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前世は大聖女でした。今世は普通の令嬢として、泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!  作者:
本編

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48/63

最初で最後の

「ぐぅっ……!」


 矢は白い光を放ちながら、左胸に深く突き刺さった。そこから黒い瘴気が溢れ出てくる。私は走り寄ってその瘴気に手を翳し浄化の光を当てた。


「なぜ打った? 僕はエドガーなのに、なぜ。彼が死んでもいいのか」


 胸を押さえ、低く苛立った声でディザストロが呻く。瘴気は私の浄化の光を飲み込もうとしてさらに溢れ出してくる。


「アイリス!」


「アイリス様!」


 ようやく動けるようになったアンドリューと、エレンが私の側に来た。アンドリューは剣を構えて待機し、エレンは私と共に浄化を始める。ここで浄化してしまわないとディザストロはエドガーの身体を捨ててまたどこかへ行ってしまうだろう。私たちは一秒たりとも気を抜かず浄化の光を出し続けた。妖精族も精神感応(テレパティア)を使って私やエレンに力を注いでくれている。

 

 黒い霧と白い光が互いを飲み込もうと戦い続け、ついにディザストロが苦しげに地面に膝をついた。


「くそっ……人間の……聖女なんかに……」


 胸に刺さった矢が、さらに眩しい光を放ち始めた。光は黒い霧を飲み込み、全身を包んでいく。


「ぐわあぁぁ……!」


 ディザストロは胸を掻きむしって苦しみ、仰向けに倒れた。矢がパンと音を立てて弾け、黒い小さな()()が飛び出してきた。そのまま飛んで行こうとしたそれをアンドリューが剣で一刀両断にすると、か細く甲高い声を上げて消えていった。


「終わったのか……?」


 辺りに立ち込めていた凶々しい空気は感じられなくなっていた。清浄な、朝の気配だけがそこにあった。


 私は目を閉じているエドガーの顔を見つめる。その顔は青ざめてはいるが、いつものように美しい。だが、既に呼吸は止まっていた。


「エドガー……」


 矢の傷口は浄化の光で塞がっている。私はエドガーの胸を押し始めた。もしかしたら、また心臓が動き出すのではないかと。


「エドガー、起きて……!」


 グッ、グッと力を込めて何度も何度も、もう一度心臓が動き出し呼吸を始めるように。だけどそのサファイアの瞳が開くことは無かった。


「エドガー……もう一度目を覚まして……」


 アデリンとして天寿を(まっと)うした後に生まれ変わり、今度こそ恋をしたいと思った。そしてエドガーに出会い、恋をし、結ばれることを夢見ていた。だけど今世でもその願いは叶うことはないというのか。


 私は胸を押すのを止めてエドガーの頬を撫でた。まだ生きているかのように綺麗なその頬を。そして、愛を込めて最初で最後のキスをした。


(愛してるわ、エドガー……あなたがいないのなら私は修道院へ行く。一生、あなたのために祈り続ける)


 初めて口付けたエドガーの唇は柔らかくて、そして冷たかった。それが悲しくて涙が溢れて止まらなかった。私はエドガーの胸に縋りつき、すすり泣いた。


 どのくらい時間が経ったのだろう。いや、もしかしたら一瞬だったのかもしれない。私はトクン……という微かな響きを感じた。


(これは……私の心音? それとも)


 もう一度しっかりと胸に耳を押し当ててみる。トクン……トクン……エドガーの心臓から音がしている! 私は起き上がってエドガーの顔を見た。


「エドガー?」


 アンドリューとエレンも心配そうに見守る中、瞼が少しずつ開き、春の海のように穏やかな青い瞳が見えた。


「……エドガー!」


 弱々しくはあったがエドガーは微笑んだ。


「アイリス……」


 ゆっくりと手を上げ、私の頬に触れる。


「ごめんね、また泣かせてしまったね……」


 私は頬に触れたエドガーの手に自分の手を重ねて頬を押し当て、泣き笑いをしながら言った。


「そうよ、エドガー……もう一生分泣いたわ。これ以上泣かせたら許さないんだから……」


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