第十話 忍び寄る影
先に言っておきます。
急展開です。同時に、謎展開です。
作者が狂ったわけではありません。ご安心を。
それでは、第十話お楽しみください。
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2019/9/28 A.M.08:00
「あれ、そういえば昨日、情報交流もするはずだったんだよな...。」
少し気づくのが遅かった。
あまりにも楽しい時間だったため、情報交流のことをすっかり忘れていた。
それだけじゃない。
「主がデザート持ってきてたんだっけ。いろいろ忘れすぎだろ。」
結局昨日は、パスタを食べながら談笑し、食器を片付けた後、三人でテレビを見た。
やるべきこともやらずに、楽しむだけ楽しんだ。
「ミチルだったら、こういう時にこそ、7INEのグループトークが役に立つんですよ!とか言って、ドヤ顔するんだろうな。」
そう思い、7INEのグループを開くと、ノートに新しいメモが加えられていた。
主「これからは全員、下の名前で呼び合うように!!」
「分かってるよ。一番分かってないのお前だろ...。」
わざと、画面に向かってそう言ってみた。
下の名前で呼び合うという決まりは、ミチルの提案で決まった。
まさに昨日の出来事である。
「さてさて、本題に入らなきゃ...。」
翔「なぁ、昨日情報交流忘れてたよな?いつする?」
主「あ、デザート忘れてた!」
主からはすぐに返事が返ってきた。
ただ、会話になっていないが。
翔「デザートも忘れてたな。んで、情報交流は?」
主「うーん、日程がなぁ...。次に時間を確保できる日、実際まだわからないんだよね」
主だって、忙しいのだろう。
あんな子どもっぽい感じをしていても、社長で、一つの企業を営んでいる。
なかなかの人間だと思う。
扇「あの、今晩にでもグループトークで話せませんか?本当は会って話す方がいいのでしょうけど、早めに話し合ったほうがいいとも思うので」
主「まぁ、そうだね。晩なら、暇だし」
翔「決まりだな。じゃあ、やることあるから、とりあえずドロンする」
そう書き込んで、携帯をしまった。
ミチルの話し方がいつもより硬い気がした。
「まぁ、まさかとは思うがな。弟がいるとか、言ってたけど...。」
デザートは、自分一人で食べてしまうことにした。
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2019/9/28 A.M.11:30
今日は、初めての出勤日。
田舎から東京に出てきて早くも半年。
やっとの思いで就職することができた。
「いやー、緊張するなぁ...。」
就職先は、A's電機。
昔からゲームや機械類が大好きだった自分にとって、まさに適しているだろう。
「やっぱり、上司とか怖いのかな...。優しい人が多いといいな。」
自分は少々内気な部分があるが、それでも東京に出てくるとなって、ここまで頑張ってきたんだ。
きっと、うまくいく。
もう一度ネクタイを締め直し、身なりを確認し、いざ社内へ。
「おはようございます!」
「......おはようございます。新人さんですか?」
社員の方らしい女性が答えてくれた。
会話になると、少し嬉しい。
「あ、はい。進藤といいます!よろしくお願いします!」
完璧だ。自分で思い描いていた通りの挨拶ができた。
「あ、えぇと...配属先はどの部署ですか?」
「はい!商品開発部です!」
「でしたら、ここの通りをまっすぐ進んでいただいて、突き当りを左に......。」
「あ、場所を教えていただけるんですか?ありがとうございます!」
「あの、恐縮ですが、ここはエントランスですので、周りの方々の迷惑にならないよう、お静かに願います...。」
「あ...すいません...。」
とまぁ、田舎でもこんなことばっかりが続いたせいで、クビになったわけだ。
どうしても、途中で熱くなってしまうんだよな...。
「あ、新人ちゃん?おいでおいでー。」
「どなたですか?」
「あ...!社長ですよ...!」
「ははは、そんなにかしこまらなくてもいいのに。」
やっべ、いきなり社長に出くわして、しかもどなたですかー、だなんて聞いちゃったよ。
「しゃ、社長!?え、今日からお世話になりま...。」
「進藤君でしょ?採用したのは俺だし、分かってるよ。じゃあ、この子案内するから。玄関は任せたぞ!」
問題なかった...なかなかオープンな会社なのかな、と思ったが、今時珍しいなと言った方が、いいのだろう。
「あ、はい。」
受付の人的な立ち位置なのかな、この女性は。
なら、あまり関係なかったのか...。
「ついておいでー、進藤君。」
「あぁ、わかりました!」
今日から充実した東京ぐらしが始まる予定だったのに、最初からしくじりまくっている。
この先どうにかうまくやらないと...。
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「うんとね、今日から君には商品開発部の一員として働いてもらうわけだ。」
そんなことはわかっている。
見たところ、身なりはきっちりしていて、見た目はそこまで悪くない。
そこそこ稼げているのだろう。
ただ、話し方が...。
「そこでね、君に部下を三人プレゼントするから。上手に使ってあげて。それと、一応君は一部隊のリーダー的な立場になるんだけども...。」
へ...?就職した瞬間上司とかどんな状況?
「部隊のリーダー達をまとめるリーダーのところに今から連れて行くから。」
挨拶しろってことか。それにしても、なんで僕なんかが、こんなに優遇されているんだろう...理解できない。
三人の部下持ち上司...明らかに、就職したてホッカホカの新人ちゃんの立場ではない。
ついでに、この社長はとてもチャラいような印象がある。
果たしてこんな人について行って大丈夫なのか...?
「おーい、連れてきたよ。今日からの新人さんだから、いろいろ教えてあげて。はい、これ資料。」
「え、急に来たと思ったら...。私だってまだ教えられてもいいくらいなのに。」
「まぁまぁ、そこは君のスキルでどうにかしてくれ。じゃあ俺、今日はもう帰るから。頑張ってね!」
「うぅ...お疲れ様です。」
本当に大丈夫か?この社長は...まだ昼の12時だというのに、帰っちゃった。
なんで回るんだ、この会社...?
「えと、進藤です。今日からお世話になります。」
「私は扇。少し前に、商品開発部のトップになったばかりだから、あまり教えてあげられることも少ないけど、よろしくね。」
少しおっとりとした感じの印象を受けた。
顔は、まぁ、美人だね。という感じ。
身長が低めっていう所と、小顔なところがなんとなく女性らしさを醸し出している。
メガネが似合いそうだな。
ただ、少し前に、というセリフには少し引っかかった。
「えと、少し前とは、どのくらい前なのですか?」
「ちょっと言えないかな。いろいろあったんだ。」
思ったことがすぐ口に出てしまう性格なもので、たまにこういう事態になる。
なんというか、場の雰囲気が崩れるというか...。
「あぁ、はい。申し訳ございません...。」
「謝らなくていいのよ。じゃあ、まずは何をしたらいいのか説明するね。」
「あ、はい。」
僕は、メモを取るためにノートとボールペンを用意した。
「えと、商品開発部の中にも、いろいろな部門があるわけなんですけど、あなたが配属されたのはアイデア部門です。いろいろなアイデアを出してもらいます。」
「はい。」
「以上です。」
「へ?」
「...だから言ったんですよ、社長にも。絶対こういう反応をされるから、って。私も最初そうなったわ...。」
えぇ、えぇぇ!?社長さんゆるっゆるだな!!
大丈夫かよ、おい。
もちろん、ノートには一字も書き込むことがなかった。
「え、本当にそれだけなんですか...?」
「うん。一日中デスクワーク。月に一回アイデアシートを提出してくれるだけでいいよ。今はね。」
この会社がなぜ回るのか、という謎がますます深くなっていった。
「たまーに、帰省とかで人が減っちゃう時があるんだけど、そういう時には工場の方に回ってもらうこともあるんだよね。でも、最初の一週間か二週間は、大丈夫だから。」
「それは、扇さんもやることがあるんですか...?」
「あるよ。人数の埋め合わせだー、とかって言ってた。社長もたまに手伝ってくれるらしいんだけど、私は見たことないかな。」
...大丈夫か。俺の東京ぐらし。
始まって早々瀕死状態に陥っているような気もするが...。
まぁ、これも仕方のないことだ。
ーーなんせ、仕事だから。
「そうそう、生まれはどこ?」
「はい、北海道です。〇〇町っていう、山と山の間にある小さな田舎なんですけど...。」
ーーって言っておく。
「へぇー、親孝行のために上京してきたの?」
「そうです。やっぱり、貰った恩は返さないと...。」
ーーって言っておく。
「まぁ、大変なこともあるだろうけど、頑張ってね。」
「はい。足を引っ張ってしまうこともあるかもしれませんが、これからよろしくお願いします!」
ーー上っ面だけの挨拶、ご苦労様。僕。
「えっと、あ、部下がつくんだ。確かに、この三人は使う側より使われる側の方が輝きそうだなー...。」
...?少し前にトップになったばかりだ、という人間の発言じゃないぞ?
「やっぱり社長ってそういうの分かるんだな...。」
あ、社長が言っていた言葉なのか。
いや、それでも納得ならん。
あの社長からそんな言葉が出るところを、全く予想できない。だって、あんな社長が...。
うちの社長の方がよっぽどましだぞ。
「じゃあ、これから部下三人に自己紹介してもらいましょう。とりあえずここで待って。今呼び出しかけるから。」
そう言って、扇は受話器に手をかける。
うーん、少々微妙な感触だが...この会社で間違いないはずなんだ。
うんうん。気合を入れていかないと...。
せっかくの人生なんだ。楽しんで行かなきゃ。
とりあえず今は周りに合わせて...。
ーー僕の仕事は、まだまだ始まっちゃあいないんだ。
新キャラの進藤さんです。これから彼のこともよろしくお願いします。いろいろなものを抱えていそうな感じですね。これから三人にどう関わっていくのでしょうか。
それでは、次回も良しなに。