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前世は大聖女でした。今世は普通の令嬢として、泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!  作者:
本編

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54/63

そして晴れやかな

 その日はよく晴れた爽やかな空だった。どこまでも広がる、抜けるような青い空。私たちの結婚を天も祝福してくれている、と自惚れてしまうほど。


 家族との最後の挨拶を済ませ、先に一人でラルクール家に向かう。式は正午からだ。


 婚約時代から何度も通ったラルクール家が、今日から私の家になる。門をくぐる時も不思議な気分だった。


「おはよう、アイリス。ついにこの日が来たね」


 馬車から降りるとエドガーが待っていた。手を取って優しくエスコートしてくれる。


「おはよう、エドガー。緊張してあまり眠れなかったわ」


「私もだよ。アイリスを我が家に迎えるのが嬉しすぎてなかなか寝付けなかった」


 そんなことを話しながら玄関ホールへ向かうと、ラルクール侯爵夫妻が待っていた。お二人はとても優しくて気さくな方で、私にとってはすでに第二のお父様お母様だ。挨拶を済ませると夫人が別棟に案内してくれた。


「アイリスちゃん、あなたたちの住居はこちらになるわ。本邸と別になっていて、こじんまりしているけれどとても暮らしやすいのよ。先代がいらっしゃった頃は、私たちもここで暮らしていたの」


「まあ。ではここは、エドガーが育った場所なんですね」


「そうなの。エドガーの子供部屋もそのまま残してあるわ。あなたたちの子供もそこで過ごせるようにね」


 私はその別棟が一目で気に入った。豪華で重厚な本邸はさすが侯爵家といった歴史と風格が滲み出ているが、こちらはやや簡素でモダンな、いかにも若夫婦の好む作りになっている。余計な飾りも一切なく、だからこそ好きに装飾出来そうだ。


「それから、この人たちが別棟専用の使用人」


 別棟の玄関ホールにズラリと並んだ使用人たち。厨房も洗濯場も全て別棟内に備わっているようで、使用人もそれなりの数がいた。その中に二人、他とは違う制服を着た男女がいる。


「こちらのショーンはエドガー付き、そしてこのプリシラがアイリスちゃん付きの侍女よ。若く見えるけどもう十年も勤めているベテランなの。何でも聞くといいわ」


「アイリス様、プリシラでございます。どうぞよろしくお願いいたします」


「こちらこそ、よろしくね、プリシラ。いろいろと教えてちょうだいね」


 見た目も歳の頃もメラニーに似ている。なんだか嬉しくてホッとした。


「さあさ、それじゃあアイリスちゃんの支度を始めましょ。女性は時間がかかりますからね。エドガー、あなたはお式の時間までアイリスちゃんに会いに来てはダメよ。出来上がりはその時のお楽しみ」


 エドガーは苦笑して頭を掻いた。


「母上のほうがはしゃいでいますね」


「そりゃあそうよ。女の子にドレスを着せるのが初めてなんだもの」


 スッと私の手を取ってエドガーは甲にキスを落とした。


「じゃあアイリス、仕上がりを楽しみに待っているね」


 上目遣いで微笑むエドガーのイケメン振りにドキドキしながら、私は夫人と支度部屋に向かった。


 支度部屋にはトルソーに着せたウエディングドレスが飾られていた。夫人とたくさん打ち合わせして決めたデザインだ。シンプルなビスチェドレスにリバーレースを重ねたドレス。リバーレースで作られたフリルスタンドカラーと七分丈の袖で露出は抑えられ、かつ胸元の透け感が美しく華やかさを感じさせる。スカートの膨らみは少なく、トレーンも短めにして動きやすくした。もちろん、トレーンもリバーレース重ねだ。


「素敵……」


 うっとりと見つめる私に夫人は鼻高々といった顔で説明する。


「品のある大人の美しさを魅せるには、このレースはうってつけでしょう。最高の職人に作らせたのよ。ちなみに、中のビスチェドレスは私が着たものをサイズ直ししたの」


「まあ! そんな大事なものを私に?」


 夫人は私の髪を撫でながら微笑んだ。


「エドガーのお嫁さんは私たちの娘ですからね。次の世代に繋げられたことが嬉しいのよ」


 私は本当に幸せ者だ。愛するエドガーと結婚できて、ご両親にも大事にしていただいて。涙が出そうだけど、目が腫れてしまうからグッと我慢した。

 それから、着付係や髪結係、化粧係などに囲まれて支度が始まった。






「……さあ、出来ましたよ、アイリス様」


 プリシラの声に、目を開けた。鏡の中には清楚に髪を結い上げ、ラルクール家に伝わるティアラを頭上に煌めかせた私がいた。


「お肌が綺麗ですから少ぅしお粉をはたいただけですわ。頬も上気して桜色で、とてもお美しい花嫁様に仕上がりました」


「アイリスちゃん、本当に素敵よ……」


 夫人がハンカチを握りしめて涙を堪えている。


「お義母(かあ)様ありがとうございます。至らぬ娘ですが、末永くよろしくお願いいたします」


 そう告げると夫人は私をそっとハグした。そしてドアがノックされ、ラルクール侯爵とエドガーが部屋に入って来た。


「おお、これはこれは。とても美しい花嫁だ。私も鼻が高いぞ」


「ありがとうございます、お義父(とう)様」


 紺色の上着に白のパンツ、金色の飾緒という騎士の正装をしたエドガーはとても凛々しく美しい。脚が長いので膝までの黒いブーツが実に良く映える。私のほうこそ、こんな美しい花婿に鼻が高い。


 だがエドガーはそれ以上に感じ入った面持ちで私に近付いて、そっと手を取り見つめてきた。


「アイリス、本当に……綺麗だ。息が止まりそうだよ」


「やめて、エドガー。もう息を止めないでね……」


 褒められて嬉しいのだけれど、あの戦いのことを思い出して私は青くなった。


「ごめんごめん、アイリス。あまりに美しいからつい。安心して。私は二度と君を泣かせたりしないから」


「悲しい涙はもうごめんよ。でも嬉しい涙なら歓迎するわ」


 私たちは見つめ合っていい雰囲気になった。でもキスはまだ、お預け。


「さあ、両家の親族は大広間に揃っているぞ。主役の登場を今か今かと待っている。ラルクール家の新しい家族をお披露目しに行こう」


 侯爵の掛け声でエドガーは私の手を取った。これから親族の前で結婚誓約書にサインをし、誓いの言葉を述べ指輪を交換すると私たちは正式な夫婦となる。その後は、披露パーティーだ。


「アイリス。ようやく私たちは夫婦になれるね。さあ、行こうか」


「ええ、エドガー。この日を待ち侘びていたわ。行きましょう、皆さんのもとへ」


 私たちは手を取り合って大広間へと向かった。


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