表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/91

人材不足

 橋前市場は、今日も朝から騒がしかった。


「使用料徴収終わりました!」

「宿泊区画、もう満室です!」

「夜警交代まだ来てません!」


 以前なら、こんな声が飛び交うことはなかった。


 だが今は違う。


 人が増え、金が動き、街が広がったことで、“運営”そのものが仕事になり始めている。


「……完全に足りねぇな」


 ボルドが疲れた顔で呟く。


「何がです?」


「全部だよ」


 玲司も否定しなかった。


 清掃。

 徴収。

 誘導。

 宿管理。


 どれも人手不足だった。


 しかも問題なのは、ただ人数を増やせばいいわけではないことだ。


(管理できる人間が少ない)


 前世でも同じだった。


 都市運営は、現場判断できる人材が極端に不足する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司様!」


 若者の一人が駆け寄ってくる。


「橋前使用料、帳簿合いません!」


「どこズレてます?」


「昨日分の銅貨が足りなくて……」


 玲司は帳簿を見ながら小さく息を吐いた。


(そろそろ限界か)


 今の管理方法は、かなり原始的だ。


 口頭確認。

 手書き記録。

 現金管理。


 人が少ないうちは回る。だが規模が大きくなると、必ず破綻する。


「記録担当分けましょう」


「記録?」


「徴収担当と別にします」


 前世でも同じだった。


 会計と現場を一緒にすると、大体崩れる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……お前、本当に何者なんだ?」


 低い声。


 振り返るとカルムだった。


 最近は露骨に反発することは減ったが、その代わり玲司を見る目がかなり変わっている。


「急にどうしました?」


「普通の流民が、こんな管理知識持ってるわけないだろ」


 玲司は少し黙った。


 ボルドも気まずそうに視線を逸らす。


 最近、同じような空気は増えていた。


 橋前市場の運営。

 税の循環。

 導線設計。

 人流整理。


 この世界の一般知識ではない。


「……昔、変わった仕事してたので」


「街を見る仕事、だったか」


「そんな感じです」


 カルムはしばらく玲司を見ていたが、やがて苦笑した。


「最近、領主様までお前に相談するようになってる」


「まぁ最近よく呼ばれますね」


「普通じゃないぞ、それ」


 玲司は少しだけ空を見上げた。


 前世でも、似たようなことはあった。


 気づけば、“現場判断役”ばかり押し付けられる。


 ただ、今は少し違う。


 少なくとも、この街は実際に変わっている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の午後、領主屋敷では緊張感のある空気が流れていた。


「……増えているな」


 グランツが報告書を見ながら低く呟く。


「はい」


 エルザが頷く。


「周辺領地からの視察申請です」


 机の上には、複数の封書が並んでいた。


『橋前市場視察願い』

『物流運営に関する意見交換希望』

『宿場運営確認』


 グランツが深く息を吐く。


「たった数週間で、ここまで注目されるとはな……」


「でも問題もあります」


「人材か」


「はい」


 エルザは静かに頷いた。


 今のハルグ村は、発展速度に対して管理側が弱すぎる。


 特に“考えられる人間”が不足している。


「玲司一人へ負荷が集中し始めています」


 グランツは少し黙る。


「……危険だな」


 都市は、一人で運営できる規模を超えると崩壊する。


 それは彼らも最近理解し始めていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕方。


 玲司は橋前の高台から村を見下ろしていた。


 灯り。

 荷車。

 人の流れ。


 少し前まで静まり返っていた村とは、もう別物だ。


「……でも、そろそろ限界ですね」


 思わず呟く。


「限界?」


 隣へ来たエルザが首を傾げる。


「俺一人だと」


 玲司は静かに橋前を見る。


 今までは、“問題が見える”だけでどうにかなった。


 だが街が大きくなると、それだけでは足りない。


 管理する人間。

 判断する人間。

 現場を回す人間。


 都市は、組織化しないと維持できない。


「……人を育てる必要がありますね」


 エルザが少し笑う。


「教師みたいなこと言うのね」


「前世でも、多分同じ問題あったので」


「前世?」


 玲司が一瞬固まる。


 しまった、と思った時には遅かった。


 エルザがじっとこちらを見ている。


「……今、変なこと言わなかった?」


 玲司は少しだけ視線を逸らした。


「気のせいです」


 エルザは疑わしそうな顔をしたが、それ以上は追及しなかった。


 玲司は小さく息を吐く。


 最近、気が緩み始めている。


 それだけ今の生活へ慣れてきた、ということなのかもしれなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白い。 ここまでの話だけど、でも、主人公の収入源というか生活基盤(衣食住)と、指示出ししている権威付け(役職公布とか)がみえないんだが、どうなっているんだ。結果で黙らすの前に、パッとでの流民が領主飛…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ