エドガーの帰還
それから六年、月に一度お互いの家を行き来してのお茶会の時間。それを積み重ねて私たちは愛を育んできた。今日、エドガーが討伐隊で成果を上げて帰ってきたから、これからは結婚準備に専念出来る。
「ねえメラニー、エドガーが無事に帰って来てくれて嬉しいわ。ああ、早く顔を見せに来てくれないかしら」
浮かれてメラニーに話しかけたが彼女の返事は冷たかった。
「今日戻られたばかりでしょう? 王宮での報告やら慰労会やらでお忙しいからまだ無理ですよ、アイリス様」
「だって! まずは愛する婚約者に無事な姿を見せるものじゃないの?」
「もう成人なさった一人前の騎士様なんですよ。いろいろと大人の社交があるのでしょう。諦めて今日はもうお休みなさいませ」
それもそうだ。諦めて綺麗に結った髪を解こうとしていると部屋がノックされ、執事の声が聞こえた。
「アイリス様。エドガー様がお会いしたいと玄関ホールでお待ちです」
「まあ! エドガーが?」
慌てて立ち上がり、ドアへと向かう。
「パーティーを少しだけ抜け出して来たとのことで急いでおられます。5分ほどしかいられないと」
ドレスを摘み裾を持ち上げて廊下を走って行く私の後ろを走りながら執事が説明した。そのまた後ろからメラニーが追いかけてくる。
「アイリス様! 走ってはいけません!」
注意されるがそんなこと構っていられない。
「エドガー!」
大階段に着くと、玄関ホールに立っていたエドガーが私を見上げた。騎士の装束で、日に焼けた精悍な顔に嬉しそうな笑顔を浮かべて大股で近付いてくる。
「アイリス! 無事に帰ったよ!」
階段を駆け降りる私を途中で出迎えて抱き上げると、ふわりと回転させてそっと床に下ろしてくれた。
(素敵……! こんなにスマートな身のこなしができるようになったなんて。それにずいぶ逞しくなったみたい)
「お帰りなさい、エドガー! すごい活躍だったんですってね! お父様から聞いたわ」
「アイリス、君のおかげだよ。君が勇気づけてくれたから思い切って魔獣に向かって行けた。今はパーティーの最中だけど、どうしても今日中に君に会いたくて……王宮から馬を飛ばしてきたんだ」
「まあ……エドガー、嬉しいわ! 私も会いたかった」
彼の腕の中にすっぽり収まって見上げる私と目が合ったエドガーは、慌てたように身体を離す。もう、照れ屋さんなんだから。
「ごめん、アイリス! あまりに嬉しくて抱きついてしまったよ。許してくれる?」
「もちろんよ。本当はずっとこうしていたいわ」
エドガーは青い瞳を細めて微笑み、私を見つめた。
「討伐隊に参加して、私もようやく一人前の騎士になれたよ。君と結婚式を挙げる資格が充分にできたと思う。これから、二人でいろいろ準備していこう」
「ええ、エドガー。楽しみだわ」
「それじゃあアイリス、名残惜しいけど……王宮に戻らなくちゃ。遅くに訪ねてきてごめんね。アイリス、良い夢を」
「ありがとう、エドガー。来てくれて本当に嬉しかった。また明日ね」
マントを翻してエドガーは出て行った。その後ろ姿を見送りながら私はほうっと溜息をついた。
(戦いがこんなにも少年を大人にするなんてね……泣き虫だったエドガーが今日は本当に素敵な男の人になっていた。やっぱり私の目に狂いはなかったわ。彼を選んで正解!)




