった。


 だが今は違う。


 木材が積まれ、

 橋脚が立ち、

 実際に街の形が変わっていく。


 その感覚が、玲司には少し新鮮だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司様!」


 ミリアが走ってくる。


「旧市場側、人かなり増えてます!」


「もうですか」


 玲司は少し目を細めた。


 第二橋はまだ未完成だ。だが工事が始まっただけで、人の動きは既に変わり始めている。


「最近、“橋できたら店出したい”って人増えてるんですよ!」


「まぁ予想通りですね」


 前世でもそうだった。


 新駅予定地。

 道路拡張予定地。

 再開発予定地。


 都市は、“未来の導線”へ先回りして人が動く。


「橋一本でそんな変わるもんなのか?」


 ボルドが不思議そうに聞く。


「かなり変わります」


 玲司は即答する。


「橋って、街の骨格なので」


「ホネ?」


「都市構造ですね」


 道と橋で、人流は決まる。


 つまり橋を増やすというのは、“街の形そのもの”を変える行為だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の昼。


 旧市場通りでは、新しい屋台準備が始まっていた。


「ここ焼き菓子屋入るらしいぞ」

「宿も増築中だってよ」

「最近、人増えすぎだろ……」


 以前は静かだった通りだ。


 だが今は違う。


 橋前市場の賑わいを受け止める“第二エリア”になり始めている。


 玲司は通りを歩きながら、静かに周囲を見回した。


(……少し都市っぽくなってきたな)


 橋前は物流中心。

 旧市場は滞在中心。


 役割分担も少しずつ生まれている。


 前世の都市構造に、かなり近づき始めていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あなた、本当に先を見てるのね」


 エルザが隣へ並ぶ。


「何がです?」


「第二橋作る前から、旧市場側の整備始めてたでしょ」


 玲司は少しだけ笑った。


「橋だけ作っても意味ないので」


「……?」


「橋って、“繋ぐ先”が重要なんです」


 前世でも同じだった。


 新駅を作っても、周辺整備が弱いと失敗する。

 道路だけ作っても、人は定着しない。


 都市は、導線の先まで設計して初めて機能する。


「だから旧市場側を先に整えた」


 エルザは少し感心したように周囲を見る。


「最近、本当に空気変わったわね」


 旧市場通りには、人の声が増えていた。


 食事の匂い。

 笑い声。

 荷車の音。


 ほんの少し前まで、空き店舗ばかりだった場所とは思えない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司」


 その時、カルムが通りの奥から歩いてくる。


「領主様が呼んでる」


「何かありました?」


「周辺領地から正式な使者が来るらしい」


 玲司は少し目を細めた。


 やはり来たか、と思う。


 最近のハルグ村は、もう小村の範囲を超えている。


 物流。

 税収。

 人口流入。


 周囲が無視できる段階ではなくなり始めていた。


「……面倒そうですね」


「かなりな」


 カルムも苦笑する。


 以前の彼なら、こんな変化自体想像していなかっただろう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕方。


 玲司は未完成の第二橋へ立っていた。


 まだ板は途中だ。

 隙間も多い。


 だが向こう岸へ繋がっている。


 橋前市場。

 旧市場。

 新しい導線。


 少しずつ、“街の骨格”が見え始めていた。


「……ここまで来るとはな」


 思わず呟く。


 前世では、都市計画はもっと巨大だった。


 だが規模が違っても、本質は同じだ。


 橋一本で、人の流れが変わる。

 流れが変われば、街の重心が変わる。


 都市とは、その積み重ねだった。


「でもあなた、まだ止まる気ないでしょ」


 いつの間にか隣へ来ていたエルザが笑う。


 玲司は少しだけ考える。


 そして小さく息を吐いた。


「……多分、まだ全然足りないですね」


 その視線の先では、夕焼けの中、新しい橋が少しずつ形になり始めていた。

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