第5幕
高木と賢一が入った部屋は単なる地味な小部屋であった。大きな物置と大きな本棚それと長机と6つの椅子が置いてあるのみだ。広さでいえば数回入ったことのある生徒会室の広さ程だがどこか寂しい雰囲気を漂わせている。部屋に入るなりすぐ高木は物置や本棚に置いてある物から詮索をしはじめた。役員に関する資料のようなものを探しているのだろうか。一生懸命手探りで探す高木の姿が目に焼きつくが賢一は思わず思ってしまったことを口にした。
「あの……ここ入ってもいいのですか?」
「いいに決まっているよ。伊達君は図書室の役員だし私は生徒会だよ」
「それにここでそんなふうに色々物をいじってもいいものなのですか?」
「だからいいんだって。私は生徒会だよ! 何一つ問題にならないよ」
「そうですね……何だかすいません」
「私が大丈夫と言ったら大丈夫なの!」
「はい。ここは先輩のこと信じますね」
「うん……あ! これなんかそれっぽい!」
高木が左手に『みんなの図書室』という冊子を持って、賢一に見せた。
さっそく受付に戻って『みんなの図書室』を読みだした。最初は室内のルールや本の貸出の仕方などが記されており、役員向けというよりも図書室を利用する人向けのことがずっと記されていた。「これは違うかも」と高木がなんとなくさじを投げ出そうとした時に最後の1ページで図書室の室内の案内表のようなものが載っていた。そこには受付の位置や机の位置もハッキリと図で表記されて本棚の番号に関してもキッチリ載っていた。
「うん。大丈夫。本棚の番号と場所が把握できたら返していけるよ」
「え? これを見ただけで先輩はわかるんですか?」
「わかるよ。例えばこれは『あ―301―7』だから、このあたりにある本のラベルに301って書いてあるヤツがあるはず……ほら! ここだ! ここにある本の横に置いていけばいいのね! ここにある本はみんな『あ―301』でしょ?」
「あ、たしかに。こんな地図みたいなのをみるだけでわかるなんてすごいですね」
「こんなの勘でなんとかなるものよ!」との高木の強気の発言から賢一たちの本の返却作業が始まった。賢一は作業のながれがイマイチわからなかったので作業自体は高木主導の二人三脚で取り組んだ。
三十冊という数なのでかなりの時間がかかったが段々とやっていくうちに本の返却の仕方が賢一にもわかってきた。やがて残り一冊となって賢一がその本の場所を探し当てて作業は終わった。賢一にも本の返却ができるようになったようである。それを感じて何かを思ったのか作業を終えた賢一を微笑んで眺める高木がそこにいた。学び合うことこそが最高の作業なのかもしれない。
気がつけば夕方の5時20分を過ぎていた。図書室の使用は原則5時までで役員は遅くても6時すぎ頃には出ないといけないという決まりがあった。高木が知らない規則だが賢一はここ最近になって悟より教えてもらったところだった。
「あ! もうこんな時間!」
賢一が何かを言おうとする前に高木が賢一の言おうとした言葉を使った。人が望むことを自然とやっとのける先輩である。ふと賢一はそんなことを感じて感謝の気持ちをそのまま言葉にした。
「あの……手伝ってもらって、ありがとうございます」
「いいえ。一応文芸部担当ですから。さ、ひと仕事終えたし、帰ろうか!」
「あ……はい。よろしくおねがいします」
ドシャ降りの雨はまだ続いていた。校門をくぐったところで高木は光南の方に住んでいると話して信号を通り過ぎたところで別れることにした。別れ際に高木の首元にかけてあるヘッドフォンが賢一の目に見えたが何も言わずにいた。何とも不思議な先輩だった。家に帰ってベッドに横になって今日の出来事を賢一は振り返る。図書室であれほど濃い時間を過ごしたのは悟に文芸部の話をもらった時以来だろう。いやそれ以降も図書室で彼とは色々あったが……。
そういえば高木は明日も図書室に来ると言っていた。悟は明日も学校を休むのだろうか。あれほど人柄が良い先輩である。きっと悟も仲良くしてくれるだろう。そうというよりも高木と悟を出会わしてみたい。そんな願望にあふれそうだ。
生徒会といえば伊東や三澤の印象などがあって最悪なイメージばかりだったがそればかりでない。今日はそう感じられる出来事が起きた。陸上部を辞めたあの日あのときに出会った優しい先輩をどこか幻のように感じたのだから夢をみ続けたのだろう。しかしあの先輩は現実にいた。再び会えたのである。
賢一は自分が何かの主人公に思えてきた。そんな満足に酔いながら目を閉じた――




