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「最近、ハルグ村が妙に賑わってるらしい」


 そんな噂が、周辺街道で広がり始めていた。


「橋前市場ってのができたとか」

「休憩しやすいらしいぞ」

「飯も悪くないって聞いた」


 商人たちの会話は速い。


 前世でもそうだった。物流関係者の情報共有速度は異常に早い。“使いやすい場所”の情報は、自然と広がっていく。


 そして今、その流れは確実にハルグ村へ向き始めていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……増えたな」


 橋前市場を見ながら、ボルドが呟く。


 以前より明らかに隊商が多い。見たことのない商会旗も増え始めている。


「北側だけじゃなく、西側の商人まで来てる」


「噂が回ったんでしょうね」


 玲司は静かに橋前を見渡した。


 重要なのは、“便利”だけではない。


 “話題になっている”ことも、人を呼ぶ。


 前世でも同じだった。


 人気エリアには、さらに人が集まる。

 人が集まるから、さらに話題になる。


 都市には、そういう自己増殖的な側面がある。


「でも不思議だよな」


 ボルドが言う。


「少し前まで、誰も寄りつかなかった村だぞ?」


 玲司は橋前を見る。


 人がいる。

 店がある。

 活気がある。


 それだけで、“行ってみよう”になる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司様!」


 ミリアが嬉しそうに走ってくる。


「見てください!」


 差し出されたのは、小さな木札だった。


『北方街道おすすめ休憩地 ハルグ村』


 雑な字だが、確かにそう書いてある。


「商人さんたちが勝手に作ってました!」


 玲司は少し目を見開いた。


「……なるほど」


 前世でも似たようなことはあった。


 人気店の口コミ。

 SNS。

 レビュー。


 都市の評価は、運営側だけでは作れない。利用者側が語り始めた時、本当に強くなる。


「なんか嬉しいですね!」


 ミリアが笑う。


 玲司は橋前を見る。


 今、この村は“通過地点”から、“目的地候補”へ変わり始めている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「だが、問題もある」


 低い声。


 振り返るとカルムだった。


 最近では、以前ほど露骨に反発しなくなっている。むしろ、かなり真面目な顔で橋前を見ることが増えた。


「何かありました?」


「宿が足りん」


 玲司は少し考え、静かに頷いた。


 予想通りだった。


 人が増えれば、次に不足するのは滞在機能だ。


「最近、橋前で寝る商人まで出始めてる」


「治安悪化の原因になりますね」


「……分かるのか」


「大体は」


 前世でも、宿泊需要を読み違えたエリアはかなり荒れた。


 滞在場所不足は、都市問題へ直結する。


「あと水場も足りない」


「でしょうね」


「お前、本当に何でも予想するな……」


 玲司は少し苦笑した。


 別に未来予知ではない。


 人が増えた時、どこが詰まるかを考えているだけだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕方、玲司は橋の上から村全体を見ていた。


 橋前市場。

 旧市場通り。

 増え始めた露店。

 行き交う荷車。


 ほんの数週間前まで、静まり返っていた村とは思えない。


「……変わったわね」


 隣へ来たエルザが小さく呟く。


「まだ途中ですよ」


「十分凄いと思うけど?」


 玲司は少し黙った。


 前世では、“都市ブランド”という言葉をよく聞いた。


 人が集まる街。

 人気のエリア。

 行ってみたい場所。


 結局、都市は印象で選ばれる部分が大きい。


「今のハルグ村は、“寄りたい場所”になり始めてます」


「それがそんなに重要なの?」


「かなり」


 玲司は橋前を見る。


 便利なだけの街は、いくらでもある。

 だが、“行きたい”と思われる街は少ない。


 そして今、この村は少しずつそちらへ近づき始めていた。

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