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前世は大聖女でした。今世は普通の令嬢として、泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!  作者:
本編

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幸せな聖女

「どうだ、新婚生活は」


「はい、陛下。おかげさまで仲良く過ごしております」


 新婚旅行の後、私とエドガーは結婚の挨拶をするためアンドリューに謁見していた。と言っても、私たちはかしこまった仲ではないからと、人払いをした客間にてお茶を飲みながらの挨拶となった。


「二週間アイリスに会えないのをキャスリンが寂しがるかと心配していたのだが、コートウェル公爵夫人に紹介してもらった中に気の合う女の子がいたようでな。その子と遊ぶのが楽しくなったようだ。これもアイリスのおかげだな」


「とんでもありませんわ、陛下。キャスリン様ならきっかけさえあればどなたとでも仲良くなれますもの。私はそのきっかけを作ったにすぎません」


 アンドリューは頷き、お菓子を口に入れた。


「この南部の菓子は美味いな。果物が入っているのか」


「はい、我が領地の名産である柑橘のジャムが練り込まれています。爽やかな酸味が特徴です」


「茶会にちょうどよい。王宮に取り寄せてみることにしよう」


「ありがとうございます、陛下」


 私とエドガーは嬉しくて目を合わせて微笑んだ。新婚旅行でこのお菓子に出会い、王都で受けそうだと思ってたくさん買って帰ったのだ。これが売れれば、領地の収入源の一つになる。


「ところで、魔獣がいなくなったことで周辺各国も落ち着きを取り戻したようだ。だが、これまでは魔獣という共通の敵がいたことで互いに侵略などしてこなかった。しかし今後は、人間同士・国同士の諍いが起こるかもしれん。そのために外交も必要であるが、軍事力も保っておく必要がある。騎士団の力も重要になってくる。頼んだぞ、エドガー」


「はい、陛下。ますます精進してまいります」


「もしも戦争になったら、癒しの聖女としてキャスリンを……もちろん、変装して身分を偽りはするが、前線に出さねばならなくなる。それだけは避けたいのだ。だから戦いにならないよう、外交努力が必要だな」


 私はエドガーと、今度は気まずい感じで見つめ合った。エドガーにも、聖女の力が失われていないことは告白してある。


「まあ、キャスリンは今、十歳だ。あと五、六年で誰かと結婚すれば聖女の力は失うのだろう? それまでの我慢だな」


 私はおずおずとアンドリューに切り出した。


「あのう、陛下。そのことなんですが」


「うん? なんだ、アイリス」


「実は私の聖女の力、まだ失われていないんです……」


「なに?」


 アンドリューは驚いてエドガーの顔を見、それから私の顔も見た。


「まさか二人はまだ……」


「いえいえいえ、そんなことは!」


 私は焦って手を振る。エドガーが代わりに答えてくれた。


「大丈夫です、陛下。私たちはちゃんと夫婦になっています」


「そ、そうか。では夫婦になってもまだ、聖女の力が残っているということか」


「はい、そうなんです」


 私は小さくため息をついた。


「妖精たちにも聞いてみたんです。そしたら、聖女の力がなぜ無くなるのかはわからないんだそうです。身体のきっかけや心のきっかけ、時間の経過など人によって違うみたいで。私の場合は力が大きすぎて、ちょっとやそっとじゃ無くならないんじゃないかと」


「ということは、キャスリンも同じようになる可能性は高いな」


「はい。私はエドガーの命を取り戻した時に力を半分くらい失ったんですが、時間が経ってまた最大値に戻ってるらしいです」


「一生聖女かもしれないのか」


「はい……でも閉じ込めたりしないですよね?」


 恐る恐る尋ねてみる。アンドリューは意地悪くニヤリと笑ったりせずに、優しく微笑んだ。


「もちろんだ。もし聖女の力が必要な時は、またローブと仮面で変装して、力を貸してもらおう」


 私はホッと胸を撫で下ろした。アンドリューが国王で本当に良かった。私はこのまま、聖女と公表することなくアイリス・ラルクールとして生きていけそうだ。





 その後、アンドリューの治世でロラン王国が戦禍に巻き込まれることは無かった。彼は周りの国と上手く付き合い、国内を安定させることに力を注いだのである。


 アンドリューは五十歳でこの世を去った。ロラン王国を引き継いだのは彼の息子ダニエルだ。ダニエルもまた父のように良い統治を行い、ロラン王国は発展していった。


 キャスリンは十八歳でコートウェル公爵家に嫁いだ。王宮で開いたお茶会で、とある伯爵子息と恋仲になり、その子息をコートウェル公爵家が養子に迎えたのである。キャスリンは二十代で聖女の力を失ったが、子宝に恵まれた幸せな生涯を五十五歳で終えた。



 私とエドガーは七十歳を過ぎていまだに仲良く過ごしている。私の聖女の力も健在で、そのおかげで私は五十歳くらいに見えているし、エドガーも同じくらい若々しい。どうやら、私のキスには若返りの効果があるらしい。


 それでもいつか天命は訪れる。できれば一日でも長くエドガーに生きてもらいたい。「ありがとう」って微笑んでお別れを言いたいのだ。そう言うとエドガーは、「私のほうが先に逝きたい。アイリスの死なんて悲しすぎて耐えられない」と涙を浮かべてしまうけれど。


 前世と同じくらい今世でも長く生きた。もう、思い残すことはない。そうね、できれば来世でもエドガーに巡り会えたらいいな。記憶が無くてもきっと、エドガーに会えばわかると思っている。


 エドガー、愛してるわ。あなたに出会えて結ばれて、本当に幸せだった。


 『ありがとう……』




(完)


このお話はここで完結です。最後までお読みいただきありがとうございました!


番外編もいくつか置いておきますので、よかったらそちらもご覧下さい♪

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