薔薇色と条件(1)
ゲルインキのボールペンを滑らせている。
ー背景、お母様。
いかがお過ごしでしょうか。
東京は煌びやかな建物が建ち、見るものすべてがキラキラしています。
イチジクは元気ですか。今日も元気に吠えていますか?
私は元気です。
思い描いたものとちょっと違うけれど、毎日和服を着ているお友達ができました。
(男の子だけど、これはパパには内緒で)
…ここまで手紙を書いて、馬鹿らしくなって私はそれをクシャクシャに丸めてゴミ箱へ捨てた。
のどかな日曜日。
大学もなく、私はボロアパートで音楽を聴きながら暇を持て余していた。ジャパニーズ・ロックンロールに限る。
突如、スマホの音楽再生が止まり、着信音が鳴る。
ー〝雨宮翔太郎〟ー
ショウタロウからの着信だ。
一度無視すると、また3分後に電話が来る。
電話は苦手だ。ましてや、男の子!
いや、何を意識してるの私!
あれは大学生活のちょっとした修正テープみたいな存在!
何か出ないのも癪に触るので、私はついに彼の電話に出ることにした。
「何故出ない」と第一声。何故に上から!
「電話が苦手なの」
「俺がお前に電話すると決めたのだ、出てもらう」
「ええ…」
何なんこいつ。
というかショウタロウはちょっとどころか、風変わりだ。
自分が決めた事は徹底する、偏屈でもあり、我が道をゆく者、ワレモノなのである。
とはいえ、出会った初日はウメサイダーを飲んでおり、簡単に信念を捻じ曲げる事もある。
「どうせ、暇をしていたのだろう」
「その台詞、そのまま返すわ」
「薔薇色のキャンパスライフの条件を知っているか?」
「バラ色のキャンパスライフの条件?」
「聞きたいか?」
「早く喋りなよ」
「4つある」
「よっつ?」少ないのか、多いのか、私には分からない。
「ひとつ。学業。これがなければ、成り立たない」
「続けて」
「ふたつ。サークル活動」
「またその話?」
ちなみに、ボクシングサークルからのスカウトは断った私である。
「そして、みっつめ。アルバイトだ!」
「あ、アルバイト!?」
「お前はどうだ。どうせ暇をしていたのだろう。時が過ぎても金はもらえない。ならばどうだ?アルバイトをするのが学生の本分だろう?」
「学生の本分は学業です」
「俺は決めたのだ。お前とアルバイトをすると」
「うわキモ。切るよ」
言葉を待たず、私は電話を切る。
嫌な奴、嫌な奴、嫌な奴!
何となく冷蔵庫の扉を強めに閉じる私。
メッセージ通知がたくさん届く。
ショウタロウから、求人情報が沢山送られてきた。
何なのよこいつ!
「あのね。私の実家は太いのよ。バイトなんてしなくても生活できるの」
「家の面積は関係ない」
くだらないメッセージのやり取りに呆れる私。
「そうだ、4つ目の条件を書き忘れていたな」
「なんなのよ」
怒りを込めながらメッセージを返信する。
「恋愛だ」
れれれれ、恋愛!?
【つづく】




