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前世は大聖女でした。今世は普通の令嬢として、泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!  作者:
本編

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エドガーとの別れ

「このまま転移魔法で一緒に王都に連れて行ってもらおうと思ってたのにな。まだこの身体に慣れてないから瞬間移動はできないんだよね」


 ()は両手を頭の後ろで組んで、背中を気持ちよさそうに伸ばしている。

 

「どうした? アイリス、エドガーがどうかしたのか」


 アンドリューの問いに答えることなく、私はエドガーに尋ねた。


「……あなた、ディザストロね」


「なんだと……!」


 アンドリューが剣を抜き、臨戦態勢に入る。だがエドガー、いやディザストロは平気な顔をしていた。


「エドガーはどこへ行ったの」


 私は震える声で問いかけた。


「中で眠ってもらってるよ。いずれ僕に侵食されて彼の心は消えていくだろう。君らが僕の本体を消してくれたから、身体を失った僕はエドガーの身体に戻ってきたのさ。以前入った時に僕の欠片(カケラ)を残しておいたからね」


「あなたはその身体で何をするつもりなの……?」


 よくぞ聞いてくれたとばかりに、ニヤリと()は笑った。


「この身体でも瘴気を出すことはできるんだよ。ほら」


 手のひらをこちらへ向けると、そこから黒い瘴気がブワッと噴き出してきた。


「まだ身体が馴染んでないからできないけど、たぶんそのうち火も吹けるようになると思うな」


 フーッと息を吹きその熱さを確かめている。そして髪をかき上げうっとりと頬を撫でた。


「そしてね、この美しい身体を使って国中の女に魔獣を産んでもらうつもりさ。ふふ、見物だよねえ。綺麗な男との子供を身籠ったつもりが、魔獣を産んでしまうなんて。あ、でも産まれる時には腹を喰い破って出てくるだろうから、もう死んじゃってるか」


 ひっ、とエレンの口から小さな悲鳴が漏れた。恐らく、キャスリンが反応したのだ。エドガーの口から放たれる醜悪なイメージに耐えられなかったのだろう。それを見たアンドリューは怒りに燃える目を向けた。


「ならば今ここで殺すまでだ」


 アンドリューが構えていた剣で斬りかかろうとするのを、私は思わず止めてしまった。


止まれ(フェルマーレ)!」


 剣を振り上げたまま身体の動きを止められたアンドリューは叫ぶ。


「アイリス! 止めるな! こいつはもうエドガーじゃないんだ! 今やらなければいけないんだ!」


「わかってるわ! でも、エドガーはまだ生きているかもしれないの。あの中にまだ、……」


 涙で声にならない。殺さなければ、と頭ではわかっていても私の心が拒否をするのだ。


「ふふふっ、思った通りだ。君たち人間って奴は、大切な人を殺すことはできないんだよね。アイリスもさあ、気付かなければ幸せな気分で結婚できてたのにね。まあ中身は僕だけど。ああ、魔獣を身籠った君を見てみたかったなあ」


 人の心を踏みにじるディザストロを許せない。私は背負っていた弓を取り、矢をつがえた。


「打つのかい? まだエドガーはここにいるよ?」


 手が震えた。邪悪な表情をしているが、この中にエドガーもいるのだ。


「アイリス、私が打ちます」


 エレンも同じように矢をつがえようとしたが、十歳のキャスリンの身体ではそれは難しかった。


「アイリス! 私の魔法を解け! 私が、辛い役目は私がやるから!」


 アンドリューが必死に叫んでくれている。ありがとう、アンドリュー。私のことを思ってそう言ってくれてるのね。でもこれは、私が――やらなければならない。


 距離は近い。打てば必ず当たる。でもどこに打てばディザストロは消えるか、それがわからない。あいつの欠片(カケラ)はエドガーのどこに残っているのか……。私は迷っていた。


「アイリス!」


 突然エドガーの顔が変わった。私にはわかる。これは、本物のエドガーだ。


「エドガー!」


「アイリス、そのまま打て。今、あいつは自ら意識を手放した。私が命乞いをすると思っているんだ。そうすればアイリスは私を打てないだろうと。だがアイリス、必ず打ってくれ。心臓だ。心臓にあいつがしがみついている。そこを打てば私と共にあいつも消滅する」


「エドガー……イヤよ……」


 涙でグシャグシャになった顔で首を振る。やっぱり、打てない。


「だめだアイリス! やるんだ。この世界のため、君に打たれるなら私は本望だ。さあアイリス、顔を上げて。ここを狙うんだ」


 エドガーは左胸を指差し、私は泣きながら狙いを定める。


「そうだ、アイリス。よく引き絞って、しっかり打つんだよ。君ならできる」


「エドガー……愛してるわ」


 涙でエドガーがよく見えない。いつも私に見せてくれていた、あの優しい笑顔で彼は言った。


「アイリス、愛してるよ……誰よりも」


 エドガーの顔がガクンと落ちた。そして再び顔を上げた時、その顔は邪悪なものに変わっていた。私は力を込めて矢を放った。

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