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前世は大聖女でした。今世は普通の令嬢として、泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!  作者:
本編

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結婚式前夜

「ねえメラニー。いよいよ明日になったわね」


「そうですねえ。こうやってアイリス様のお(ぐし)の手入れをするのも最後かと思うと、とても寂しいですわ」


 明日の結婚式は内輪とはいえ両家の親族全てを招待するので、かなりの人数が集まる。主役の一人である私の身支度はラルクール家ですることになっているから、メラニーとは明日の朝でお別れなのだ。


「私ね、この先もメラニー以上に仲良くなれる人なんていないわ」


「アイリス様……」


 一瞬、涙ぐんだようにも見えたメラニーだがすぐにいつもの調子に戻った。


「そうですよね、アイリス様の被っている大きな猫、私の前でしか下ろしたことないですものね。これからは猫、下ろせなくて肩が凝って仕方がないんじゃないですか」


 私はグッと言葉に詰まる。今後はラルクール家のメイドに世話をしてもらうわけで、こんな気安い会話も出来ない。ずっと猫を被るのも大変そうだ。


 メラニーは鏡越しににこっと笑うと私の両肩をポンポンと叩いた。


「大丈夫ですよ、アイリス様。猫被るより素顔を出した方が魅力的でメイドにも好かれますからね。あちらでも、いつものアイリス様でいて下さい」


「そ……そう? じゃあ気楽にいこうかな」


 そうは言っても、メラニーには本当にいろんな相談をしてきたのだ。例えばーー


「あ、メラニー、ステラからお手紙が来たのよ」


「あら、アイリス様が質問を書いて送った返事ですか?」


「そうそう」


 聖女ステラがテオドアと所帯を持ってからそろそろ四ヶ月。聖女の力がいつ無くなったのか気になる私は、手紙でその疑問をぶつけたのだ。


「キスで力が消えなかったから、その先ではどうかって質問でしたよねえ。伯爵令嬢としてはずいぶんはしたないというか不躾なというか……」


「しょうがないじゃない、他に聞ける人もいないんだし。キャスリンのためにも私が聞いておかなくちゃ」


 メラニーは肩をすくめてハイハイ、と言う。


「で、答えはどうだったんですか?」


「あのね。ステラたちは王宮を出て自分たちの土地へ移ったでしょう? その道中の宿屋で……ええと、まあ、キスから最後までいたした、と」


「ふむふむ。その日のうちに全てですか。まあ年齢を考えたら、そうなるでしょうね」


「そ、そうなの⁈ 手を繋ぐとかハグとかそんなとこから慣れていくものじゃないの?」


「あの二人の歳を考えて下さいよ、アイリス様。そんな悠長なことやってられませんよ。それにステラ様は長年我慢されてきたんだから」


 長年と言ったって私よりは短いと思ったが、話を先に進めることにした。


「で、どうやらそこで力は消えたらしいの」


「まあ、そうですか。やっぱり、処女(おとめ)かどうかが境い目なんですかねえ」


「ということは、よ。私もいよいよ明日、聖女ではなくなるということなのよ!」


 意味はないが立ち上がり、拳を握りしめる私。迫力に押されてメラニーが拍手を送る。


「そのためにメラニーに話も聞いたし、女性向け教本も見たし、事前学習はバッチリ。でもでも、やっぱり、初めての時は男性に任せておけばいいのよね……?」


 チラリとメラニーの顔を見るが、彼女は首を横に振った。


「アイリス様、()()エドガー様ですよ? 堅物でお馴染みの! 絶対、女性経験ゼロじゃないですか。アイリス様がリードしてあげないと、何もないまま朝を迎えてしまうかもしれませんね」


「えええ、そんな、無理ぃ……」


「何言ってるんですか。七十も歳上なんですから頑張らなきゃ」


「ふえぇ」


 私は再び椅子に腰を落としてがくりとうなだれた。そんな私の肩をメラニーがヨシヨシと撫でる。


「……ねえメラニー。やっぱり、ラルクール家に一緒に来てくれない? こういう話はメラニーじゃないとできないわ」


 上目遣いで甘えてみたのだが、メラニーはうんと言ってはくれなかった。


「大丈夫ですよアイリス様。しばらくは寂しいかもしれないけれど、アイリス様ならきっと新しい環境でもいい人間関係を作れますよ。未来の侯爵夫人として頑張って下さいね……時々は愚痴を聞いてあげますから」


 微笑みながらそう話すメラニーの顔が涙で見えなくなった。


 今日だけは幼いアイリス・ホールデンとしてメラニーに甘える私なのだった。


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